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最低校の異者ども!  作者: 眞鍋 大輝
7/18

繋いだ手にキスを

息抜き編

私は祈り続ける


誰もいないこの世界で


あぁ。神よ。


もし、いるのならば…




私に翼を。



堕ちた私に、もう一度。



彼処へ…彼の元へ
















今、真琴(まこと)は大きな岐路に立たされていた。


(俺はどうしたらいいんだ。)

(知るか馬鹿。自分のケツは自分で拭くものだ。)


七海(ななみ)にアイコンタクトをとるがあっさりと捨てられてしまう。


「おい!まこと!どうするんだ!!」

「まこちゃん…私は別に無理しなくても…」

「だめだよひばな!!こういう時、男は許すと付け上がるんだって!!」


真琴(まこと)は2人の乙女から詰め寄られていた。

いや、正確には1人であった。


「いや…ははは…えーっと…ホント悪い…」


真琴(まこと)は今日、氷華(ひばな)と買い物に行く約束をしていた。

そして真琴(まこと)は今日、炎華(ほのか)と1日遊ぶ約束をした。


つまり、ダブルブッキング。


七海(ななみ)はそれを分かっていて知らないふりをしていたが、時既に遅し。


案の定こうして謝るハメになっていた。





真琴(まこと)による必死の謝罪もあってか、結局は氷華(ひばな)から


「じゃあ今日は皆で五舎に遊びに行きましょう。校争も近いし。」


という折衷案が出たのだった。







『ーーーって事で今日お邪魔しても良いですか?』


「あぁ、構わないが…



今日、平日だろうが。



お前らなんだあれか?サボりか?堂々としたサボりなのか?」


『ちょ、違う違う。俺達全員校争に出ることになったからさ。

なんか、準備期間って事で今日から1週間授業が無いんだわ。うん。



だからさ。久しぶりに手合わせ願いたいんです。』



…どうやら私の教え子は向こうに行っても相変わらずのようだ…と、少し。安心した。


「…はぁ…。

自覚があるかどうかはわからんが、お前達はうちでは軽く伝説になっていてな。

そういうことならこっちからも条件がある。」


『はい。』


「今日の授業に組み込ませてもらうぞ。


お前達と模擬戦争をやってやろう。」


『うぇ。まじでございますか…?』


困ったら語尾が変になるのも久しぶりに聞いたなぁ。と少し懐かしむが、それとこれとは別。



「決まりだな。

今は8時だから、そっちからこっちまで最速でも4時間くらいか…


…仕方ない。昼飯くらいは奢ってやろう。」



電話をしているこの教師は、自分の頬が緩んでいることに気付いていなかった。


『やったね!んじゃ今から向かいますね!!ひゃっほう!奢りだ!!』


それだけはしゃいで言うと、真琴(まこと)は電話を切ってしまった。



「…まったく。

相変わらず賑やかな男だ。」



模擬戦争とは、少数同士で行う団体戦のことである。


校争がすぐ1週間後に控えている今、この模擬戦争をすることが出来るのは実際かなり魅力的な話である。





だが、それは相手がこの異者(チェイサー)


天下の桃井(ももい)蒼歌(あおか)でさえ無ければ。





(あいつ、相手が私だから一瞬渋ったな…まったく。

めんどくさがりなのも変わらないのか。)


だが昼飯程度で釣れたので良しとしよう!と、自分で自分を言い聞かせる。


ーーーその日、桃井(ももい)蒼歌(あおか)は謎にテンションが高いと午前中に生徒達から指摘され少し恥ずかしい思いをしたのは、また別の話。






「ってーことで。」←真琴(まこと)

「…行くか」←七海(ななみ)

「久しぶりだなぁ…桃井(ももい)先生」←氷華(ひばな)

「…いや、だから私桃井(ももい)先生に担当されたこと一回もないんだけど…」←引きつった笑みを浮かべる炎華(ほのか)


