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いらないスキル買い取ります 【連載版】  作者: 昼熊


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頭の上には

 その村には変わった風習がある。

 秘境と呼ばれる土地の更に奥へ進んだ土地に、その村は存在していた。

 魔物しか存在しないと言われていた僻地を、魔物を蹂躙しつつ森の奥へ奥へと進むと、丸太の壁に藁ぶきの屋根という粗末な家々が並ぶ村……いや、集落と呼んだ方が相応しい場所にたどり着いた。

 村の住民は人間か魔物。もしくは人間と魔物の混血で野性味を帯びている。

 私が訪れると問答無用で武器を突きつけ、一斉に襲い掛かるという大歓迎を受けた。

 未開の地での原住民に襲われるという経験は、今にしてみると珍しくもなんともないが、当時は新鮮だったな。


 共通語は通じなかったのだが、幾つかの魔物の言葉や身振り手振りで何とか意思疎通ができ、村人の半数を叩きのめした後は比較的大人しくなり、人の話も聞くようになった。

 村人の服は動物や魔物の皮をなめして穴をあけて羽織るだけのもので、男女問わず下腹部は革を腰ミノのように巻いているだけ。

 文化レベルはかなり低く、独自の文化が成立していた。

 その中で最も奇妙だったのが、彼らの頭の上に鎮座している魔物や動物の頭蓋骨。

 この村では今まで自分が倒した最強の獲物を帽子代わりに被る事で、自分の実力を周囲に示す。なので頭を見ればこの村の猛者を探すことも容易い。

 下級だったようだが竜を倒した村人がいて、その場合は骨が大きすぎるので被る事ができず、竜の角を加工してとんがり帽子のようにして被っていた。


 この格好は村の中だけらしく、狩りに出かける時はさすがに外すそうだ。

 村人は戦闘に明け暮れているだけあって戦闘関連のスキルが高く、これは商売相手として相応しいと考えた俺は、何度も足しげく通い数年後には歓迎されるまでになった。

 文明の香りがする物資を運ぶと、喜んで貴重な魔物の部位と交換してくれるので行商人としての利益も相当なものになる。

 物々交換がこの村でのルールだったが、俺は物品の代わりにスキルを1レベルだけ買い取るということもやっていた。それも伸びのいいスキルだけに限ってだけ。

 あまり買い取りすぎると、過酷な環境のこの村では死に直結してしまう。

 スキルを売る事もあったが、それは戦闘系ではなく内政で使えるような平和なものに限定した。

 そうしないと、力がものを言うこの村では戦力図が変わってしまうからだ。

 奇妙ではあるが、この村は長年こうやって生活をしてきたのだ。部外者が無暗にバランスを崩すべきではない。


 商品も少しだけ便利になるような道具ばかりで、魔道具は売らないように心がけていた。

 欲のない村人ばかりだったので交渉を素直に信じてしまい、価値を吊り上げても素直に信じそうだったが、良心が咎めたので彼らには嘘偽りを決して口にしなかった。

 そんな交流が続いていたのだが、唐突に彼らとの交流が途絶える。

 村の近辺に強力な魔物が現れ、事態を重く見た国は村に唯一繋がっていた街道に頑丈な砦を築いたからだ。

 その結果、辺境の森への移動方法が失われてしまう。

 スキルを活用すれば砦を抜け、森を突っ切り村へ向かう事は不可能ではなかったが、運悪くその時期に厄介事に巻き込まれてしまい、暫く自由が利かない身となっていた。

 全てが片付いた頃には森が壊滅状態で、村も壊滅したものだと……思い込み近くに立ち寄る事すらなくなった。

 最近になってその村の噂を耳にして、久しぶりに足を運んでいる。


「ここら辺だったと思うのですが」


 もう数十年前なので記憶があやふやだ。

 森の中というのは方向感覚が失われてしまい、どこもかしこも同じように見えてしまう。

 かなり大型の魔物が暴れた形跡が残ってはいるが、自然の修復能力は大したもので、雑草が生い茂り、若木が乱立している。


「今、どういうことになっているのでしょうか」


 一人で移動していると、独り言が口から零れてしまう。

 旅には慣れているのだが、こうして心境を口にしてしまう事がある。独りで寂しいという気持ちもわずかにあるのだろうが、それよりも人と遭遇した時に滞りなく会話ができるように、口を慣らしておきたいという気持ちが強い。

