終幕×これは、恋。
区切りの物語
メイドロリが喋る。
「…あなたが私の主たる資格を持つかどうかを、見極めさせていただく。」
「それは構わないが…
俺には女の子を攻撃することはできそうに無い。いくら自分が呼び出した式神とはいえ、な。
だから、条件を付ける。」
「…一体、どのような。」
「俺に一太刀でも浴びせることが出来たら君の勝ちだ。俺は…そうだな。君が諦めるまで守り切ることができたら勝ちだ。わかりやすいだろ?」
それを聞いた瞬間、灯が驚いて声を上げる。
「無茶よ…!相手は式神なのよ?!自分の認めていない人間に手加減なんてしてくれな…い…」
しかし真琴は灯の方を見向きもせず、式神の返答を待っていた。
式神について豊富な知識を持つ灯が言うだけあり、式神は相当な強さを誇る。
人間では太刀打ちできない程度には、強い。
しかし真琴は視線を外さず、
条件を変えるつもりなど、毛頭ない。
「2度は言わない。この条件でいいなら返事をしな。」
「…いいでしょう。私はそれで構いませんが、見たところあなたは吸ーーー」
「それ以上は言うなよ。式神。
たとえ君のような姿であろうと、いや、どんな姿だろうと」
真琴の纏う雰囲気が変わる
「喰うぞ?」
「…ッ!」
(この人間、いや、これは一体…?!私が、式神である私が人間に恐怖を覚えたと言うのか?!)
真琴の眼に睨まれた式神が、反射的に身構えてしまう。
「はぁ…。やれやれだな。」
「黒樹七海。何をして…」
「八雲九火だったか。まぁ見てな」
瞬間、真琴と式神の周りから人が消える。教室の姿も消え去り、そこには不思議な空間が出来上がっていた。
『真琴。とりあえずお前ら2人だけ「裏」に飛ばしたぞ。』
「おー。助かる。七海にしか出来ないからなこれ。」
続けて真琴が言う。
「安心しろ。別に教室や人が消えたわけじゃねえぞ式神。
この空間は七海の異能で造られた部屋みたいなもんだからな。」
詳しい説明は七海にでも聞いてくれと、笑いながら真琴は言う。
「…なるほど。どうやら肉体は別の場所…いえ、私達の精神だけが移動させられた様ですね。」
「それが分かるのか…流石は式神だな。今頃肉体は元の場所で棒のように突っ立ってるさ。」
(先程までの怒気のようなものがもう消えて…本当にこの人間は一体…)
一方、動かなくなった真琴と式神を見て異変に気付く教室。
「あー…すいません。ここでやり合いが起こりそうだったのでちょっと許可もなしで異能使っちゃいました。」
と灯に向けて明るく言い放つ七海。
何が起こったのか灯は把握出来ていないままではあったが、そこはやはり経験だろうか。一言
「…待ちましょう」
とだけ言った。
そして氷華が、炎華が異能を使うために真琴の近くに行った七海の方に移動する。
「…まこと、怒ってたね。」
「…うん。久しぶりに見たけどやっぱり怖いかも。」
「まぁ、真琴のことだ。周囲に被害は出さなかっただろうが、一応、な。」
そこへ九火までやってくる。
「…あれは…式神、よね?」
九火が灯に問いかける。
灯は、少し考えて口を開く。
「式神には違いないと思うわ。普通式神は人の姿をとることは無い、と言われていたけど…」
そこで少し考えるように区切る灯。すると七海が
「でもこのような『イレギュラー』が起きてもおかしくない。真琴自体がそうであるから。ですか?」
うなずく灯。
「さっき言ったように待つしかないですよね…まことは大丈夫だと思うので待ちましょう…!」
氷華は、動かない真琴と式神を見て笑いながらそう言った。
「条件の変更はしないのですね?」
「…そうだな。してもいいがこの空間では多少暴れられても問題ないからな。」
「憶測ではありますが、この空間で死亡するほどのダメージを負っても向こうでは昏倒する程度なのではないですか?人間に創り出せる空間など、限度があると思いますので。」
真琴と式神はまだ戦いを始めてはいなかった。
「いや、この空間での死亡は…そうだな。いうなれば魂の破壊だ。」
この空間をすべて把握出来ている訳では無い。しかし時間の流れ等は現実と変わらないのでもう始めないと七海の負担になると考えた真琴が、簡潔に切り返す。
それを汲み取った式神が、声を上げる。
「では、私の全力をあなたに向けて解き放ちます。
人間なら消し飛んでしまうかも知れませんが、もしこれを受けて生きていることができたら。あなたの勝ちにしてあげます。」
式神の雰囲気が変わり、周囲に無数の炎の玉のようなものが漂い始める。
その炎は、蒼く。そして美しい。
「舞います。《炎舞》」
式神の放った蒼炎が真琴に向けて襲いかかる中、真琴は考えていた。
(恐らく式神は異能の塊のような物じゃないか…?