少し前までは『私も一緒に行ってよろしいのでしょうか…?』と尋ねてきていた牡丹(ぼたん)は、今はもう聞いてくることは無い。


私は、主さまの右腕ですから、と。




(とはいえ模擬戦争かぁ…

2、3年との模擬戦争も控えてるし、なかなかハードな1週間だなこれは。)


少し前に校争の出場権について2、3年からの文句を受けていた真琴(まこと)達。


五舎に向かう間。そして、蒼歌(あおか)と合流してから昼飯を食べている時の話の種は、もっぱらその時のことだった。



その2、3年が訪ねてきた時に、時間は大きく遡る。


真琴(まこと)達の元に訪れてくる生徒がいた。


上級生ばかり、5人ほど。


「お前が、歌代(うたしろ)真琴(まこと)か?」


リーダー格のように見える男が見下した様子で声をかけてくる。


「…あぁ。そうだ。が、俺にはポリシーがあってな。先輩方。」


しかし一方で真琴(まこと)は、まるでこうなるのが…


上級生達が来ることが分かっていたかのように笑みを浮かべ、切り返す


「人に名前を聞くにはまず自分から、だ。


礼儀だぜ。先輩方。」


「な、テメェ…生意気なっ?!」



激昂し、詰め寄ろうとした上級生の首元に、瞬間。

熱く燃える焔のような刀身が忍ぶ。


刀身の主は、牡丹(ぼたん)だった。


「主さまに無礼であるぞ。下郎。


身をわきまえろ。」


言葉を失う周囲に対して、真琴(まこと)達は


「…どこから出したのそれ。」

「え、それ今聞くことか真琴(まこと)。」

「そうだよまこちゃん…」

「相変わらずのマイペースだな。」

「…式神だから恐らく、別の空間から取り出しているわ。私たちには出来ないのだから考えるだけ無駄よ、真琴(まこと)。」


九火(きゅうび)にまでツッコまれ、味方によって旗色が悪くなってしまった真琴(まこと)


何の用だ、と声をかけるしか逃げ道が無くなってしまう。


「…まぁ、いいや…何の用だよ先輩方。」


真琴(まこと)が声を発すると、牡丹(ぼたん)はすぐに構えを解きいつもの定位置(結局真琴(まこと)の膝の上に落ち着いてしまった)に座り直す。


「…ぇ、あ、あぁ。


…たかが入学試験の時の点数が良かった野郎どもに校争の出場権を奪われるのに納得がいかねえんだ。分かるか?後輩。」


声を出せるようになるまで少しかかったが、多少は落ち着いた様子で返事を返すリーダー格の男。


「そこで、だ。俺達2、3年の上位5名は、お前達5人へ模擬戦争を申し込む。


…あくまで挑戦者はこちら側という事になっているが、逃げないよな?1年坊主。」


それを聞いた瞬間、真琴(まこと)はバレないように心の中でほくそ笑んでいた。

(ありがたい…。どうせこうなる事は分かっていた。

校争はある種大きな活躍の場であることには違いない。今後を左右する可能性も大きく含んだイベントだ。

2、3年費やしてきた時間を1年に奪われるのは癪だった。って思ったはず。)


しかし顔に出てしまう。


「いいぜ先輩方。その喧嘩を快く買ってやるよ」


何も知らない上級生を軽く震えさせるほどにブラックな笑顔でそう言い返したのだった…。






「ーーーーってな事があったわけですわ。」

「あの時のまこちゃん、笑顔が怖かったよ?」

「ん?真琴(まこと)の笑顔が怖いのはいつも通りじゃあ…?」

「そうだぞほのか。ある意味いつも通りだったぞ?」

「そ、そうかな…。」


ちょっと凹んだショボンとした顔でその会話を眺める真琴(まこと)


「…どうやら相変わらずのようだなお前達は。


相変わらずお前の扱いも笑えるようだ。」

「…ひどいぜ蒼ちゃん先生…」

「だから蒼ちゃんと呼ぶなと…」


真琴(まこと)蒼歌(あおか)もある意味二人で盛り上がって(?)いた。

が、蒼歌(あおか)

