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船上のラブストーリー前編  作者: サトリ
1/1

変わり者セレブの恋

はじめまして、サトリです。初めての投稿になります。あまりうまく書けなかったかもかも知れませんが楽しんでもらえたらうれしいです

上品な装いで多くの人たちがきらびやかなシャンデリアの下。思い思いに食事を楽しんでいた。一流シェフの料理が並ぶテーブルから好きな料理を取り高級なワインやシャンパンを楽しみながら談笑をする人たちが多いなか一人で食べている女性がいた。ここは世界一周用豪華客船の船内でこの船の初の世界一周を無事終えたお祝いのパーティーだった。


「はぁぁー…ビールが飲みたい…料理ももっと雑なのがいいのに…子持ちししゃもとか焼きナスとか」


美しく着飾ったどこかの令嬢のような姿とは裏腹に言ってる独り言は親父のようなこの女性は宝山ほうざん 美嶺みれい27才。日本でも5本の指に入るほどの大手建設会社である宝山建設の社長令嬢である。


「本日のパーティー楽しんでおられますか?美嶺お嬢様」


「ええ、この度はお招きいただきありがとうございます。船長さん。とても、素敵な船ですね…こんな、船で世界一周できたら楽しいでしょうね」


彼女は愛想よく挨拶をしたのはこの船の持ち主である。武内たけうち 海人かいと 宝山グループに勝るとも劣らない武内財閥の社長である。


「船長ですか。そのように呼ばれると少し照れますね。美嶺お嬢様がお望みとあらばいつでもご招待いたしますよ。素晴らしい旅をお約束しましょう。最先端の技術で作られたこの船なら船酔いの心配もありませんし。何より一流のシェフを専属で雇ってますので美嶺お嬢様も満足できるかと。」


「まあ、それは素敵ですわね。でも、残念ですが。私はまだいろいろ未熟ですので今は勉強しなきゃならないことがたくさんありますので…いつか、私がこの船に相応しいレディになれたらその時またお誘いしてくれたらうれしいです」


「相変わらず謙虚ですね。あなたのその美しい姿はこの船のシャンデリアさえ霞んで見えるくらいですのに」


(本当にめんどくせー奴だな。40後半の紳士気取りのオッサンにこちとらキョーミねえんだよ。そろそろ気づけよ)


美嶺は心のなかでそう叫んだ。武内は未婚で以前から美嶺に積極的にアプローチしていた。美嶺はかなりの美人でスタイルもいい。いいよる男は多い。しかし、その内面を知るものは両親くらいだ。なんとか武内をやり過ごすと再び料理を食べ始める美嶺


「真鯛のカルパッチョ…アワビのステーキ…はあー…普通に刺身とかで食べるって選択肢なかったのかな」


さっきから出ている料理に文句ばかり言っているが美嶺は決してグルメという訳ではない。きどった料理をあまりこのまないのだ。とは言えお腹が空いていることもあり仕方なく食べていると少し先のテーブルで一人食事をする男性に目を向ける


「確かあの人は…石和総合病院の御曹司だったけ。あの人も医者らしいけど…あいかわらず冴えないね…」


決して太っているわけではないが丸顔が彼の印象をポチャとしたように見せる。彼の名前は石和いさわ 賢吾けんご石和総合病院の院長の息子だ。石和とは何度か大きなパーティーで会ったことはあるが挨拶程度でちゃんと話したことはない。


「あの人もこういう所苦手なのかな。」


「おい、美嶺。お前もう少しまわりに愛想よくできないのか?」


「何よ。お父さんがどうしても来てくれって言うから来てあげてるんじゃない。それで文句言われる筋合いないわ」


美嶺に声をかけたのは美嶺の父宝山ほうざん 雄三ゆうぞう宝山建設の社長だ。


「あのな、来ればいいという訳じゃないんだ。もう少し私の面子を立ててほしい」


「お断りよ。せっかく、貴重な休日を裂いてきてあげたのに…気分悪いから外に出るわ」


「待ちなさい。美嶺」


美嶺の気分悪いは酔ったからとかそういう理由ではない。単純に頭にきたからという意味である。いっけん我が儘なようにも見えるが美嶺は父親の会社とは関係ない出版社で働いている。ここのところ仕事が忙しくなかなか休みをとれなかった。それなのにわざわざ父親の顔を立てて来たのにあんな風に言われたのが面白くなかった。デッキにあがり夜風に当たって頭を冷やす