 昔、半年近く誰とも話さない生活をしていた時は、久々に人と会った際に咄嗟に言葉が出なかった。あれを教訓として独り言は欠かさないようにしている。

 ――という建前だが、実際はただの暇つぶしだ。

 見覚えのある大木が見えた。あれは健在なのか、ありがたい。

 あの大木の右に獣道があって。


「おや、道が以前より整備されていますね」


 途中から地面が平らで雑草も生えていない道に変化した。どうやら自分が進んでいた道なき道以外にも、あの村に通じる道が存在しているようだ。

 今までの苦労はなんだったのかと愚痴をこぼしたくなるが、楽ができるのは確か。整備された道には素直に感謝しておこう。

 そこから真っすぐ進むと……。見えてきた。


「おっ、これは……」


 思わず声が漏れる。

 村の周りを立派な石壁が囲っていて、以前のような粗末な丸太の塀とは比べ物にならないぐらい立派になっていた。


「それに規模も大きくなってませんか」


 丸太の塀だった頃よりも、見える範囲だけでも倍……それ以上は敷地が増えているように見える。

 開け放たれた重厚な両開きの鉄扉があり門番も二人立っているのだが、その格好が鉄の鎧に槍という武装で、あの頃の粗末な服の面影はどこにもない。


「驚きの進歩といいますか、ここまでくると進化と言いたくなります」


 噂を耳にしてから情報を集めて、ある程度は覚悟していたがここまで様変わりしているとは。


「私を覚えている人は誰もいないのでしょうね」


 昔の顔見知りの村人で生き残りがいる確率はほぼないだろう。人より長寿なエルフやドワーフならまだしも、魔物の混血児と人間の寿命は大差なかったはず。

 門番らしき鎧の兵士の顔にも見覚えはない。

 何人かが門の前で審査を受けているので、その後ろに並ぶことにする。

 『聞き耳』を発動させて彼らの話を盗み聞きしてみた。


「何の目的でこの村に来たんだ」


「はい、ここの商店に荷物を運んできやした」


「荷物を確認するぞ」


「どうぞどうぞ」


 馬車の荷台を調べているようなのだが、真剣にやっているようには見えない。

 適当に木箱を叩いたり布をめくるだけで、目は話をしていた男にずっと向いている。


「ああ、そうでした。これはほんの気持ちです。お受け取りください」


 男がそっと門番に小さな袋を握らすと、門番はニヤリと口を歪め、すんなりと男と馬車を通す。

 以前の力が全てといった、野蛮でありながらも純粋な考えは何処に行ったのやら。見事なまでに世俗に染まったものだ。


「次、そこの行商人」


「はい、私ですね」


 呼ばれたので薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けておく。


「何の用でこの村に来た」


「最近、この村が盛況だと聞きまして、何か儲け話はないかと訪れた次第です」


「ほほう、耳ざといな。確かに我々は傭兵として各地で雇われておる。戦がある度にかなりの報奨金を得てはいるが」


 またも口元にいやらしい笑みを浮かべているが、昔の村人とは笑い方がまるで違う。

 彼らはおかしければ感情を声に込めて、大笑いしていた。こんな薄汚い笑い方はしない。

 村人が生存していてくれたことは喜ばしいが、この状況を目の当たりにすると嬉しさも半減だ。

 予め集めておいた情報によると、この村は俺が訪れなくなった後も魔物に負けず、過酷な環境を生き延びたようだ。

 とはいえ村の損害も激しく、今後の生活のために彼らはある事を始めたのだ。

 村を復興する路銀を稼ぐために、その腕を生かし傭兵団として戦に参戦する事を選ぶ。


 魔物と戦い続けスキルを磨いてきた村人の強さは際立っていた。冒険者であれば上級ランクに足を踏み入れている連中が群れとなり襲ってくるのだ。一般の兵士が敵うはずもない。

