第2話 兄ぃ達っ、あれっ? なんか透けてないですかっ!
2017/04/23 大幅加筆修正 致しました。
第一回梅津一家会議をあっさりと終え、立ち上がったカシラ、タツ、マサ、トシと半人前のおぃら。とりあえず、人のいる場所を目指しましょう的な感じで、カシラを先頭に進みだす。
今いる場所は、うっそうと木が生い茂る森の中。道なんてものは当然ない。見上げれば、大小様々な枝が重なり合い、そのどれもがみっちりと葉っぱに覆われているもんだから、お天道様も拝めない。お陰でなんだか全体的にほんのり薄暗くて湿っぽい。
ところどころに腰丈ほどの若木なんかも生えていて、嫌がらせのように小枝を突き出している。これがペチペチ腕や体に当たるもんだから、うっとうしい事この上ない。
足元は、と言えば、ぐねぐねと曲がりくねった巨木の根っこが、地面に気まま勝手に飛び出していて、そのどれもがコケに覆われてるもんだから、うっかり変な角度で踏むとツルリとすべる。
加えて時折、行く手を阻むかのように倒れ木がいろんな角度であるもんだから、またいだり、くぐったりと、忙しくてしょうがない。
まあ要はあれだ――非常に歩きにくいっ!
今までグダグダ実況中継してきた事がこんな一言で片付いちゃったよ。まあ人生って結局そんなもんだ。
売やってた時に、ほろ酔い加減でタコヤキ買いに来てたおっちゃんが、タコヤキをパックに詰めてソースや青海苔かけてるのを待ちながら、会社の愚痴をグダグダ言おうとしてたけどさ、思ったより手渡されるのが早かったのか、最後は一言「とにかく、ストレス溜まってやっとれんっ!」で片付けちゃったからね。毎日タコヤキを売るおぃら達の手際をなめたらいかんよ――回転が勝負なんだからさ。
え? 早く進めって? あぁ、そうだった。急がないと……
先頭を進むカシラは身の丈百九十センチを超える大男。突き出した小枝なんかも、ぶんぶん大きな手で振り払いながら大股でズンズン進むもんだから、カシラが通った後はぽっかり穴があいたみたいになっている。その後ろをタツの兄貴、トシ兄ぃ、マサ兄ぃの順で進んでるんだけど、タツの兄貴は相変わらず表情ひとつ変えずに何事もないようにスタスタ進んでるし、トシ兄ぃは終始ニコニコ――まるでピクニックに来ているようだ。
「シュウっ! はよう来いっ、置いてくぞ」
マサ兄ぃが、もたついて遅れがちなおぃらを気遣い振り返って叫んでくる。この兄貴、実は意外と面倒見が抜群にいい。まあ口より先に手が出るのは残念っちゃ残念だけど、毎日ゴンゴンされてたら、実はコレがこのお猿さんの愛情表現なんじゃないかと思えてくるから不思議だ。
「す、すいません。足元が滑って歩きにくくて……」
しょうがないよね、おぃら、兄貴達より若干、自分で思うにほんのちょびっとだけ背がちっこいし、トルクの差って奴だ。おぃらは、必死に飛んだり跳ねたり転げたりしながら、こちらを振り返って立ち止まってくれているマサ兄ぃに追いつこうとする。
ゴシゴシっ あれっ、なんだ? あの白い球……
振り返ったマサ兄ぃの頭のてっぺんに、野球ボールくらいの白く光る小さな球体が、フワフワと浮かんでいる。よく見ると、マサ兄ぃの先を進むトシ兄ぃやタツの兄貴、そしてカシラの頭の上にも、球体は浮かんでる。
ま、まさか本当に天使の輪っか? イヤっ、それにしちゃ小さいし形もイメージとは違うし……ましてや兄ぃ達が天使になれるわけがないっ――それだけは断言できるっ!
おぃらも天国行った事ないから分かんないけどさ、天使の輪っかってあれだよね、ドーナツみたいな形してるんだよね? 勝手なイメージで丸型蛍光灯の32型30ワットみたいな物かと思ってた。
おいらは思わず自分の頭の上に手をのばし、意識をそこにむけた。自分の頭の上にも、その球体があるのか気になったんだ。自分だけ仲間はずれだと嫌じゃん、こんな事でも半人前扱いされたら、泣けちゃう。
ぽんっ! ふわふわふわ
突然おぃらの目の前に、板みたいなのが飛び出して、フワフワと浮かびあがる。なにやら書いてあるらしいその板は、半透明で、向こう側を進む兄ぃたちが透けて見える。
「おわっ!?」
おぃらはびっくりして、その場にへたりこんだ。
え、なに……これなーに?
透けて見えるとか、なにやらうれしい響きだが、透けてるのが訳ワカメな板で、しかも見えてるのが兄ぃ達なんてうれしくもなんともない。ただひたすらにパニックになるだけだ。
「どした? 蛇でも出たんか?」
先を進んでいた兄ぃ達がおぃらの方をを振り返る。マサ兄ぃなど、満面の笑みでおぃらの方へ戻ってきている。相変わらずどんだけトラブル好きなんですか……。
「か カシラや兄ぃ達の頭の上に白い球がふわふわって、んでもって、透明な板がポンっって……」
パニック全開のおぃらは、なんとか兄ぃ達に説明しようとするが、どう説明していいやらさっぱりだ。
だって頭の上に白い玉フワだし、ポンっからの透け透けなんだよ……。
ゴチぃぃぃん!
「シュウ、なにいってんだ? んなもんねーぞ、おめぇまさか、権藤とこの薬に手ぇ出したんじゃねぇだろうなっ?」
マサ兄ぃ、せめてゲンコツは、口を開いた後にしてください……やはりあなたは天使には向いてないですからぁぁぁ!
「違いますよっ。ほらっ! この板見てくださいよー」
とにかく事情を兄ぃ達に伝えなければ――そりゃもう必死ですよ。
梅津一家は、イケない物厳禁、というより心の底から憎んでる。変な誤解をされたら、盃を一生もらえないどころか、簀巻きにして引き回された上に放り出されかねない。
ボムっ! フワフワフワっ
半透明で浮かんでた板が、突然白い石版のようなものに変化した。
はうっ、なにやら変化したぁっ!? 爆発までのカウントダウンが始まっても、おぃらのせいじゃないですからねっ!
「なんだ、おめぇ、それは……?」
兄ぃ達がわらわらと戻ってきて、その石版を覗き込む。マサ兄ぃは、小枝を拾っておっかなびっくりツンツンしてる。威勢のいいこのお猿さん、実は意外とビビリ屋さんでチビリ屋さんなんだ。
よかった、兄ぃ達にも見えるようになったんだ。
透け透けが兄ぃ達にも見えたぁぁぁっ! って、変態ですか? おぃらは……。