どうか、愛を
新キャラのお嬢さま
「………静かすぎないか?」
真琴達は校舎へと入ったが、授業をしているはずにも関わらず、あまりにもそこは静かだった。
「授業に組み込むって、まさか…
全学年の全生徒を集めたってのか…?」
これは普通ではないと、改めて認識する。
「おい真琴。これはいくら何でもおかしくないか?」
「…七海もそう思うか。」
「あぁ…
いくら何でも、たかが養成校生徒と教師+αの模擬戦争なだけだぞ?
学校が総手を挙げて行うようなものでは無いはずだろう。」
「ところがそうでは無い。
…って事なんだろうな。おそらく。」
しかしその瞬間、5人の纏う空気が変わった
「…まこちゃん…。
……どうする?」
「…3人。敵対心無し。
どうする?まこと。」
「いや、違うぞ炎華。
…正確には1人だ。これ。」
「…牡丹は主さまをお守りいたします。」
「んじゃ俺は一応いつでも戦える状態にはしておこうか。
真琴は、どうする。」
「…決まってるだろ?」
ニヤリと笑う
「大胆不敵に笑っててやるさ。
痺れを切らした相手さんが勝手に寄ってくるはずだからなぁ!!」
真琴がそう言った時、何かが起きた。
『…ッ!!』
(今聞こえたのは恐らくノイズの様なものだ。
って事は異能の使用者は別にいるってことだなぁ…
秘蔵っ子の管理がなってないぜ蒼ちゃん先生…。)
臨戦態勢を解かないまま5人は歩を進め始めた。
向かうは体育館。
おそらく全校生徒、及びに桃井蒼歌を含む全職員。
そして、件の秘蔵っ子が待っている其処へと。
「…だから言っただろうが…
アイツらはそんな簡単に測れるような大人しい奴らじゃないんだよ。」
桃井蒼歌は『秘蔵っ子』とやらに向けてそう言った。
「…悔しいですわね。私としたことが手も足も出せずに異能を潰されるなんて…。」
その言葉を受け止め、返事を返したのは真琴と同じ碧い眼をした少女。
金髪碧眼。
それも相当育ちがいいように思われる言動。
しかしにじみ出る戦意はその容貌に似つかわしくないほど鋭く、それでいて華やかだった。
「あぁ。大人しく見える雪平姉ですらあの有様だ。
…まったく、お前の人を惹きつける力はその異能にも引けを取らないほど強大なものだと再確認させられるよ。
でも手加減はしない。
手加減をされるのは嫌いだろう…?」
「流石。
よく分かってるじゃないすか…
とっとと始めますか。
手を出されたまま、和やかに済ませられるほど俺達『イレギュラーズ』は心が広くないですからね。」
そう言いながら、やはり全員が同じようにそれぞれに笑みを浮かべながら体育館へと入ってくる。
「24舎代表部隊。
隊長の歌代真琴です。以後よろしく金髪さん。」
「…同じく隊長補佐。黒樹七海だ。」
「え、えっと、副隊長になっちゃいました…雪平氷華です…
…よ、よろしく、ね?」
「ひばなのサポートで、同じく雪平炎華だ。
よろしくだぞ。」
「…主さまの右腕、牡丹です。」
「……以上、八雲九火を除く4名及びに式神1名。
通称『イレギュラーズ』。到着いたしました」
体育館中に凄まじい熱気が渦巻いている。
…『イレギュラーズ』は全員が全員、規格外の化け物。
5人中4人が五舎の前年度の卒業生であり、なんとその4人の異能は、合わせて計7種。
被っている異能の種類もあるので7種に収まっているが、3人が二種異者、1人は世界にただ1人の限界者である。
異能には、固有異能というものが存在する。
限られたものだけが扱うことの出来る、世界に一つしかないその者専用の異能である。
『イレギュラーズ』は、八雲九火含む全員が固有異能まで持っている。
伝説にならない、わけがなかった。
「『イレギュラーズ』、か…
面白いネーミングセンスだな?それほど似合っている名前はそうそうないぞ。真琴。」
桃井蒼歌と歌代真琴が今、一歩出て対峙する。
「八雲九火とやらの役職は決まっているのか?」
「俺の左腕ですよ。」
「…ふむ。そうか。どうやらあの娘が上手くやれているようで安心したよ。」
少し驚いた真琴。
「知っているんですか?九火のこと。」
「知っているも何も…」
そこで、真琴にそっくりな…いや、真琴が似てしまったのかもしれない不敵な笑みを蒼歌が浮かべる。
「あれの姉。
八雲灯は私と同期で同じ一舎の代表仲間だ。
お前の式神も灯に教えてもらったのだろう?」
「…ははっ。そういうこと、か。
はい。これは灯先生に教えられ、手に入れることの出来た大切な仲間です。」