「来るんじゃなかった…これならアパートでビール飲みながらテレビ見てた方がよかったよ。」


美嶺は父からの援助をいっさい受けてない。自分が働いた給料だけでキチンとくらしていた。


「あの…大丈夫ですか。これ水です。」


突然美嶺にペットボトルの水を渡してきた


「石和さん。」


「気分が悪いと言っていたので。これを飲んで少し風にあたるといいですよ。」


どうやら石和は本当に美嶺が体調をくずしたと思ったのだ


「ありがとうございます」


美嶺がお礼を言って水を受けとる


「いえいえ、僕もブレイクタイムにしようと思って来たので。」


そういうと石和は持ってたクラッチバックから何かを出した。それは


「ビールとするめ!」


思わず叫んでしまう美嶺喉から手が出るほど欲しいと言う目だったのだろう。キョトンとする石和を見て我に帰る美嶺。


「ごめんなさい…」


石和はプラスチックのコップを二つ出すと500mlのビールを注ぐと


「ご一緒にどうですか?」


そう言って美嶺にビールを渡した。


「マジで!!」


そう叫んでビールを受けとる


「フフフフッ」


美嶺の反応に笑い出す石和


「うっ……」


「いや、失礼。意外な一面ですね。宝山さんはワインとかチーズとかをたしなんでるイメージだったので」


「な…何よ!いけない!私がビール飲んじゃ」


もはや開き直ったのか通常モードになった美嶺が石和に言う。


「いいえ、そんなことないですよ。ちょっと意外だっただけです。さあ、飲みましょう」


そう言われ美嶺がビールに口をつけると石和もビールを飲む


「あーっ!最ッ高ーー」


「染みるなー」


ビールを勢いよく飲んだあと二人で叫んだ。


「さあ、スルメもどうぞ…」


石和にすすめられスルメに手を伸ばす


「いいねーこれでいいのよ。ビールにスルメこれがあれば十分よ。手間暇かけた料理が悪いとは言わないけどさ。私はこれがいい。」


先ほどの怒りはどこへやらすっかりご機嫌になった美嶺が言った


「僕もです…」


「ねえ、スルメもう一つもらっていい?」


「どうぞ」


美味しそうにスルメをかじりビールを一気に飲み干した


「美味しかったーごちそうさまー。石和さんありがとね。私戻るわ。少しは父孝行しないとね。」


「ええ、僕も少ししたら戻ります」


石和のお陰で少しだけ気持ちが落ち着いた。会場に戻る。声をかけてくれる人に丁寧に対応し。父からも最後は感謝された。父の車でアパートまで送ってもらい部屋にはいるなり着替えると棚からこの前買った子持ちししゃもをコンロのグリルに入れ火をつける。そして、冷蔵庫からビールを出した


「くうーー美味しい」


口の中に広がる心地よい苦味。ほどよい酔い。ようやくお酒を飲んだ気持ちになる。しばらくして焼いたししゃもを皿に乗せるとそれを持ってリビングに行きソファにドシッと座った。


「石和さんいい人だったな。連絡先くらい聞いとけば良かった」


もしかしたらいい飲み友達になれたかもしれない。と美嶺は思っていた。いわゆるお嬢様学校出身の美嶺に学生時代の友人で一緒に居酒屋に行けるような人はいないし。職場でも自分を高嶺の花のように見る人が多く気軽に飲みに行けるような人はいない。そのため晩酌はいつも一人酒。

