メイド×ロリ
「さて!皆さんには良いお知らせと残念なお知らせがあります!」
唐突にそう言い出した八雲灯。真琴達の担任となった人物である。
「皆さんは弱いです!それが悪いお知らせです。とは言っても…例外の方々もいるようではありますが…一番後の5人組は皆さんとは違います。もうお分かりだとは思っていますが。」
ちなみに、真琴の座席は結局教団から見て左から2番目…九火の横になった。
話は続いている。
「後ろの、左から八雲九火、歌代真琴、雪平氷華、雪平炎華、黒樹七海の5人。あの5人はダントツで、一舎の生徒達と比べても最上位の点数を叩き出している例外です。」
炎華曰く、『私がまことの隣じゃないのはおかしい』だのぶつくさ言っていたが、なんとか埋め合わせをする(真琴は悪くない)で手を打ってもらった。
「そして、左端2人…
八雲九火、及びに歌代真琴に関しては、2人揃って今までの歴代点を上回り、記録保持者にまでなってしまいました。といっても、記録保持者は真琴君の方ですが…なんせ彼の点数は少し…いえかなりおかしいので…見た人は見たでしょうが、貴方達と1桁違いますから…。」
これだけでかなり真琴の特異性が浮き彫りになってしまっている。
だが真琴は特に何も気にした様子もなくひょうひょうと話を聞いている。
『俺には俺のことを分かってくれて協力しあえる仲間がいるなら、それでいい。』という事。それが、真琴の中で一番大きいのである。
「話がそれてしまいましたね。ごめんなさい。
ですが、安心して欲しいんです。
養成校を卒業する時点で、おそらく貴方達の戦闘における異能は、どの校舎の連中よりも強くなっているでしょう。
貴方達が努力を惜しまなければ、ではありますが。」
多くの生徒が意外そうな顔をする。
それもそうだろう。なんせ彼ら彼女らは『落ちこぼれ』として、『異能が使えるだけ』として、なんとかこの二十四舎が受け入れてくれたのだと思っているのだ。
それは、違うのである。
一舎の面々は、今の段階でかなり完成に近い状態にあり、実はこれ以上の成長が見込めないケースが多い。
逆に二十四舎のような今は実力の伴わない異者の方がどんどん強くなることの方が圧倒的に多いのである。これは何故なのかは分かっていないが、長年の歴史の中で確立されてきた結果であった。
よって、灯はこのような言い方をしたのだ。結局は本人達の努力なしでは成り立たないのだから。
「実際、一舎の連中は殆どが事務のような、実際の戦闘とはかけ離れた職に就くことが多いです。なぜなら彼らは一舎で戦闘はあまり習いません。
逆に貴方達は戦闘『だけ』を今から3年間叩き込まれます。」
皆の雰囲気が今までと変わっているのを、真琴が感じとる。
(なんだかんだ言って指導者なんだな…)
「さて!このお話は正直なところ3年間でいくらでも出来ます!それに私も卒業したばかりで、初めて教師になったばかりです!まずは自己紹介でみんなの事を知りたいので、そうですね…名前順で順当にお願いします♪」
そう言うと一人一人名前を呼んでいき自己紹介をさせる。
座席がバラけているので生徒達では自分が何番なのか分からないのである。
そして真琴はあ行。すぐに自分の番がやってくる。
「えっと、つーぎーはー…
あ、歌代真琴君だね。自己紹介してもらっていいかな。」
…さっきまで散々、真琴って呼び捨てにしてた気もするが、まあいい。クラスメイトと親睦を深めるのが目的なのだから。と思い立ち上がる。
「歌代真琴。呼び方は何でもいい。正直なところ、あんな風に説明はされたがあまり怖がったりはしないで欲しい。俺だってみんなと同じ年のただの男子だからな…。
まあ、3年間よろしく。です。」
そして、どんどん自己紹介は進んでゆく。
「黒樹七海。俺も呼び方は何でも構わない。よろしくだ。」
欠席者がいたらしく、そこを飛ばして進む。
「八雲九火。好きなことは昼寝。よろしく。」
