とある日常
2部突入。校争編。
ーーあの後、真琴と牡丹が動き出した時。
皆がどうなるのか…と、身構えていた。
私も…八雲九火も、同じふうに身構えた。
でも、動き出したのは、式神の女の子の方で
とても綺麗で可愛い笑顔を咲かせて真琴に飛び込んで行った。
私と姉様…いや、皆だって聞きたい事はあったと思うわ。
でも、誰も聞くことは出来なかった。
仲のいいあの三人が何も言わないんだもの。
黒樹七海も
雪平氷華も
雪平炎華も
三人して分かっていたかのように笑っているんだもの。
私は初めて
『あぁ、私もこの人達の輪に入りたい…
信頼しあえる仲間というものが、欲しいのかもしれない…』
そう、思った。
私が他人に…姉以外の他人に
こんなにも興味を示したのは
歌代真琴
彼が初めての存在。
式神騒動から時間は経ち、真琴達はクラスとしてまとまってくると共に、一つのちょっとした問題点を見つけていた。
「ねぇ…。担任として聞きたいんだけど、その式神ちゃん、仕舞えないの?」
「私は式神ちゃんではなく牡丹です。」
「あ、ごめんなさいね牡丹ちゃん。」
授業を受けている時も、実技で動いている時でも、必ず牡丹が真琴を甲斐甲斐しく世話しているのである。
灯は担任として、口に出して聞いたが
正直な所クラスみんながもう慣れてしまっている。この光景に。
「まぁ、牡丹ちゃんが普通の式神と違う事はよく分かったわ。
主の命令に意見する式神なんて聞いたことないもの…。」
牡丹は、真琴の
『用がある時だけ出てきてくれればいい』
『なんか悪いからせめて席用意してもらうから座ってくれ』
といったふうな言葉を
『私は主さまの一部です。常に一緒にいます』
『それなら主さまのお膝の上に座るので構いません』
とバッサリ切り捨てていた
「まぁ、命令ってよりは提案に近いと思うがな。」
と、これは真琴の言葉であったが
灯が心配しているのは真琴のことだ。
通常。式神は使役しているだけで異能を使っている時と同じく疲労が溜まる。
常時式神を使役しているなど、常人からすればどう考えても自殺である。
しかし、真琴は疲れたそぶりも見せず
そもそも牡丹が自分のせいで疲れる主を見たいはずもないだろうと考えて
『一体、牡丹とはどういう式神なのか』
と、思うところはあるのだがもう妥協することにした。
「まぁ…諦めるわ。どうやら主と同じく一筋縄では行かない子のようね。」
今は、座学の時間。
そもそも真琴達が戦いにおいて頼らなければならない、その力について。
その話をしていた。
「話を脱線させてごめんなさい。
今から大事なことを話すから、皆ちゃんと聞いてくれると助かるわ。
…知っている子も多いと思いますが、異能には何種類も属性が有ります。」
気を取り直して話し出す灯。
「大きく分けて12種類有ります。」
『火』
『炎』
『水』
『氷』
『電』
『雷』
『土』
『地』
『光』
『闇』
『力』
『音』
と、灯が並べて話す。
「この12種のうち、ポピュラーなのが前半に述べた8つ。『火』から『地』までです。
基本、後の4つはなかなかお目にかかれないと思います…。このクラスを除いて。」
話は変わるが、現在このクラスには空席が2つ存在する。
灯によると、『事情の込み合った2人なの。そのうち貴方達にも自己紹介してクラスに入ってもらうわ。』ということであった。
そして、灯が言ったように珍しい異能を使う人間…真琴がこのクラスに居るが、仕える異能は、3種。
残りの1種を使える人間はこのクラスに居ない。
(ってことは、そのうち参加する残りの2人に『力』を使うことが出来る奴が居るってことか…)
この考えに至ったのは4人だけだった。
九火も含め、他のクラスの人間はそこまで考えていない。
「では、この12種の異能について大雑把に説明させてもらいます。
『火』は、精密なコントロールが特徴的ですが、火力は控えめです。
『炎』は、対照的に爆発的な火力を誇ります。が、コントロールに欠け、持続力もそれほどありません。
『水』は、用途が限られますがその効果を及ぼすことの出来る範囲はとても広いです。
『氷』は、逆に1点のみにしか力を集中することができません。しかし、人によっては大範囲に展開することの出来る異者もいます。
『電』と『雷』、『土』と『地』は、本来同じであったとされています。
『電』は、周囲にプラズマを発生させ、超小規模な雷の様なものを発生させることが出来、『雷』はそれを遥かに上回る雷…言わば上位互換です。
『土』も同じように、細かな砂や石等を意のままに操り、広範囲の攻防を得意とします。が、『地』は地形を変えるほどの力を誇ります。これも完全に上位互換とされています。