ししゃもをかじりビールを飲み干すと美嶺は立ち上がる


「まあ、後悔してもしかたないし。今日はシャワー浴びてさっさと寝よう。」


石和とはいずれまたどこかのパーティーで会うこともあるだろう。その時に声をかければいいと思ったのだ。


それから、一週間後仕事も一段落して久々の連休。


「海に来るの久々だな。よーし、釣るぞ」


釣竿の入ったバックとクーラボックスを車のトランクから出すと近くに止まってる船へと駆けていった。


「すいません。予約してた宝山ですが」


「はいはい、宝山さんね。乗ったらお好きな所にどうぞ」


釣り船の船長が予約を確認すると美嶺は慣れた感じで船に乗り込むと適当なところに座り竿に仕掛けをして餌を用意する。


「鯵たくさん釣れたらどうしようかな。アジフライもいいけど新鮮なんだしたたきも悪くないよね。」


釣る前から食べることを考えていると美嶺のスマフォがメールが来たことをしらせる


「誰からだろう…こんな、朝早く…ゲッ!!」


メールの相手は武内だった。


「今夜友人が経営してるフランス料理のレストランに招待されたのですがご一緒にいかがですか。」


「お誘いは嬉しいのですが今夜は予定が入っておりまして申し訳ないのですが行かれません。また、誘ってください」


手早くあたりさわりのないメールを入力し送信した。


「二度と誘ってくんな!」


中指をたてそう心の中でで叫ぶ。

別に美嶺は武内を嫌っているわけではない。どちらかと言えば別にどうでもいい存在と言った方がいい。確かに40代という年を思わせないほど見た目は若いしルックスもよく落ち着きのある人だ。しかも40才を前にしてすでに武内財閥の社長になり会社の発展に大きく貢献した実績もある。しかし、美嶺には一つも魅力的には見えなかった。最初に武内と話をしたときにわずか3分でつまらない人と思ってしまったからだ。エリート特有の過去の武勇伝や自慢話こそしてこないが。こちらの好きそうな物を勝手に推測して自分もそれに合わせ盛り上げようとする。武内の話はどれも美嶺には引っ掛からなかったからだ。酒はビール。つまみはししゃも。そんな美嶺にワインやフランス料理のフルコースの話をしてもまるでのれんに腕押し馬の耳に念仏なのだ。


「せっかく、すがすがしい気持ちでいたのにな…まあ、いつまでも引きずっててもしかたない今日は釣るぞ」


仕掛けを終えてあとは出港してポイントに着くのを待つばかりだ。


「いけない、ハサミ忘れてきちゃったか…」


隣で仕掛けを作ってる男性の呟きを聞き漏らさなかった美嶺は自分のハサミをとる。釣り人は助け合いが彼女の釣り道の一つだった。


「よかったらこれ使ってください」


「あっ…ありがとうございます。助かります。え、宝山さん!」


突然名前を呼ばれ隣を見るとそこにいたのは石和だった。


「石和さん…まさか、こんなところで会うなんて。」


石和が手慣れた様子で仕掛けをセットすると船長の合図とともに船が沖へと向かい出港した。


「好きなんですか釣り?ずいぶんと手慣れてましたけど」


「はい、学生の頃からやってる数少ない趣味です。といってもこうして釣り船に乗って鯵や鯖といった魚しか狙わないんですけどね。僕は車の免許を持っていないので遠出はできませんから。美嶺さんも釣りよくやるんですか?」


