実験エリア、星霜学園~another story~
2048年、そう。東京オリンピックが開催されて早二十年とちょっとの年月が経ったこの日本では、相変わらず「いじめ」というものは無くなっていなかった。
俺は中学時代その「いじめ」の被害者だった。
「あのようなことはもうごめんだ!」
心からそう思った俺は入学した高校で「偽りの自分」を作り出し、クラスカーストの頂点に君臨することができた。
そして今はその地位を死守すべくあくる日も「偽りの自分」でこの二―十一クラス生活している。
「織近君~おはよ~!」
「おはよう、物部さん!」
「ねえねえ、今日も鋼月君のところに仕掛けたんでしょ~?」
「あぁ、まあね……」
実際、やったのは俺じゃないんだけどね。といえばうそになる。だから訂正しよう。今回初めてちょっとだけいじめに加担した。今までは命令しかしなかった。だからもし担任にばれたとしても俺は怒られないし、地位が揺らぐこともなかったんだけど。でもなんか口先だけって感じがするし、それで地位が揺らぐのもやだから今回は加担したってわけ。
「そろそろくるころだよね?」
「みんな~!席に着け~!」
その二十秒後ぐらいだった。教室に水たまりができたのは。鋼月がドアを開けると同時にひもが引っ張られ、バケツに入っていた水が上からドバッと降るという、いわゆる古典的ないじめ方だ。ちなみに俺はいじめるときにもルールを持っているから、このようなメッセージ性のないいじめはしない。俺の加担したいじめが本領を発揮するのはこの後だ。
「臭っ……」
そう、これが俺の加担したいじめで、内容は「産業廃棄物と生ごみを机の中に詰める」と
いうものだ。
さっき言ったように、このいじめにはメッセージが込めてある。
「鋼月君、君は製品になる途中で出たごみのようにこのクラスに必要の無い人間なんだよ」
という内容である。生ごみについては、ただのおまけみたいなもので特にメッセージ性のかけらも無いのだが。
ただ、この生ごみが存在することによって産業廃棄物の金属の臭いと生ごみの腐敗臭が殺害されて何週間か放置されていた死体のような、そんなイメージを抱かせることができたりする。
さて、説明はこれくらいにして鋼月君の反応を見ようか。
…あれ?反応が無い?そんなはずはないのになぁ。いつもだったら
「ふざけんなよ……!」
とか言ってクラスの一番力のある(まぁヤンキーみたいなやつね。)奴が乱闘を始めて一方的に鋼月君がボコされて終わるって言うのがいつものテンプレなのに。
おかしい。今日の奴は何かがおかしい。
そうして今日の喧騒は終わりを告げた。ように思えた。今日の喧騒の終わりを告げる乱闘は、一部分で見れば長く感じるけど実際はいつもより短い一日の始まりを俺に告げるものだった。
さて、ここからがこの物語の本当のストーリーだ。喧騒が終わりを告げた後、皆つまらなそうに席に座った。もちろん鋼月君は皆より一テンポ遅れて座った。理由は……わかるよね?いつもなら喧騒が終わった後三分ぐらいして担任が入ってくるんだけど、今日は来ない。
三分経った。まだ来ない。五分経った。まだ来ない。十分経った。来ない。
さすがに教室内がざわついてきた。これはこのクラスカーストの頂点に君臨するこの俺が場を鎮め、好感度を上げてこの地位を揺るがぬものにまた一歩近づけよう。
そう思ったときだった。
いつもなら横にスライドして開くドアがなぜか教室内に向かって倒れたのだ。クラスのざわつきが一気に静まった。誰もこの状況をすぐには飲み込めないようで、周りには表情の固まった人々。もちろん俺も。その五秒後、ばたばたと足音がしたと思うと銃口をこっちに向けて
「Halt!」
と叫んできた。まさに青天の霹靂だった。クラスの節々から
「ハルト……って何?」
「え……誰?」
そしてその雑踏の中から鋼月君が一言ボソッと
「ドイツ語。」
そのような言葉が聞こえた。ドイツ語?ということはドイツの軍隊か?いやいや、だとしても何でこんなただの学校に?考えられたのはそこまでだった。直後、その軍人らしき人々は俺と鋼月君の身柄を確保し、どこかへ連行しようとする。俺たちはなすがままに廊下へ連れ出され、目を覆われた。
