第1話 はれっ? ここどこっ!
2017/04/23 大幅加筆修正 致しました。
オッス、おら、悟……いやいや、おっすっ!
おぃらの名前はシュウ。訳あって苗字はない、というより名乗れない。
えっ? 『訳が知りたい』だって?
………………
まあ、あれだっ! いわゆるその……、
単におぃらが名門博徒一家【梅津】の半人前だからだっ!
ふふふん、どうだっ! スゲーだろー。
………………
コホンッ、まあ、とにかくあれだっ!
今から始めるのは、そんなおぃらが、異世界とやらでガンガンのし上がってく話なんだぜっ。
きっとすんげぇ武勇伝やら自慢話タラタラになっちゃうかもだけどさ、そこはまあ我慢しておくれよ。おぃらと君の仲じゃないかー。
……ゴメンナサイ……物は投げないで下さい……。
そ、そんな訳で【梅津一家】の珍道中……いやいや、【梅津一家の武勇伝】ぜひご堪能あれぇー。
始まり始まり――
ゴチぃぃぃン!
「おいっ! シュウ! 起きろっ、起きろ!」
いきなりのゲンコツに目を開けると、目が覚めるような美少女が――当然いるわけもなく、そりこみがビッっと入った角刈り頭のおっさんが、おぃらを覗き込んでいた。
「マサ兄ぃ、手と口の順番が逆っすよ……」
マサ兄ぃは、考える事が大の苦手で、口より先に手がでるお茶目な兄貴分だ。時折、お猿さんと間違える人もいるが、れっきとした人間だ。
こんな目つきの悪いお猿さん、探しても滅多にいないもんね。いたとしても、マサ兄ぃと間違えられるお猿さんに失礼ってもんだ。
「シュウっ! ここどこやっ?」
起きてから目にしたのは、視界いっぱいに広がったマサ兄ぃの顔だけだ。そんなおぃらに、当然ここがどこかなんて分かるはずもない。
お猿さんめ、とりあえず手近なおぃらに頼ったな、全くおぃらがいないと、バナナも探せないんだから……ぶつぶつぶつぶつ。
心の中でボヤいてるうちに、寝起きの頭がだんだんと覚醒してくる。
目の前には、お猿さ……いやいや、しゃがみこんで おぃらを覗き込むマサ兄ぃと、その背後には立ったままコチラを見ている三人ほどの人影が……
ん? えっと……キョロキョロ めがねめがねっ――あっ、おぃら視力だけは良かったんだ。
『ゴクリっ……』
マサ兄ぃの後ろには、トシ兄ぃとタツの兄貴、そして……代貸し(カシラ)までいた。
ハァイっ!?
おぃらは慌てて立ち上がると、背筋をビッと伸ばし、腰の後ろで両手を組み、腹の底から声を出す。
「うおいっすっ! おつかれさまです!」
半人前のおぃらが言うのもなんだけどさ、おぃら達の稼業は上下関係と挨拶っ! これ基本中の基本だからなっ。
やばい、寝坊したのか――って、あれっ? おぃら達はたしか……
「でっ、シュウっ……ここどこや?」
マサ兄ぃ、状況飲み込む時間ください……。
おぃらは慌てて辺りを見渡す。
うっそうと生い茂った木々に取り囲まれている。地面は、曲がりくねった木の根っこがところどころ突き出していて、ウネウネとのたくっている。密集した木々に遮られ、お天道様の光も届きにくいのか、なんだか薄暗いしほんのり空気も湿っぽい。
うっ……マジここどこっ? と、とりあえずなんか答えないとっ……
「おっすっ! もっ、森だと思われますっ!」
「おっ、そっか」――ヨイトコショっと
安心したのかマサ兄ぃは、地面にあぐらをかいて座り込む。ぬうっ、鼻歌まで歌いだした。
軽っ! そっ、それでいいんだ……。
座り込んだマサ兄ぃに釣られるように、カシラが木の根っこに腰をかける。その様子を確認したタツの兄貴が、目でおぃらを促しながら座ったので、トシ兄ぃとおぃらも地面に腰を下ろした。
「………………」
カシラはいつも無口だし、頼みのタツの兄貴も、状況を整理しているのかじっとなにかを考えている。
トシ兄ぃはいつもと変わらずニコニコ笑っているし、マサ兄ぃに至っては、鼻歌にこぶしまで効いてきた。まあ、この二人に関しては、最初から戦力外だ。
頭の中に、昨日からの記憶がよみがえってくる。昼間に親父の墓参りに行って、それから事務所の最後の掃除をみっちりとして、それから……
「おぃら達、親父の仇討ちに、権藤組の事務所に乗り込んだんじゃぁ……」
鼻歌をぴたりと止めたマサ兄ぃと、相変わらずニコニコスマイルのトシ兄ぃが、軽くうなずきタツの兄貴をじっと見た……。
なるほどっ、うんうん、それは確かに名案だ。
おぃらも、マサ兄ぃとトシ兄ぃの判断に従う事にする。
基本、おぃら達【お猿同盟】は、頭をつかう事に関してはタツの兄貴に丸投げだ。決して投げやりな訳ではなく、それが役割分担ってやつだからだ。3匹のお猿さん達が下手な考えを出したところで、ろくな事にはならないからね。
「確かにそうですねぇ、あの状況から考えるに、全員あそこで死んだはずなんですがねぇ。
ただ、不思議な事に皆ケガもしてないようですし、血まみれだったはずなのに服もきれいなんですよねぇ」
いつも冷静なタツ兄貴は、さして動揺した様子もない。この御方は、基本いつもこんな感じだ。【梅津一家の頭脳】タツの兄貴が不思議だと言うんだから、きっと状況は不思議なんだろう。
「んじゃあ、まあっ、天国ってことでいいんでねっ?」
マサ兄ぃは、すっかりこの話題に関心をなくしたように、鼻くそをほじっている。
マサ兄ぃ、軽いっすよ。しかもあなた……天国行ける身分だと思ってたんですか?
「うんうん^^ みんな揃ってるし、僕もそれでいいよ~^^」
トシ兄ぃは、ニコニコ笑ってうなずくばかり。
トシ兄ぃ、期待はしてなかったけど、あなたもですか……。
「まあ、あれこれ考えても情報が少なすぎますねぇ。
とりあえず移動して、誰か探しましょう」
タツの兄貴の言葉に、普段から口数の少ないカシラがうなずいたので、みな立ち上がる。
それもそうだよなっ。兄貴達がいて、カシラもいる。それで十分か……。
おぃらは慌てて立ち上がると、みなを率いるようにズンズンと進みだしたカシラの後を追いかけた――
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