序章開幕 はじまりのはじまり
初投稿です。下手っぴですが、がんばって続けていこうと思っています。
2017/4/23 加筆修正致しました。
三頭の馬に引かれたホロ付きの荷馬車が、林の中の道を進んでいる。ラムルの町からアルデの町へと急ぐ荷馬車だ。
その車体は激しく揺れ、悲鳴にも似た軋みを絶えず上げ続けている。
少し積荷を欲張りすぎたか――荷台に座ったラムルの町の小さな商会の主【トルーカ】は、振り返り荷台を覗き込んだ。
荷台の中には、大量に積み込まれた小麦や野菜類、それに壷に入れられた干物や塩。
ドラゴンに襲われたアルデの町に届ける為に、トルーカが蓄えのほとんどを費やし揃えた品々だ。
これで少しでも子供達の腹を満たせるのなら――もちろん、商人であるトルーカには、思惑もある。
海辺にあるアルデの町は、獣人達が暮らす閉鎖的な町だ。この救援物資で恩を売り、海産物の取引を進めたい――そんな思惑だ。
人間であるトルーカに、アルデの町の獣人たちは容易に心を開かない。今まで幾度となく通ったアルデの町だが、仲良くなるのは、物珍しさから駆け寄ってくる子供達ばかりなのだ。
ただ、例え垣根が取り除けたとしても、これだけの投資を回収するのに何年かかることやら――トルーカを憂いが襲う。
駆け込んできた使いの述べた町の惨状から、町の再起まで何年も待ち続ける自分の姿が、商いに長けたトルーカには容易に想像できる。
人助けにつまらぬ事を考えるのもではないな、蓄えなどまたコツコツ働けばいいだけじゃないか――トルーカは気分を変えようと、再び前を向き、先頭の馬に跨る女冒険者に目を向けた。冒険者ギルドで募った、護衛役の冒険者だ。
ドラゴンに襲われたばかりの町、しかも閉鎖的な獣人の町アルデへの護衛――そんな理由から誰もが尻ごみする中、名乗りを上げたのがこの女冒険者リアだ。
Bクラスの、通常なら護衛など引き受けるはずのない凄腕の冒険者のリアだが、彼女にもまた、故郷の町アルデの様子が知りたいという思惑があるのだろう。
長く伸ばした髪の毛を掻き分けるように突き出た三角の耳、腰の辺りから伸びる短い毛並みの長いしっぽ――リアは猫族の獣人なのだ。
トルーカは、鍛え抜かれているはずなのにしなやかさを失わない均整のとれた後ろ姿に、冒険者ギルドで見た正面からの立ち姿を重ね合わせる。
それにしても、噂にたがわぬ女っぷりだが――トルーカは、雇い主である自分に対して、礼を持って接してくるリアに噂とは違う一面を感じていた。
ラムルの町でリアの名を知らない者はいない。もちろんその美貌や冒険者の腕前もその理由のひとつだ。
「トルーカさん。なにか御用ですか?」
敏感に気配を感じ取ったのだろう――振り返ったリアが静かにトルーカに問いかける。
その表情は、職務に対してただひたすら真剣に向かう生真面目な、一見クールとも捉えかねられない表情だ。
その表情を自分だけに向ける笑顔に変えようと奮闘し、返り討ちに合い壮絶に散っていった数々の男達の噂が、彼女をこう呼ぶ――男嫌いのリア――。
そんな彼女にどう返事を返そうか、一瞬考えたトルーカが口を開きかけたその瞬間――
激しい異音を立てて荷馬車が前に傾き、トルーカは空中に投げ出された――
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