なので、『電』と『土』の異能を持つ者は努力と才能次第ではありますが、後天的な二種異者が多い属性です。」
ここまでの、ポピュラーな8種については『学校』でも説明される。
しかし、この先の4種は別格である。
「そして、残りの4種…この異能は、未だに解明されていません。
『光』『闇』『力』『音』。
それぞれ使う異者によって用途も能力も大きく変わるのです。
分かっている事は、『何故か物理干渉が出来る』という事だけなんです。」
通常光や闇、力や音は触ることなどできるはずがない。
光や闇は目に見ることが出来るが、力や音に関しては見ることすらできない。
しかし、異能となると話は別で『光』や『闇』で相手をぶん殴ったりも出来るし、『力』に関してはある種最も単純な能力であるが、『じぶんの全能力の超巨大化』という完全至近距離型の異能である。
『音』に関しては、音だけでなく風の流れも操ることが出来るとされており、目に見えないのにそこに壁が存在する…といったような馬鹿げた使い方もできるのである。
「なので、前半8種を政府は『基本種』。後半4種を『異種』と名称付けしています。
…とりあえず今日はここまでしか説明することが出来ませんでしたが、みなさん知ってのとおり、『校舎対抗戦争』…通称『校争』が近づいています」
ここ『天国』には、24の街が存在し、時計回りに二重の円を描くように配置されている。そしてその真ん中に主要都市『政府街』が存在している。
『校争』は、その24の養成校から代表を5人選び、大きなフィールドで5対5の戦闘を行う。
そして、トーナメント性であり、優勝校は何でも1つ政府への要望が通る…。
といった、お遊びのようで実際は全校舎が力を入れて勝ちに来る一大行事である。
「これに出ることの出来る5人が決まったようなので…発表、と行きたいのですが。」
そこで少し困ったように灯がクラスを見渡す。
「…発表、要る?」
まぁ『5人』となればもう決まったようなものであり、実際その通りであった。
「一応、名前は挙げておく…
あ、なら今から呼んだ5人は立って抱負を聞かせてもらうわね。」
それに真琴と七海が顔をしかめる。
「おい…抱負って何話せばいいんだ」
「俺もわからん。が、まぁ真琴は最後じゃないか?」
「はっははは…笑えねえ」
「雪平炎華さん。
雪平氷華さん。
黒樹七海くん。
八雲九火さん。
そして、この部隊の隊長はまあ分かってのとおり貴方よ。歌代真琴くん。」
呼ばれた5人が立ち上がる。
「…言っておくけど、普通養成校1年生が校争に出るなんてまず無いことだから誇りに思いなさい。
貴方達5人は戦闘訓練に3年を費やした養成校3年生全員と2年生を押し退けて選ばれた『イレギュラーズ』なんだから。」
本当に、ありえない。
化物揃いね…うちのクラスは。と、灯は内心ではかなり喜んでいた。
(流石…あの蒼ちゃんが送り込んできた4人…
九火は私が小さい頃から教えていたから、正直な所、隊長として出せるものとばかり思っていたわ。でも蒼ちゃんには及ばなかった…。流石天下の異者なんて呼ばれてるだけはあるわね。)
「雪平炎華。抱負…
抱負は、優勝することだぞ。」
「ほのちゃんずるい…最初にそれ言っちゃうのはずるいよ…
雪平氷華です。抱負は、他校舎の3年生に負けないように精一杯頑張りますねっ。」
「黒樹七海。
抱負は、あー……まぁ、真琴の足は引っ張らねえ様に補佐する事だな」
「待てこら」←真琴
「八雲九火…抱負…私以外の4人の輪に入れるように頑張る…」
それを聞いた灯は、驚いて目を見開く。
しかし、それ以上は何も言わず
「最後、真琴くん。貴方よ」
「その前に一つ質問だ。先生よ。
牡丹。連れて行ってもいいんだよな?部隊長の俺の所有する右腕だ。構わないんだよな?」
「それに関しては構わないわよ。人の形を取っているけど、式神は立派な異能の応用方とされているわ。むしろ胸を張って連れて行ってあげなさい。」
『主さま…!!』と、牡丹が目を輝かせて狐のようなもふもふとした尻尾を揺らす。
(可愛い……この笑顔を俺は守ってやらないとな。うむ。)
「…歌代真琴。
抱負は、優勝して俺の中学の恩師をこの校舎に貰うことだ。」
「なるほど…お前の目的はそれか…。」
「まこちゃんらしいよね。」
「ちょっと待つんだぞ。私だけ担任じゃないんだぞ。桃井先生」
「…。」(誰かわからなので困っている九火)
「って事で、校争までの残り期間。精一杯頑張って頂戴ね。私の『イレギュラーズ』さん♪」
「…っくしゅん。
ん。風邪か?それとも、誰かが私を噂して…
やめておこう。私はこういうガラじゃないな。」
その頃桃井蒼歌は原因不明のくしゃみに1人惑わされていたのであった。
桃井先生のくしゃみ可愛い。くしゅん。