「私は社会人になってからですね。釣り番組を見てたらやってみたくなっちゃって。一度やったらもうやめられませんよね。」


「わかります。それ」


潮風に辺りながら広い海を揺れる釣り船に乗りながら見るのはなんとも気持ちがいい。美嶺にとってはこの移動時間も釣りの楽しみの一つだった。


「着きましたよ。始めてくださーい」


船長がポイントに到着したことを伝えると美嶺と石和は釣糸を落とす。この待ち時間のわくわくがたまらない美嶺。いまかいまかと当たりを待つ


「あっ…来た。」


石和の竿先が動くリールを巻いてゆっくり引き上げると二匹の大きな鯵が海面から姿を表した


「すごい!石和さん一番乗りじゃないですか。しかも、こんな大きいのが二匹も。」


「いやー運がよかったんですよ。」


石和はタモを使い魚を船上にあげるとテキパキと針をはずす。


「本当に慣れてるんだな…この人」


手際のよさに関心していた美嶺だがこのあと信じられない光景を目にする。石和がせっかく釣り上げた鯵を海に返したのだ。


「えーー!!石和さんなんで今の鯵海に返しちゃうの?」


突然叫ぶ美嶺に驚く石和


「えっ…だって持って帰っても食べ方分からないし…なら海に返した方がいいかなと思って…」


「もしかして、これまでずっと釣った魚を逃がしてたんですか…?」


「ええ…キャッチ&リリースが僕の基本です」


信じられない。何をしにここに来ているのだと呆れ顔で美嶺が石和を見る。


「石和さんこのあと空いてますか…?」


「…はい?」


そのあと美嶺と石和で5匹づつ合計10匹の鯵をゲットした。そして、石和を自分の車に乗せ向かってる所は


「あの…本当にいいんですか…僕がご自宅にうかがっても…迷惑じゃ」


「気にしないで下さい。あんな美味しそうな鯵を隣でぽんぽん海に返されてた方がよっぽど迷惑なので…」


心なしか少し怒ってる様子の美嶺にそれ以上何も言えない石和は黙って到着を待った。

アパート近くの駐車場に車を止めると釣り道具とクーラボックスを持ってアパートへ帰った


「さあ、どうぞ」


「……おじゃまします…」


遠慮がちに部屋に入る石和。美嶺はキッチンにクーラーボックスを置くと献立を考える


「あのー…宝山さん。僕釣竿の手入れをしてきてもいいですか?宝山さんの竿もやっときますので」


海釣りをしたあとの釣り道具は早めに手入れをしておかないと潮で駄目になってしまうこともあるのだ。


「ああ、もちろん。でも、私の竿も任せていいの?」


「ええ、二本くらいならそんなに手間ではないので。それでは外の水道お借りします」


石和は釣り道具を持って外に出ていった


「私はまず下ごしらえだけしておくかな。」


エプロンをつけ魚をさばく美嶺。献立は決まったが石和が竿の手入れを終えたらもう一つやることがある。10匹の鯵をきれいに処理しおわったころ


「終わりました。」


石和も戻ってきた。


「あら、早かったわね。私もいま終わったところよ。それじゃあ次は。」


住宅街を歩く美嶺と石和。


「あの…タオルなんか持ってどこに行くんです?」


「もうすぐ着くよ。ほら、着いた。潮風を浴びてるのは竿だけじゃないからね」


そびえ立つ大きな煙突。二人の前にあるのは銭湯だった。

中に入る


「それじゃあ40分後にここでね。」


スタスタと女湯に行く美嶺


「あら、美嶺ちゃんあの人彼氏かい?」


「違いますよー」


番台のおばさんと親しげに話なしたあと声が消えた


石和もお金を払い中に入る


「僕…銭湯初めてなんだよなー確か最初に体と髪を洗ってから入るんだよな」


服を脱ぎ浴場にいくと空いてるシャワーの前に座りまずは髪を洗おうとする


「シャンプーはこれかな…ってこれボディーソープだ。危ないところだったそれじゃあこれ…はリンスでとすると最後に残ったこれがシャンプーか」


釣りの時とは違い不馴れに髪を洗い体もしっかりと洗って風呂に入ろうとするも


「熱ッ!!このお湯熱すぎるよ。」


そんな石和を見てまわりのお客たちが笑った


「兄さん根性ないな…これくらい熱いうちにはいらないよ。ほら、少し我慢して肩まで浸かってみなすぐに慣れるから」


笑いながら話すおじさんを信じて足からゆっくりお湯に使っていく


「やっぱり熱いでも他の人も入ってるんだ。僕だって平気なはず。ぐぐぐっ…」


必死に熱さを堪えながら肩までお湯につかる。


「どうだ、兄さん?」


「大泥棒 石川五右衛門になった気分です…」


石和がいうとあちこちから笑い声が響いた。


「兄さん真面目そうな顔して冗談うまいな。」


「大真面目で言ったのにな…」


しかし、おじさんの言うとおり体が熱さになれてきたのかだんだん平気になってきた。


「山越えたみたいだな。どうだ、兄さん熱いお湯も悪くないだろ」


「はい!」


「はっはっはっ。いい返事だ俺はお先に上がらせてもらうぜ。もう、一時間も入ってるからな」


この熱いお湯に一時間すごい人もいるものだと関心している石和


「でも、いいもんだな。銭湯って」


見ず知らずの人とも自然と打ち解けられるこの雰囲気が石和はとても気に入っていた。


石和が風呂から上がり外に出ると外では一足先に美嶺が待っていた。


「けっこう長風呂なんだね。」


石和が時計を見ると入ってから50分がたっていた。


「ごめんなさい。銭湯初めてはいったのでつい気持ちよくて」


「銭湯初めてだったんだ。それじゃた仕方ないか。さあ、帰って鯵の調理よ。」


アパートに戻ると美嶺は料理を再開する。手際よく次々完成させていくなか石和は隣の部屋で美嶺の竿をいじっていた。手入れしているときにいくつか小さなひび割れを見つけたので補修をしているのだ。