そして真琴が金髪碧眼の少女の方を向き、言う。
「俺の名前は歌代真琴。この部隊の隊長で、蒼ちゃん先生の愛弟子だ。「自称だがな。自称。」…じ、自称愛弟子、だ。うん。
…よしっ。君の名前を教えてくれないか?」
少女は驚いたように目をパチパチと瞬かせる。
「…驚きましたわ。
蒼歌がそんなにフレンドリーに接する殿方なんて初めて見ましたもの。」
「お、おい待てこら。そんな事ないぞ…おい…」
少し困惑したように言い返す蒼歌を見てコロコロ笑う。
よく笑うようだが、笑い方一つとっても美しい動作だった。
「私の名前はユーリカ・エーデルワイス。
…貴方はどうやら面白い方であるようですわね。ファーストネームでお呼びしてもよろしいかしら?」
「あぁ。構わないぜエーデルワイス嬢。んじゃ俺もファーストネームで呼んでも?」
「あら。積極的な殿方ですわね。
蒼歌が溶かされるのも無理はありませんわね。」
「だから…私は別に溶かされてなど…」
やはりコロコロと綺麗な声で笑う。
「真琴!!私の事は特別にファーストネームで…いえ。」
突然呼び捨てにされて少し驚く真琴。
「『ユーリ』と呼ぶことを、特別に許可しますわ。
喜びなさい?私の愛称を呼ぶことを許した殿方は父上を除いて貴方だけですわ。
本来ならば父と旦那様となる方以外には許すことは、ないのですわよ?」
『え、それってつまりまこちゃんを自分の夫にするつもりってこと…?!』
『だ、だめだぞひばな…!!それはまずいぞ?!』
『はぁ…アホ姉妹。落ち着け。馬鹿がバレるぞ』
「…雪平姉妹もお前のこととなると相変わらずだな」
「…?何のことだ?」
「何でもないさ。この鈍感が。」
何故か蒼歌まで少し拗ねたようにボソリと呟く。
ダンッ!!!
と、ユーリカ・エーデルワイスが一歩前に踏み出し、桃井蒼歌と肩を並べる。
「…始めますわよ。真琴。
私とあなたの、戦争ですわ!!」
天下の異者。
桃井蒼歌と肩を並べることが出来る異者など、そうそういない。
それを再認識した真琴。
…いつから似てしまったのだろうか。
不敵なはずの笑みを浮かべる。
不思議と、真琴と蒼歌の2人が顔にするその笑みは、周りに不快な印象を与える事はなく。
むしろ一種の清々しさまで与える、爽やかさを併せ持っていた。
「あぁ!!受けて立ってやる!!
だが一つ訂正だ。ユーリ。」
「あら。何かしら?」
伝染したかのように笑みを浮かべながらユーリカ・エーデルワイスが返す。
「…ユーリと俺の戦争じゃねぇ…。
俺達と蒼ちゃん先生、ユーリの…
これは俺達『イレギュラーズ』との戦争だッ!!!!!!」
体育館中から熱狂の声が上がる。
初歩的な異能の応用。『拡声』を蒼歌が使う。
《只今より、養成校24舎代表チーム対学校五舎代表、桃井・ユーリカ両名の模擬戦争を始める!!!!!》
師と弟子の戦いの火蓋が、今。
切って落とされた。
この日私は、突然姉様に呼び出された。
「…九火。少し聞きたいことがあるの。
いいかしら?」
「ええ。構わないわ姉様。」
「…24舎は、どう?」
質問の意味が、よく理解できない。
「…?どういう、意味かよく分からないわ。」
姉様は少し困ったように笑う。
「正確には、『イレギュラーズ』の…
同じ代表の皆をどう思っているのか聞きたかったのよ。
遠まわしになってしまってごめんなさいね…」
少し、いや、とても意外な質問だった。
私が同じ代表の皆をどう思っているのか…
私にも、分からない。
でもひとつ言える事はーーーー
「あの人たちの輪に、私も入りたい…?」
いや、違う。
自分に嘘をつく必要などない。
正直に口にしよう。
初めて一人の人を気にしている、と。
『血筋の壁を越えて…
式神を召喚した。
あんなに大きな、とてつもない力…うかつに近づいたら喰われてしまいそうなほど深い、何かを持った
歌代真琴という少年を』
「私は彼を、理解したい。
初めて自分から興味を持てた人間よ。
八雲九火は、歌代真琴と共にありたい。と、思っているわーーーーー」
八雲九火は、家のしきたりによって決められるはずの自分の許婚を
初めて自分から意見を出し
歌代真琴を許婚とする事に決めた。
八雲九火の欠けていた感情が埋まり始めたこの時。
真琴の知らないところで、真琴を想う少女が、またひとつ。
控え目であるが、可憐な笑顔の花を咲かせた
九火もまた一つ。小さな花を咲かせました。
わたわたしている蒼歌せんせー可愛いよせんせーかわいい。