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五話

 はあ……

 お腹すいた……ってこれ前にも言ったわね。

 でも本当にお腹空いたのよ……


 改めてこの森に生まれたのは神様の間違いか嫌がらせじゃないかしら?


 あのツノゴリラから全力で逃げた後も色々といたわ、ゴリラと狼に会うまで何もいなかったとは思えないほどにね。


 キリンみたいな見た目だけど、首に棘が生えててそれを振り回してる奴とか、クマみたいだけど、足が異様に発達してる奴とか、ワニなのに二足歩行で鋭い爪を持ってる奴とか。


 ここは動物園かなにか?

 なぜか地球にいた生物の一部が変わっているやつが多いのはなんでなんでしょ、転生のテンプレって奴だったらゴブリンとかスライムじゃないの!?


 それに何より嫌なのは昆虫系ね!!!

 クワガタとかカマキリとかはまだいいわ。

 地球にいたような奴を大きくしただけだから、まあ、それでもクマみたいなサイズのクワガタは怖すぎたけど……

 でも!!!

 ムカデ、芋虫!!お前らは大きくなっちゃだめよ!

 見た目気持ち悪すぎるわ!!!

 2メートル近いムカデとかもう見た瞬間全身の毛が逆立ったわ!!

 あの無数の足が蠢いて移動する様ときたら……うう、今思い出しても鳥肌が……


 え?どれか戦ったのかって?

 無理に決まってるじゃない!!!!

 全て見た瞬間逃げたわよ!!

 え?この前転生者が逃げてばっかりはどうなんだとか言ってなかったか、ですって? じゃあ、貴方は見上げるほどの大きさのクワガタと戦えるっているの?ムカデとやりあえるっていうの!?

 無理でしょ?私も無理!


 さて、でも困ったのよね。

 敵倒せないから肉は得られない、草は身体が受け付けないから食べられない、木の実はどうだかわからないけどないものはしょうがない。


 魚とかどうだろう?って思ったんだけど川が見つからない。

 他のこの辺に住んでいる生物は飲み水どうしてるんでしょ。


 ほとんど空が見えないからわからないけどちょっと暗くなってきたから日が暮れてきたんだと思う。

 この身体だからなのかな、空腹がかなり堪える、一日何も食べないくらいどうってことないと思ったんだけどもう足がおぼつかないくらいに疲労がきてるのよね。


 他の生物から逃げるのに全力出したからかな。


◆ ◆ ◆


 どれくらい歩いたかな、あたりはだいぶ暗くなっちゃった。


 今はちょっと前に見つけた崖の下に空いてたちっちゃい洞窟で丸くなって休憩中、夜が来たからかちょっと寒くなったけど私ふわふわの毛で覆われてるから凍えるほどではないかな。


 それで今私の前には腐肉がある、多分他の生物に殺されて放置されたんだと思う。

 崖の下に落ちてるのを見つけて頑張って持ってきた。

 重かったけどこの身体ステータスの割には力があるみたい。

 ……それは人。

 そう、人だ。

 なんで一杯いる他の生物の死骸がなくて人間の死骸が有るのかとかこの近くに人が住んでるところがあるののかとか考えることはいっぱいあるにはあるけど今はそんな事どうでもいい。


 目の前の死体はかなり腐敗が進んでてよく分からないけど男だと思う、皮の防具みたいのを着てるから冒険者だったのかな。

 右の腰のところに何か入っていたんだろう破れた袋とサビサビになってる剣がぶら下がってる。


 死んだ原因は腹を食い破られたからだろうね、脇腹の辺りの肉が抉られて大きな穴が空いてる。

 放置されてから時間が経っているんでしょう、所々変色してかなりの腐敗臭がする、持ってくるとき臭いがきつかった……


 前世の私だったらこの死体を見ただけで卒倒してたと思う、けど今はそこまで不快には思わない、いや、むしろ……


 私はその腐肉を見つめながら思案中。


 いやいやいやいや、流石にこれは食べられないでしょう、腐ってるし。

 何より人だし。


 でも他の生物を倒すこともできないし、草も食べられない、木の皮も齧ってみたし、もしかしたらと思って土とか石とかにも噛り付いてみた、けどどれも食べられなかった、石なんて歯が欠けそうになった。


 もうかなり空腹がひどい、もう少ししたら倒れると思う。


 頭の中で葛藤する。

 これを食べてしまったらもう私は戻れない。


 私はまだ人間の頃と同じように暮らしていけると何処かで思っていた、身体は人じゃなくなっちゃったけど、せっかく記憶を持って転生したんだし今度こそうまく生きてやろうと思っていた。

 あの二人組は襲ってきたけど、このかわいい見た目だしお金持ちのペットにでもなればゆったりのんびりと暮らしていけるかもと。


 でも…………


 もうこの死体を持ってきた時点で決まってはいた、認めたくはなかったけど私は目の前の物を『肉』と認めてしまっている、食べるものだと身体が訴えてきている。


 それに、これを食べなきゃ私はもう1日も持たないと思う、今こうして考えている間にも身体の力が抜けて、命がガリガリと減っていく気がする。

 とゆうか実際減っているさっきステータス見たらHPが2になってた、0になったら死ぬとしたらもう猶予はない。


「…………」


 人であること、人と共に生きることを捨てたくはない。

 でも、それでも生きたい!!

 惨めに死んでいくのはもう嫌だ!!


 覚悟を決めた、意を決して足の部分に齧り付く。


 噛み付いたところの感触に、その腐った肉の味に、人間を食べているという行為自体にひどい吐き気が襲ってくる。

 噛み付いたその場所から何かよくわからない物が吹き出てきて口の中を満たす。


 不味いまずいまずいまずい


 飲み込もうとしても身体が飲み込むのを拒否してくるけどそれでも気合で飲み込む、しかし胃が拒否したように口の中に戻ってくる。


 涙が止まらない、人を食べているということ、なんで自分がこんなことになっているのか、これからどうしていけばいいのかという不安が襲ってくる。

 考えないようにしていた不安が襲ってくる。

 身体が勝手に食べるのを止めようとする。


 でも、それでも。

 食べるのはやめない。

 何度も吐いては食らいつく、これは生きるための行為だと自分に何度も言い聞かせながら。


 ……生きてやる。

 もう惨めに死ぬのは嫌だ、何も意味がなく死んでいくのは嫌だ。


 どんな事をしてでも生きる、生きてやる、今度こそ。


 骨と着ていた服と持っていたものを残して全てを食べきった。

 私は今、涙と腐肉と血とでぐちゃぐちゃな顔をしているだろう。


 ………でも、これでまだ生きられる。


《特定行動により称号を獲得、『腐肉を漁るもの』を獲得しました。》

《称号、『腐肉を漁るもの』の効果により経験値5を獲得。レベルが1上昇しました。》


 なにか天の声さんが言っているけどもう私には考える力は残っていなかった。


 もう、無理今は泥のように寝たい。

 ふっと意識を手放し、意識は暗闇の底へと沈んでいった。

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