「ごめんね。私の竿直してもらって」


「いえ、これくらいお安いご用です。」


「よーし、出来た。」


料理を運ぶ。テーブルにならんだのはアジフライ、鯵のなめろう。などたくさんの鯵料理が並んだ。


「こっちも出来ました。あとは接着剤が固まるまで待つだけです。」


石和は席につくとその料理の出来に驚いた。どれも美味しそうだったからだ。


「すごいですね。こんなに作れるなんて」


「そりゃね。自分で獲った獲物くらい自分で料理しますよ。」


えっへんと胸を張る美嶺。


「宝山さんって、なんかワイルドですね」


「わ…ワイルド…?」


そこはせめて家庭的と言ってほしいものだと思った。しかし、そんな言い方をしたのも美嶺だし石和に悪気がないのは分かったから別に怒りはしなかったが


「さあ、食べましょう…」


美嶺は冷蔵庫から大量のビールを出す。


「お父さんね。お中元にたくさんビールをもらうんだけどビールは全然飲まないから全部私に回ってくるの。だから、たくさんあるからガンガン飲んでね」


冷蔵庫になくなったぶんを収納庫から出して補充する美嶺。収納庫にはきれいな箱に入ったビールで溢れていた。

美嶺はビールをコップに注ぐと石和に渡し自分のぶんも注いだ。


「それじゃあ、本日の大漁を祝って、乾杯」


「乾杯」


カチンとグラスをぶつけるとビールを飲んだ


「ぷはーッ!最ッ高」


「あー!染みるなー」


お互いにそれを聞いて大笑いした。


「石和さん明日お仕事は?」


「明日は休みです。僕はまだ、研修医なので急な呼び出しもないと思います。」


「研修医!ってことは大学卒業したばかり?」


「はい、今年の春に…」


年下かもとは思っていたけどまさか本当に年下だったなんてと少しショックを受ける。いや、まだ決まったわけではない。ひょっとしたら浪人とか留年とかもありえる。医学部は難しいで有名だしとかなり失礼なことを考え始めた美嶺


「じゃあ、年齢は?」


「24才です」


ぐはっ…と心の中でダメージを負う。自分より3つも下だ。美嶺は年上とはこれまでの経験でうまくやり取りもできるが年下は苦手だった。今の職場でも新しく入ってきた後輩の話にうまくついていけていない。一年のジェネレーションギャップでも厄介なのに三年もの差があった。いい飲み友達になれると思ったのにこれからこの人と何を話せばいい?どんな話題をふればいい?と考え出す美嶺


「あの、宝山さんって今は雑誌の会社に勤めてるんですよね?」


沈黙を破ったのは石和だった。


「あっ!うん、そうだよ。まあ、ライターって奴だね。都心の人気スポットとか今の流行ってるものを紹介する雑誌を担当してるの。」


助かったーと安堵しながら話す美嶺。


「お父さんの会社にはいかないんですか?」


まっすぐに投げられた質問だ。まあ、答えにくい理由があるわけでもないので美嶺は正直に話す


「うん、私には兄がいてね。会社は兄が継ぐことになってるからさ。だったら私は好きな仕事していいかなって思って今の仕事についてるの。」


「そうなんですか。でも、偉いですよね。お父さんの仕送りをもらわないで全部自分で稼いだお金だけで生活してるんですから…」


「どうしてそれを?」


そんな話を石和にした記憶はない。


「以前宝山さんのお父さんが話しているのを聞いたことがあるので。娘を心配して仕送りしてるのに余計なことするなって言われて送り返されたって」


「お父さん余計なことを… 」


「僕も父にお前も見習えと言われましたよ」


ははっと笑う石和


「まあ、うちはそこそこ給料いいから仕送りなくても生活は出来るし。それに今の世の中大手だなんだってチヤホヤされてても突然倒産なんて珍しい話じゃないしさ。もし、そうなっても大丈夫なようにね。ある程度自分一人でも生活できるレベルは持っておきたいんだ。それだけだよ。まあ、現物品は結構もらってるけどね。このビールとか使わなくなった家具とかね。」