「時間が時間だな。んじゃ私は先にお会計済ませて、学校に戻っておくからお前達も後から来い。


…そうだな、模擬戦争だが、場所は体育館でやろう。あそこならそこそこの広さもあるし、恐らく暴れてもある程度は耐えられる。」


という言葉でお開きになる。



真琴(まこと)

「俺達の相手は誰がするんだ?」

と問う


すると

「私1人。



…と、言いたいところだが流石にお前が相手だと正直きつい。」

というふうに蒼歌(あおか)が返す。


…ここにもし、九火(きゅうび)がいたらこう思っただろう。


天下の異者(チェイサー)と呼ばれる桃井(ももい)蒼歌(あおか)に、『お前達』ではなく『お前』と単体で呼ばれ、警戒されるこの歌代(うたしろ)真琴(まこと)という少年は一体……本当に、何者なのだろうか。と。


蒼歌(あおか)は言う。

「だから、もう1人だけ連れる事にした。


なぁに、心配するな。


単純に強さだけで見たらお前達と遜色ないほどに、強い。

私の秘蔵っ子だ。」


そう言って立ち上がり、会計を済まして出て行ってしまう蒼歌(あおか)



「…ちょっと、伝えたいこと1つ忘れてたから行ってくる。」

しかし、真琴(まこと)は笑顔でそう言って蒼歌(あおか)を追いかけた。



外で真琴(まこと)に引き止められた蒼歌(あおか)


「…1人で言いたいことでもあったのか?」


「えぇ。


2人っきりじゃないと少し恥ずかしいんですよ。」


真顔で『恥ずかしい』などと言ってみせた真琴(まこと)に少し驚いた蒼歌(あおか)


…そして、真琴(まこと)の口から飛び出したのは、蒼歌(あおか)にとって予想外すぎる言葉だった。


「昼飯ごちそうさまでした。





あと、俺はこの校争で絶対優勝します。


優勝して、褒美として


異者(チェイサー)桃井(ももい)蒼歌(あおか)を貰います。」


などと。言ってみせる。




「………は?」


自分の顔が火照るのを感じる。


年も2つ3つしか変わらない。


魅力的であるだろう少年に、臆面もなくそんな事を言われるとは…。


「も、貰うだと?それは一体…」


「俺は桃井(ももい)蒼歌(あおか)を自分の恩師であると、心からそう思っています。


俺はまだまだ貴女から学びたい事があります。それに俺はまだ1人で貴女に勝ったこともない。


俺が勝つまで、俺の教育を放棄するなんて許しませんよ?」


最後はおどけて言ってみせたがつまりはこう言いたいのだ。


『優勝して、その褒美で桃井(ももい)蒼歌(あおか)を24舎に引き入れる。』と。そういうことである。


「…紛らわしいんだバカ。(ボソッ)」


「…?何か言いましたか?」


「な、何も言ってにゃい!!!」


「………」

「………言って、ない。」

「あ、ハイ。」


蒼歌(あおか)は後ろを向いて歩いて行ってしまう。


だが、五歩程度進んで立ち止まる。



「ーーーーもしその時は」


振り返り、


『私がお前に…付きっきりで、沢山教えてやるよ』


頬を赤く染めながら、笑顔でそう言った。














…まだ心臓が鳴っている気が、する。


みっともないなぁ…年下の、よりによって教え子に心をときめかせてしまうとは。


「はぁ…。」


思わず出たため息。


否応なしに感じさせられる。


実際私はまだ10代だ…別に悪い事をしているわけでは…


「…あああああああああ!!!何を考えているんだ私はぁぁぁぁ…


しっかりしろ…私は桃井(ももい)蒼歌(あおか)だぞ…」


だが意識すればするほどに頬は赤みを帯びていく。


…貰う、ってなんだ貰うって…普通の人が聞いたらびっくりして当然、な筈。


…だよな?


「まぁ、確かに少しは嬉しかったことも認めるけど…」






いつもは気丈に、凛々しい桃井(ももい)蒼歌(あおか)も、やはり1人の乙女なのであった。

…あれ?やっぱり蒼歌(あおか)せんせーが一番可愛…あれ…

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