第5話 鬼めんちっ!
2017/04/23 大幅加筆修正 致しました。
進み続けること小一時間、歩きにくかった森をやっと抜けたみたいで、周囲が木漏れ日でほんのり明るくなってきた。
立ち並ぶ木も数を減らし、足元のグネグネもなくなって、歩くペースが一気にあがる。
色々おかしな事が続いているけどさ、とりあえずは前に進まないとね。
「オイチニー、オイチニー……」
現在、おぃら達【梅津一家一向】は、落ち葉をガサガサと踏みながら林の中を進んでいる。
足元には、ドングリや松ぼっくりが転がり、どんどん景色も明るくなってきた。
とりあえず、遭難だけは回避できそうかも。
「気ぃつけろ、なんか囲まれてんぞっ!」
突然立ち止まったマサ兄ぃが、低い声でつぶやき、みんなに警告を発する。
耳をすますと、落ち葉を踏み鳴らすかすかな音。
見渡せば、所々に生えている腰丈ほどの潅木が揺れている。
――まさか、く、熊かな――いや、揺れている数からすると、なにかの群れの様だ。
兄貴達は、背中合わせで固まり油断なく辺りを見渡す――とりあえずおぃらも真似してみたけど、自分の能力を考えるに、マサ兄ぃのお友達のお猿の集団であってくれと願うばかり……。
突然、低いうなり声と共に、茂みの中から灰色の影がたくさん飛び出してきて、おぃら達をぐるりと取り囲んだ――
なんだっ、こいつら!? 狼?
で、でもツノが生えてる!? こえぇぇぇ……
――狼もどきは、背中合わせでかたまったおぃら達の周りを、うなり声を上げながらゆっくりと回りだす。
大型犬ほどのそいつらは、全身が薄汚れた灰色で、爛々と光る真っ赤な目が不気味だ。
驚くべきは、額の真ん中から突き出すように生えた一本の角。獲物を簡単に突き通せそうなほど、鋭くまっすぐに尖ってる。
ほらっ、一番怖そうなあいつ――角の先赤黒く汚れてるけどさ、アレやっぱ血糊だよね……ははは……。
よほど腹をすかせているのか、どいつもこいつもよだれダラダラ……
はわわ、おぃらはチビだし筋ばってるし、おいしくはないですよ。
……当然パニックです――ハアハア……、まずは落ち着いて考えるんだ。
えーとえーと……
そうだっ! 一昨年、一家の皆で行った旅行の前に、その手の本読んだぞ――
①トラブルに巻き込まれたら、まずは日本大使館か日本総領事館に駆け込みましょう。
――だめだ、そんな暇はなさそうだ。そもそもここは、海外なのか?
②なるべくにぎやかな通りで、積極的にコミュニケーションを図ってみましょう。
――うん、ここも、にぎやかはにぎやかだよな。「へ、ヘロー! マイネームイズシュウっ!」あぶねっ、咬まれるとこだった……却下っ。
③やはり、身の安全が第一! 払うもの払って土下座でもなんでもしましょうっ。
――に、日本円通じるのかな……。ぎゃあああ、財布置いてきてるしぃぃぃ。
兄ぃぃぃ、ど、どうしよう? 現地ガイド兼通訳さんやっぱり雇ったほうがよかったんじゃ……。
ざしゅっ「シュウ、ちっと下がっとけや」
マサ兄ぃがおぃらの肩に手を置いて、前に出る。
おおおっ、さすがマサ兄ぃっ! あなた様が先に食べられてくれますかぁ。
オオカミさんっ! 彼はお猿さんですが、味は保障します。
どうか彼ひとりで、おなか一杯になってくださいぃっ!
梅津一家の切り込み隊長、マサ兄ぃの威勢のいい啖呵が、狼もどき目掛けて放たれた――
「どぉりゃあぁっ! 上等じゃねーかっワン公共っ!
こちとら、やすやす食われるほどあまくできてねぇんだよぉ!
命いらねー奴からかかってこいやあぁ!」
―― 若干、マサ兄ぃの足が震えてるような気がするけども……あくまでも演出だ。きっとオオカミ達においしく見えるようにという、マサ兄ぃの小粋な演出なんだ。
もぉ、マサ兄ぃったら謙遜しちゃって。
狼さん、彼は甘い味できっとおいしいですよ!
彼からどうぞぉぉぉー!
そんなマサ兄ぃ、顔を軽くのけぞらせると、右足をだぁぁぁんと踏み込みながら勢いよく顔を突き出しギロリギロリと見渡し始めた――
!? きたぁぁぁ! 久々のマサ兄ぃ鬼メンチぃぃぃー!
――マサ兄ぃのこめかみには、青く浮き上がった血管が浮き上がり、大蛇のようにのたくっている。
普段からするどい目つきはこれ以上ないくらい見開かれ、炎が噴き出しそうなほど赤く血走っている。 みけんに寄せられたしわは深く波立ち、つま楊枝が軽く10本は挟めそうだ。
マサ兄ぃの体を覆うように、なにやら白いオーラの様なものが揺らめいている――どうやら、特技【メンチ】と特技【ハッタリ】からの固有スキル【威嚇】が発動しているらしい。
夢のスペシャルコラボだ。年末年始でぐらいしか、ここまでの豪華競演はなかなかない。
うっ……さ、さすがハッタリとメンチだけで、不敗神話を作り出したマサ兄ぃ――は、半端ねぇー。
「グルルル――キュイン?」
今にも飛び掛ってきそうだったオオカミもどき達が、ビクっと体を震わせた。
ランランと輝いていた目も徐々に力をなくし、ピンと突き出していた尻尾も、後ろ足の間に垂れ下がってくる……
「無益な殺生は好まねー……消えなっ」
……そんなオオカミもどきに向かって、ポケットに手を突っ込んだまま、静かに言い放つマサ兄ぃ。
「キャインキャインキャイン……」
尻尾を丸め、我先にと逃げ出すオオカミもどき達。
きゃあぁ、マサ兄ぃ、かっけーっすよ! マジかっこいいっすっ!
オオカミもどきが完全に視界から消え去るまで、油断なく見渡してたマサ兄ぃが振り返る――
「しゅ、シュウ、ちょっとチビっちゃった……パンツ替えっこしよっ?」
「……絶対イヤですっ!」
――マサ兄ぃの名誉の為に付け加えておくが、兄ぃは決してビビってた訳ではない。
あくまでもリキみすぎただけだ。断じてビビってた訳ではない……
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