笑ってそういう美嶺


「やっぱり、すごいな」


うつむきながらそう呟く石和


「はい、私の話おしまい。今度は私が質問ね。石和さんはお父さんの病院継ぐの」


たんかきったはいいものの他に聞くことが浮かばずにぶしつけと思いながら訪ねる美嶺。石和は首を横に振る


「僕も宝山さんと同じです。病院は兄が継ぐ予定です。僕より兄のほうが優秀ですしね。」


「でも、お父さんの病院で研修医しているんでしょ」


「いいえ、僕は父さんの病院で働くつもりはありません。僕は小児科医を目指しているのですが父さんの病院ではあまり小児科医に力をいれてないので…だから、いまはこの近くの小島総合病院で研修医をしてます。ここは小児科医に力をいれてる病院なので研修医が終わったあともここで働くつもりです」


「なんだ、しっかりとした目標持ってるじゃない。」


「でも、まだ親に仕送りしてもらってるし…」


「いいじゃないの。研修医なんだからさ。目標を目指して努力して親のすねかじるのと。だらだらと親のすねかじるのは天地ほどの差があるんだから頼れるうちに頼ってあとで倍返しすればいいんだよ。」


「そういうものでしょうか」


「そういうものです。さあ、今日はとことん飲むわよ。ビールもつまみもたくさんあるんだからさ。」


「はい、とことんいきますか」


二人だけの酒盛りは遅くまで続いた。


次の日


がばっと目を冷ます美嶺。どうやら、テーブルに伏せたまま寝てしまったらしい。背中には石和がかけてくれたのかコートがかけてあった。そして、目の前には同じように眠る石和。


「ははっ…色気もなんもないな」


これがドラマならお互い全裸でベットに寝ているところだがきちんと服を着ているしなによりこんな状態ではやることもやれない。そして、昨夜の記憶がじわじわとよみがえってくる。


