ファーストコンタクト
真琴達が過ごした準備期間。
それは、低位犯罪者発生事件以後は、特に何事もなく時が過ぎ…
ーあの後捕らえられた低位犯罪者、神十仁は収容所内で「消失」したらしい。
言葉の通りの、「消失」である。
原因は全くの不明であり、わざわざ異能だけを喰らって無力化した意味が無いじゃないか。
と真琴は不謹慎ながらも不満げであったがー
なんせ真琴と愉快な仲間達は、ようやく養成校入学の日を迎えたのであった。
『本校の生徒として自信と誇りを持って行動し云々。』
などといったある種決められたフレーズを入学式で延々と聞かされ、なぜかここ、二十四校舎の校長は諸事情により欠席というものもありながら、入学式は終わりを告げる。
そして、クラス発表がやってきた。
ここ「天国」では、一舎から二十四舎まで。入学の際に受ける試験は同じ内容となっている。
よって、全養成校生徒の点数が同じ判断基準で出るといった仕組みになっているのだ。
そして、養成校は基本点数順で上からクラスを振り分けるようになっているため、実力の拮抗している真琴達はほぼ間違いなく同じクラスになる事が想定されていた。
…しかし、万が一の可能性もあるため真琴達4人はクラス分けの材料となった「得点掲示板」という点数の掲示されているところまで向かう。
得点掲示板の位置は入学式の行われていたホールからそんなに離れていないため、必然的に我先にと点数とクラスの確認をしに急ぐ生徒で廊下は溢れかえる。
「まあ多分俺と氷華、炎華、んで七海は確実に同じクラスだろうな。」
「そ、そうだねっ。うん。」
「当然だぞ。」
「まあそうだろうな。」
他の生徒とは打って変わって静かに掲示板へと移動する4人。明らかにその4人の周りだけ少し浮いた空気があると錯覚するほどに、真琴達4人は異質な空気を自然体で放っている。
掲示板に近づくにつれ、何やらちょっとした騒ぎ声が聞こえてくる。
『お、おい…。何なんだよこの馬鹿げた点数は…』
『あ、ありえねえ。トップのこいつなんて全校舎ランキングでも圧倒的じゃねえかよ…』
『何でそんなやつがこんな最低校に…』
『しかも他の《4人》も、全員が全員一舎の平均点数を軽く上回ってるじゃねえかよ…』
(…ん?ほかの4人…?)
真琴が引っかかりに気付く。
ほかの4人という事は真琴合わせて全部で5人。
真琴、氷華、炎華、七海の4人である。
1人、多い。
「…すまん。少し点数見てくるわ。」
「え、あ、うん。わかった待ってるね。」
氷華が返事をするより早く歩いていってしまった真琴。
「珍しいな…真琴が自分のことに興味を持つとは。」
「…ほんとに自分のことだったら、なんだぞ。」
「…ほのかちゃん、どういうこと?」
どうやら炎華は真琴がなぜ見に行ったのかが分かったようで
「何でもないぞ。まことが帰ってくるの、待ってよう。」
そして真琴は、掲示板の前に立つと、上の方を見上げる。
なんせ身長が他より低めなのでこういう時に苦労をするものだろう。
普通ならば。
だが、真琴の行く道はなぜかいくら人がいても道が出来上がる。
ので一番前に行くことが出来、見えないという最悪の事態は避けることが出来る。
首の疲れと引き換えに。
真琴だって、他者の点数に全く興味が無かった訳では無いのだ。
(もしあいつが言ってたとおりここに来てるとしたら…でもあいつってそんなに実力あったっけなぁ…)
などと考えながら一番上を見る。するとそこには、やはり
『歌代真琴』
「…まあ想定通りだ。次は………誰だよ。おい。」
そこにあった名前は
『八雲九火』
真琴が聞いたこともない名前が、2番目に記されていた。そう、2番目である。氷華達よりも遥かに点数が高いのである。
(おいおい…こいつこそ何でこんな校舎に通う必要があるんだ…)
考えても答えなど出るはずもないので、さっさと仲間の所に戻ってしまうことにしたのであった。
自分達のクラスへと向かう。
「八雲九火…って、誰か知らないか?」
「私は聞いたことない、かな…。」