 一国に従う訳ではなく、金さえもらえればどんな国にも雇われる。

 彼らに善悪はなく、獲物がいれば狩る。例えそれが人間であっても。

 そんな彼らも様々な国の文明に触れて、考えが徐々に変化していったらしい。良くも悪くも。


 兵士に袖の下を渡して門をくぐると、以前の記憶と一致する家屋は一軒もなかった。

 丸太を繋いだだけの粗末な家など見当たらない。普通の村では考えられないような屋敷が幾つも並んでいる。

 商店も何軒かあるが、辺境の村とは思えない店構えだ。王国の首都で貴族相手にしている店のような外観。巨大な一枚板のガラスの向こうには高級そうな衣類や宝石が見えた。

 昔は草が生えていないだけの凸凹だった道も平らに(なら)され、整備が行き届いている。


「ここまで発展しているとは」


 行きかう人々も村人らしき住民はちらほら見かけるだけで、大半がこの村の出身ではないことが分かる。

 村人の稼いだ金目当てに集まった者なのだろう。もしくは、傭兵として雇われに来た連中か。

 外から来た者と村人の見分けは簡単につく。あの風習が残っているからだ。

 頭上に目をやると、そこには頭蓋骨がある。

 昔とは違い、色が塗られていたり骨に何かが彫られていたりと、おしゃれに飾り付けるようになったようだが。

 正直、以前よりも悪趣味だとは思うが、部外者が口を出す事でもないだろう。

 ただ……一点だけは、どうしても受け入れられそうにない。

 そんな感情を押し殺しながら、金ぴかの頭蓋骨を被った屈強な男に話しかけた。


「こんにちは。今日この村に訪れた者なのですが」


「なんだ。商人か?」


 訛りのない綺麗な共通語の響きだ。態度と話し方は不遜だが。


「はい。しがない行商人をやっております。見たところ、貴方様がこの村で最も強いように見えましたので、こうして声を掛けさせてもらいました」


「ほーう、見る目があるではないか」


 顎に手を当てて、まんざらでもない顔をしている。

 この男が強いのは『鑑定』でスキルを確認したので間違いはない。


「頭の骨飾りが見事ですね」


 ――悪趣味ですが。と続く言葉は心の中でだけ呟いておく。


「そうだろう! 俺が今まで倒した中で最も苦戦し、強かった相手の骨だ。それに金の粉を吹き付け、側面には剣と盾を彫ってある!」


 胸を反らし自慢げに語っている。

 笑顔を絶やさず頷いているが、内心は軽い苛立ちがあった。


 その頭蓋骨が――人間の頭だったから。


 骨格からして魔物でないことは一目で分かる。彼らは自分達が殺した人間の頭蓋骨を頭にのせて喜んでいるのだ。

 傭兵となり狩る対象が魔物から人間に変わったのだから、こういった変化も納得はいく。当然の流れと言ってもいいだろう。

 だが理解できるからといって、不快かどうかは別問題だ。

 もう昔の彼らは何処にもいない。魔物を狩ることに自負があった、野蛮だが素朴で気のいい連中は。


 贅沢を知らずに生きてきた彼らにとって、世間はさぞ煌びやかに見えた事だろう。強ければなんでも得られることを知った彼らは、歓喜したのかもしれない。

 文明社会で生まれ育った者でも、大金を手に入れて人が変わるなんてよくある話だ。素朴で純粋なここの村人だからこそ……。

 まだ続く武勇伝を聞き流しながら、男の頭上の頭蓋骨より更に上を見る。

 そこにはスキルが表示されていて、戦闘系のスキルが充実していた。その中でも最もレベルの高いスキルを見て、男にバレないようにため息を吐く。

 道行く村人たちの頭上にも視線を向け、そのスキルを確認してみた。

 やはりそのスキルのレベルが一番高いようだ。


 『強欲』

 

 以前は誰も所有していなかったスキル。

 今は村人の大半が『強欲』を高レベルで所有していた。

 自分が不老であることを実感するのはこういった時だ。時の流れは時に優しく残酷で、数十年もの年月は全てを様変わりさせる。

 村も風習も人も。

 この村でスキルの売り買いをする気が完全に失せてしまった。戦闘スキルは有能だというのに、どうにもやる気が湧かない。

 金を持て余しているようだから、スキルを売りつければ高額で買い取ってくれるのは分かっているのだが。


「――ということだ。まああれだ、村外れのあいつらには近づかないことだな。あいつらは過去から進歩しない馬鹿ばっかだからよ」


 適当に聞き流していると、話の流れが変わっていた。

 今とても気になる部分があったぞ。


「村外れに住む方々はどのような人で?」


「あいつらは、昔の風習にしがみついていてな。傭兵活動をしないで、村の周りの魔物だけを狩ってんだよ。一応村の治安に貢献しているから滞在を許しているが、俺達と違って稼ぎは微々たるもんだ。商人としてのうま味なんぞなんもねえよ」


 目の前の男より村外れの村人に興味が湧いた俺は、安値の首飾りを高値で売りつけると足早にその場を去る。

 教えてもらった道を進んでいくと、整備された道は途切れ荒れ地へと変化した。

 一帯には粗末な建物ばかりが並んでいる。


「懐かしい」


 ここだけが昔の風景を切り取ったかのようだ。

 丸太を繋ぎ合わせただけの家々の周りに数人の村人がいる。

 さすがに服装は昔と違い素朴とはいえ、ちゃんとした服装だ。

 しかし、さっきまでの村人とは違う部分が目に見えて分かる。頭の上に乗っかっている飾り気のない魔物の骨。

 彼らは狩人としての誇りを失わずに、昔ながらの狩りをして生活をしているのだろう。

 傭兵をしている者達の方が生活は楽で贅沢もできる。だけど俺には彼らの存在が尊く思えた。


「すみません。私は回収屋と申します。いらないスキルの買い取りをやっていまして」


 俺が話しかけると胡散臭そうにこっちを見ている。

 そんな彼らの顔から視線を上に向ける。魔物の頭蓋骨から更に上を見ると、そこには多くのスキルが並んでいた。


 その中に――『強欲』は存在していない。




先日新作を始めました。

タイトルは『冒険者で唯一の料理人 ~食のお悩み承ります~』です。

http://ncode.syosetu.com/n5758ec/

お暇な際に、よろしければこちらも。

いらないスキルと同様に一話完結方式となっています。

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