「僕はもうこれ以上は…」


「なに言ってるの男の子でしょ。ガッツリ飲みなさいよ。それとも何。お姉さんの酒が飲めないっての!」


「いや、そういうわけじゃ」


「そうそう、年上の言うことは素直に聞くものよ」


「うう…」


一時間後


「あのー僕はもうそろそろ帰りますね。終電終わってしまうので…」


「なーにーを言うか!今日はトコトン付き合うってお姉さんと約束したよね。男が約束破るのは最低ダゾー」


「でも、終電が…」


「電車がないなら。お姉さんが車でササット送ってあげるから問題ない」


「いや、その状態で車運転したら問題でしょ!」


「今、石和さんいなくなったら私あなたを探して夜の街を探し回っちゃうなー。そしたらどんな危ない目にあうか」


「わ…わかりました…」


「優しい子だねー」


記憶がよみがえる数だけ襲ってくる羞恥心。いっそこんな記憶なら失ってしまいたい


「何やってんだよ。私…」


後悔の念に押し潰されそうになっていると

目の前の石和がムクリと起き上がる


「…おはようございます。美嶺さん……」


青白い顔、虚ろな目、痛みがあるのか頭を押さえてる。これは間違いなく二日酔いという症状だということは医者でない美嶺にも分かった


「あ…あの…えーと…昨日は」


「昨日は楽しかったですね。料理も本当に美味しかったしごちそうさまでした。」


「あー…うん、お粗末さまでした」


「今なら電車出てるのでこれで失礼しますね。あっ…そうだ片付け…」


「あっ!いいの。いいの。今日は休みだしのんびりやるから。気を使わないで…」


「本当にいいんですか?」


申し訳なさそうに言う石和


「その、ごめんね。いろいろと…」


「いえ、本当に楽しかったですよ。それじゃあ美嶺さん失礼します。」


普通に話してはいたが歩き方はふらついていた


「あれ、今石和さん私のこと名前で…あっそういえば昨晩」


「宝山さんもうやめといたほうが…」


「その呼び方気に入らない!」


「えっ?」


「私昔から自分の名字嫌いなのよ。なんかこう暑苦しくてさ。だから私のことは名前の美嶺と呼びなさい。賢吾君」


「えっ…でも…」


「でもじゃなーい。年上の言うことは聞くこれ社会人の常識」


「わかりました。わかりましたから頭を降らないでください」


再び沸き上がる羞恥心


「誰か私を殺して…」


次の日。編集部に出社した美嶺は窓際の席にまっすぐ歩いていった。


「あの…編集長…少しご相談にのってほしいことがございまして」


美嶺が相談をしている相手は編集部のやり手女編集長である 森島もりしま かおる 美嶺が入社したころからいろいろ教わっている頼れる先輩だ。


「相談…それは〝公〝と〝私〝のどちらだ」


「…〝私〝です」


「ならば私の貴重なアフターファイブを使うことを許可しよう。もちろん飲み代はお前もちな。」


「私のアパートでよろしいでしょうか?」


「うむ、そこでかまわん」


大手建設会社の令嬢である美嶺を特別扱いすることなく厳しく指導しそのおかげで今は編集部でも美嶺はライターとして活躍できるようになった。最初こそ厳しさから苦手意識も持っていたが今は社内で一番信頼できる人になっていた。仕事も終わり二人でアパートに入る森島は慣れた様子で中に入る


「ビールもらうぞ」


冷蔵庫を開けビールを取る


美嶺は適当なつまみを出すと森島の前に座った。


「して、相談とは」


森島の言葉に美嶺は昨日のことを話した。


「話は分かった。」


そういう森島。しかし、まだ半分も話をしていない。むしろ相談したいのはここからだ


「38才未婚彼氏無しの私をわざわざ昨晩年下男といちゃこらした自分の部屋へと連れてきて自慢話を聞かせ惨めさに顔を歪める私を見て優越感にひたるつもりであろう。あー…そうか、これは私に対する宣戦布告ということか。確かに新人時代お前にはかなり厳しくした。しかし、それはお前に早く一人前になってほしいと言う私の思いによるものだったのだが…残念だ。まさか宝山が私をそこまで恨んでいたなんて」


「ちっ…違いますよ。編集長には私感謝してますし。それに、聞いてほしいのはここからなんです。」


「まあ、相手の話を最後まで聞かずに決めつけるのは編集者がもっともやってはならないタブーだからな。よろしい最後まで聞いてやろう」


そして、美嶺は酒の席でやってしまった数々の失敗談をはなすと森島は頭を押さえた


「何をやっているんだ…バカ」


新人時代には毎日のように聞いていたが最近ではほとんど聞かなくなったこの言葉をこんな形で聞くことになろうとはと思う美嶺


「私も少しはめを外しすぎたのは認めます…」


「いや、そうじゃない。あのな、たまたま相手の男が善人だったのかヘタレだったのかは知らんが…良からぬ男だったらお前ヤられてたぞ」


その言葉にドキリとする。


「親しくもない男の前で酔いつぶれるなんて…女として一番やってはいけないことベスト3には入ることだ。分かっているのかお前は」


森島の怒りは静かにふつふつと肌にくる凄みがある。久々に感じた恐怖にたじろむ美嶺


「反省してます」


森島はため息を一つつくと


「それで、お前はどうなりたいんだ?その男と」


「どうって…」


しばらく考える美嶺


「私…昨日すごく楽しかったんです。あんなに楽しい気持ちでお酒飲んだの初めてで…それでついハメを外しちゃって…あの人どこか私と似てて…だから、いい飲み友達になりたいんです」


「飲み友達ね…まあ、それだけ泥酔した宝山に指一本触れなかったかことを考えれば危険な男ではなさそうだしいいんではないか。」


「でも、昨日のことがあるのでもしかしたら…あれに…懲りてもう私と飲んでくれないんじゃないかと不安になりまして…」


「ふむ…その可能性は……十分考えられるな…」


「ですよね…いったいどうしたら」


考えているときに美嶺のスマフォが鳴った


「誰からだろう…えっ…石和さん…」


「連絡先を交換していたのか」


「酔いつぶれる前に…でも、なんだろう」


おそるおそるメールを開くと


「すいません。実は美嶺さんとアパートに僕の釣竿をおいてきてしまって。近いうちに取りに伺ってもいいですか?」


「ふむ、私の役目は終わったようだな。それでは失礼するよ」


帰ろうとする森島を引き留める美嶺


「待ってくださいよ。私なんて返せばいいんですか」


「知らん!それくらい自分で考えろ。なんでもいいだろ美味しいご飯つくって待ってますねとか。この前迷惑かけたので届けに行きますよとかそうすれば相手の住まいも知れて一石二鳥だ。」


「だからもっと具体的に…編集長」


メールを送った石和本人は美嶺の部屋で起きている騒ぎを知らない


続く


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