「雪平氷華です。仲良く、お願いします。」
「同じく雪平炎華だ。特技は炎生成だ。3年間よろしくだぞ。」
「えっと、これで1通り終わったわね。さて、突然ですが皆さんに挑戦してもらいたいことがあるんですね!」
そう言っておもむろにポケットから細長い、何か言葉の書かれた紙を取り出す。
初めて見たものであるが、真琴達は身構える。なぜならそれには、微量ながら異能が宿っているのが感じとれたからである。
「…あら。普段見慣れている九火はともかく、やっぱり例外組は基礎がとても高レベルなようね。これに込められた異能に気付く異者はまず居ないわ。」
教室内がざわめき出す。
「あ、異能が込められているとは言っても、危険のあるものでは無いので安心してね。これは護符と言い、《日本》という昔はるか地上に存在した国で栄えていた『陰陽道』。それに使用されていた道具の一つなんです。」
そこで真琴は思い当たることがあった。
…確か八千代さんは俺の「式」や、あの人の「式」、童子とやらの事を『陰陽道』の術と言っていた気が…
「今回は、その『陰陽道』の中の1つ。『式神召喚』を、皆さんに行ってみて欲しいんです。」
「ねえ、まこと。もしかしてまことの式もあれと同じように陰陽道ってのなの?」
「私もそれが気になったぞ。」
「恐らくそうだ。俺にも詳しいことはわからん。」
「しかし、問題があります。実はこの『陰陽道』。今のところ使える人間はほとんどいません。なぜなら、使える家系が私の『八雲』の本家と分家のみなのです。」
だったら使えないのでは?という疑問をみんなから汲み取った灯は話を続ける。
「話が突然変わって申し訳無いのですが、実はつい最近この二十四舎の舎街で低位犯罪者の発生事件があったんです。
その事件は驚くべきスピードで、政府の機動隊が駆けつける頃にちょうど収束していたらしいんです。
1人の異者の使った…いえ、歌代真琴君の使った式という術によって。そうですよね?真琴君?」
「…どうしてそれを。」
「貴方に式打ちを教えたのは誰かしら?その人はその時もその場にいたのではなくて?」
「…八千代さん、か。
なるほど。足利八千代は八雲の分家筋の人間という事かつまり。」
「…驚いたわ」
本当に心底驚いたように言う。
「頭も切れるのね。その通りよ。八千代は私の従兄弟にあたるわ。」
「で、ここで問題がひとつ発生している。」
「そう。あなたは八雲の分家筋ても本家筋でも無いわ。分家に『歌代』なんて存在しないもの。」
つまりはこう言いたいのだ。『イレギュラー』だと。
先ほどの『イレギュラー』とは、こういう事だったのだと。
「イレギュラーが存在するのだから、本家分家筋の異者以外にも、もしかしたらその『式神召喚』ができる可能性がわずかでもあるかもしれないと。そういう事か」
今まで黙っていた七海が口を開くとそう言う。
それを聞きどうやら教室内の面々も納得したようで、大体の察しが付いたようである。
「そういう事です。とりあえず私が自分の式神を呼び出しますので、どんなふうなのか見ていてくださいね。」
そう言うと、雰囲気が一転。皆が固唾を飲んで見守る中、灯は護符を人差し指と中指の2本だけで挟み、その状態で円を描くように腕を正面で回す。
そして一周したところで、手を離すと…
護符は落ちることなく浮かび上がる。
そして、描いた円に沿って鮮やかな炎が生まれる。
(ほう。火炎系の異能を使うのか。)咄嗟にそう考える真琴。
その刹那、円の中心にあった護符が燃え上がり、その炎から何かが飛び出してくる。
「これが私の持つ式神…
大鵬金翅鳥。《ガルーダ》よ。」
(…俺の式で呼び出す『五大』や『狗』とはどうやら決定的な違いがあるようだな…)
その違いとは。
式は術者の異能を糧にして存在を固定し、力を使うことが出来る。
それに対し、どうやら式神とは自分の異能と引き換えに存在が固定されているわけでは無いように思える。なぜなら、式神自体がとてつもない異能を放っているからだ。