低位犯罪者の時みたいに『五大』を打ってもいい。が…恐らく喰い尽くせる量じゃ無いだろうな。
八千代さんの『酒天』ですら喰い尽くすことは出来なかった。
今の自分に使うことの出来る『闇』は式しかない。が、五大も狗も太刀打ちするには難しいだろうな…)
もう炎はそこまで迫っている。
「こんな局面だと、『光』しか無いわな。うん。」
(喋る余裕など無い筈だ。人間。)
と、式神は声に出さずに舞い続ける
あくまでもメインウェポンは隠し通す真琴。
『光』だけで対抗出来るという答えに至ったその瞬間、蒼炎が真琴に殺到する。
それを見た式神が舞を止め、様子を伺う。
「…人の身で生き抜くことが出来れば、それだけでも素晴らしいことです。
ですが、無理なものは無理だとわからせて差し上げました。これで終わったでしょうね。」
と、独り言を呟く。
蒼炎は勢いを弱めること無く真琴に殺到し続ける。
二人しかいないこの空間だが、誰が見たとしても、この超火力の蒼炎の攻撃を受け続けている真琴は助からないと、そう思うだろう。
誰が見ても…いや、
黒樹七海
雪平氷華
雪平炎華
この3人以外は、そう思うだろう。
「私は、確かに貴方に呼び出された式神でございます。
しかし、私は仕えるに値する…強き御方にしか従う気はございません。それが、私。
式神 『牡丹』の意思でございます。」
「…やっと名前を言ったな。式神ィ!!」
それは、聞こえるはずのない真琴の声。
否、聞こえてはいけない声である。生きているはずなど、無いのだから。
「なっ…?!何故生きて…!!」
「俺は、自分が強い異能に恵まれている事を分かっている。
だが、まだ足りていないことも同時に分かっている。
お前の…牡丹の技は確かに強力だった。正直驚いた。
だがな…その程度だ。」
周囲に舞っている蒼炎が弾け飛ぶ
そこには微動だにせず
一歩も動いていない
指一本すら動かしていない白髪碧眼が立っていた。
「負けるわけがねぇんだよ。」
「防いだ…のか…?」
呆然とつぶやく牡丹
「あぁ…。
守り切ったぜ?俺は俺をな。」
そう言う真琴は、爽やかに笑っていた。
流石に驚いたようで、牡丹は言葉が出てこない様子が見れる。
「…な、何故ですか?!私は式神!!人間など簡単に消し飛ばすことの出来る『一の座:火焰』を預かる獣人種ですよ?!」
喋り出したかと思えば早口にまくし立てるので、真琴の方が驚いてしまう。
「…一の座?火焰?式神にもコミュニティってか、個体差はあるのか?つまり。」
「そんなはずが…あっていいはずがない…」
「…聞こえてないなこれは…。」
あまりのショックに立ち尽くし動かなくなった牡丹。
真琴は少し考えると、近づいて言った。
「俺の名前は歌代真琴。お前の主だ。
これから先、俺はお前のことを自分の身体の一部として認めてやる。
だから、俺を守れよ。お前は、俺の牡丹だ。これから先ずっと、な。」
頭に手を起き、その綺麗な金髪をすくように撫でる。
丁寧に、丁寧に、自分のものを愛おしがるそのように。
「…私は…良いのですか……?
貴方の、一部となっても…
式神として、貴方のモノとなってもよろしいのですか……?」
目を合わせた牡丹は、初めて真琴のことをはっきりと認識したように感じた。
真琴は、その問に対し、すぐに応える。
『2度は言わないぜ…
お前は、"俺の"牡丹だ。他の誰でもない、な。
分かったら笑ってみせろ。これが俺からお前にする最初で最後の命令だ。
お前は俺の身体の一部。後は付いてきて俺の後ろを守ってくれればいい。
簡単だろ?』
それを聞いた式神の少女は涙を流す。
生まれて初めて、涙を流した。
「はい!!あるじさま!!」
そう答えた少女の…牡丹の顔は
涙でくしゃくしゃになりながらも
大きく咲き誇った花のように
可愛く
それでいて儚く
身も心も全てを真琴という少年に魅了され、奪われ…
初めて私が流した涙は、嬉し涙。
私の主は、教えてくれた。
蔑んでいたはずの人間なのに。
主さまだけは、輝いて見える。
………トクン…………トクン…………と、私は自分の鼓動が高鳴っているのを、感じる。
あぁ…今まで何を思っていたんだろう…。
私だって…
……『人間』じゃ、ないか……。
この気持ちは、恋。
儚く、それでいて大胆に。
自分の認めた主に付き添う少女は
自分の気持ちにはまだ気付いていないが
それでも幸せという気持ちを噛み締めて
自分の"最初で最後"の主の胸に、飛び込んだ。
1幕が閉じました。
まだまだ続くよ(^p^)キラッ☆