目からの外界情報を遮断されたせいか聴覚が研ぎ澄まされていった。だからドイツ軍人だけだと思っていた編隊の中から
「他の者はその場から一歩も動くな!」
という日本語を話す軍人の声を聞くことができた。とても外国人の発音とは思えない流暢な発音だったから、たぶん日本人がいるのだろう。あぁそうか。これは国家機密の作戦なのか。担任は暗殺されたか口止め料として大金を積まれたのかしたから今日は来なかったんだな。とようやく悟ることができたのは、だんだんと教室の雑踏から俺が誰かに腕をがっしりと掴まれて遠のいていく、まさにその途中だった。
聞こえてくるのは足音、足音、足音、たまにドイツ語。その足音たちがふと止んだかと思うと、一気に視界が明るくなった。
目の前に広がるのはネットで見たような拷問のときに使う体を固定する椅子と重火器、それと謎の薬品類だった。
鋼月君は既にそこに立っていた。声をかけようかと思ったとき、一人の軍人が話し始めた。顔からして明らかに俺たちと同じ日本人だった。
「じゃあ、君はこっちに。」
そう言われて椅子に座らせられたのは俺のほうだった。そして、軍人達は椅子に搭載されている固定具で俺の体を固定し始めた。もちろん抵抗する気はあった。が、すぐに潰えた。だって五人体制で俺の体を固定しテイクのだから、抵抗したら何されるかわからない。それから二分程で作業は終わった。その間に鋼月君はなにやらレクチャーみたいなことを日本人と思われる軍人から受けていた。
ふと、最初のほうに重火器があった場所を見てみると、あの金属の塊たちは姿を消していた。もう一度鋼月君の方に目をやると、さっきまでそこにあった金属の塊たちを手にしている。
一通りレクチャーが終わったようだ。すると、さっきまで鋼月君に手ほどきをしていた軍人と俺を縛った軍人たちが俺の元に集まってきた。
そして、こう言った。
「非常に残念なお知らせだ。こちらとしてもあまり言いたくないのだが、君にはこれから実験台になってもらう。なあに、すぐ終わるよ。実験も、痛みも。実験も、君の命も。」
皆はいきなり「死の宣告」を受けた人間がどんな反応をするのか、もちろんのこと知らないだろう。答えは、「呆然とした後にふと笑う」だ。人間の脳というのは高度な知能を持つというが、そんな物にも弱点はあったということだ。
「想定外のことが自分のみに降りかかった時、人間の脳は処理落ちする。」こんな研究結果を「医学学会に提出してやりたい。」とも思った。
が、「運命というものは時に幸福をもたらし、時に残酷」そんなことをぽろっと口から零した。そしたら一人の軍人が、「この結果は、君の今までの行いによって定まった運命だ。」「全ての責任は君にあるのだよ。」
運命を俺が創った?そんなバカな。あれは神が定めるものだ。だから、この状況は「いじめを受ける者がどんな苦痛を心に負うのか知っている、鋼月君の一番の理解者になれる役割を神が定めてくれたのにもかかわらず、無視をした俺への罰。」なんだと思う。
でも、後悔はない。「神がなんと言おうとも、俺の人生は俺が決める。」と思って今まで過ごして来た。が、結局のところ神は他の生物にまで干渉して罰を与えにくるのだった。その後俺はよくわからない薬剤を投与され、死んだ。
「霊界は存在するかわからない」と言われているが、そりゃそうだ。
だって、霊界は「死んでから存在に気づく」から。今、俺がこうやって話しているのも霊界からなんだ。だから霊界はあるんだよ、鋼月君。
「最後に言わせてくれ。力になってやれなくてごめん。鋼月君、どうか俺みたいな生き方はしないでくれ。」
「当たり前だ。お前みたいなゴミ人間の生き方なんて誰が好き好んでやるか!」
その一言で、俺の歴史は終わった。
「最後に話せたのが鋼月君、君でよかった……」
その頃、僕の体は……
どうも皆さん2.5次元の世界へようこそ!
平均睡眠時間3時間の「のろ」と申します!
この作品を読む前に私が連載している「実験エリア、星霜学園」の方を読んでいただくと、この作品の内容が理解しやすくなるかと思いますので、是非そちらも読んでいただければ幸いです。
この作品は「実験エリア、星霜学園」スピンオフ作品となります。連載は致しませんので、ご了承ください。
またお目にかかれる日を願って……