(どうやら式神ってのは限りなく俺達生命体に近いように見える。いや、生命体なのか…しかしなんというか、うーむ。)
『生命』をあの式神とやらからは感じることが出来ない。
「先生よ。その式神ってのは、生きてるのか?意思はあるのか?」
真琴は問う。
「…難しい質問ね。
この式神というのは、生きてるとも言えるわ。しかし、私たちと同じように心臓が動いているというわけでは無いの。ダメージは負うし、最悪の場合2度と会えなくなる事もあるわ…まず無いと思っていいけれどね。
それに、自我もあるわ。決して操り人形というわけではないわ。
正直なところ、式神に関しては解明されていないことが多すぎるわ。使える者に限りがありすぎるからね…。」
大体聞きたかったことが聞けた真琴は、「なるほど」とだけ言うと座って考え込んでしまう。
「とりあえずそうね…みんな自分の点数は覚えてるわね。あれの下から前に出てきて式神召喚を試してもらおうかしら。やり方は自由よ。呼び出せそうならば、どんなやり方であっても出て来てくれるわ。」
そう言い、下から順番に教壇まで向かう生徒達。
教壇に来た生徒に護符を渡していく。だが、誰ひとりとして何もすることが出来ない。
護符が反応することすらないのだ。
どうやらそれは、氷華達も同じようで。
反応すら起きずに時間だけが悪戯に過ぎていく。
そして、九火の番が来た。
「…やるだけやってみなさい。もしかしたらできるかもしれないわ?」
「分かったわ姉様。」
姉妹にしか聞こえない近距離での小声の会話を済ますと、九火は護符に集中する。
(…っ!)
護符が光った。しかし、いくら経ってもその先に進む気配がない。
「…やっぱりダメみたいよ姉様。」
「…そのようね。でも、少しでも兆しが見えてきたじゃない。私はそのことが素直に嬉しいわよ。よく頑張ったわ。九火。」
そして最後は真琴の番である。
帰ってくる九火とすれ違う。その時
『頑張って。だんな様。』
と、小さな声で聞こえた気がした。
が、ありえない言葉『だんな様』が聞こえたので、気のせいだろうと思いながら教壇に進む。
「後はあなただけね。イレギュラー君。」
「俺には歌代真琴って名前がありますよ。」
「ふふっ。わかってるわ。」
護符を渡される。
イメージは、五大明王を召喚する時と同じイメージ。
(異能を込める…が、《闇》は五大と狗に使うから使わない方がいいかもしれない。なんとなくだが。
となると…)
「さあ。始めてみて。」
「…はい。…」
真琴の瞳が変わる。
碧から、金へ。
力を流し込む。手のひらの上に乗せただけの紙切れに向かって。
流し込む。流し込む。
すると。
髪が光輝き始める。
そしてまるで泡のように分離しながら漂う。
『キレイ…』
誰が言ったのかもわからない。自分だつたのかもしれない。それくらい幻想的であり、魅惑的な光。
粒子のように散った光が、人の形を形作り始める。
突然光が大きくなったかと思うと。一瞬にしてはじけ飛んだ。
皆がまぶしさで目を背ける中、真琴だけはその光の奔流の中心にいて、『それ』を見つめていた。
まるで愛玩動物のような尖った耳が、本来はあるはずのない頭部上にある。
そして腰元からは先が二つに分かれた尻尾まである。
(なんだこれはさっぱりわからん…)
光が収まり、皆がそれを直視することができるようになる。それは、なぜか『メイド服』を着ていた。大分丈の短いギリギリなものである。
だが、それに不釣り合いなほど…九火より小柄な体型をしているのだ。
その『獣耳メイド服少女』は、真琴に顔を向ける。
目は真琴を向いているが、そこにいる真琴の事などまるで見ていないかのような無機質な瞳。
少女が口を開くーー
「私は、仕えるに値すると自分で判断した君主にしか仕えません。
名前も聞きたければ、私を屈服させ、力づくで私を認めさせるかどうかしてください。」
…これはまぁ。前途多難すぎる。