「私も無いぞ。」
「無論俺も聞いたことは無いな。どうかしたか。」
4人とも知らないと応える。
「いや、どうも一舎レベルのやつがもうひとり紛れ込んでるみたいでな…だが聞いたことすらないから少し、な。」
「お前が他の女子に興味を示すとは珍しいな。」
「「そ、そんな…」」
「そんなんじゃねえよ!」
真琴にしては珍しく取り乱した様子で、もう誰もいなくなっている廊下を自分たちのクラスへ向けて歩く。
そして、自分達のクラスの前へ着いたが、なぜか中からは物音一つしない。
「なんでこんな静かなのかな…」
「も、もしかして、もう始まってるんだぞ…?」
「いや、流石に生徒が足りていない状態で始めたりはしないだろう。だが…見たところ廊下には俺達以外に誰もいない。」
「つまり俺達待ちって可能性が十二分に高いってことだ。」
と、真琴が七海の言葉を引き継ぐ。
「何にせよ入っちまうか。」
と言い、ドアを開けるとそこには
「………」
「…幼…女…?」
「失礼ね。」
「あ、いや、すまん。てなんだその服…」
「これは滅びた《日本》という国の服、着物よ。」
そこには、制服サイズに採寸された、しかし和をかもしだしている着物を着た小柄な幼女ーーもとい、少女が立っていた。
少女が口を開く。
『貴方が、歌代真琴。』と。
ふわふわとした見た目とは裏腹に、感情を感じさせない、冷たい声。
しかし、真琴にはその少女が、自分に興味を持ち、おそらく自分を待っていたのであろう事くらいは推測ができた。
「…自己紹介と行こうか。人に名を尋ねる時はまず自分から、だと俺は思うが。どうだろう。」
「そうね。失礼したわ。」
そしてその少女の口から出てきた名は、真琴の考え通りであった。
「私の名前は八雲九火。九火と呼んでくれて構わないわ。」
やっぱりか、と内心で少し驚く真琴。
「俺は歌代真琴。ご想像の通りだったわけだ。俺も真琴で構わない。よろしくな、九火。」
「…よろしく。真琴。」
何のためらいもなく心を呼び捨てにしたことに少し驚いたのか、返すまで時間はあったが、どうやらファーストコンタクトは成功。
と見て良さそうだ。
本題は、ここから。
「ちなみに年齢は同い年よ。」
「聞いてねえよ!」
「胸はEよ。」
「だから聞いて…でけえな!」
「まこと…?」
「変態…。」
「胸に興味があったとは。以外だな。」
「あ、や、そういう事じゃ…ない…。」
氷華から疑うような目で見られ、炎華からは変態と言われ、おまけに七海からは誤解を受ける。
「いや、アンバランスだと思っただけ「巷で人気のある、和服ロリ巨乳ってやつよ。「被せてくるな!」
「あら。嫌いかしら。」
「…嫌いになりそうだ。」
「それは、困ったわね。」
「ならもうこれ以上のボケはなしにしてくれないか…」
「?」
まさか…
「ボケてなんか、いないわ。」
(天然だったのかよ!尚更タチが悪い!)
などとやいのやいの言っていると、後ろから声がかかる。
「…いい加減になさいな。もうほかのクラスはとっくに連絡事項の伝達をしてるのよ。」
「あ、すいませ…」
振り返った真琴に、なぜか既視感。
すると
「…灯姉様…」
「え」
既視感の正体は、先ほど初めて出会った九火と、似たものであった。
「初めまして。『イレギュラー』君♪」
「は、はぁ…え?イレギュ…」
「さあ、席につきなさい!養成校に上がりたての皆さんに連絡と、自己紹介を始めるわよ〜。」
真琴が最後まで言うよりも早く行ってしまう。
(むしろ最後まで言わせなかった…いや、純粋に聞き返されると返答ができない部類のワードだったんだろう。)
真琴は自分の特異性は分かっているつもりだ。
だから、それに関わる何かなのだろうと、強引ではあるが自分に言い聞かせる。
「ほら。早く席に行きなさい。貴方達と九火の5人は一番後の一列よ。席は決まってるけど…そうね。」
そこでなぜか真琴と九火を見ると
「貴方達が隣同士になるなら、それ以外は自由でも構わないわよ♪」
「どういう事だおい。」
「そうですよ…なんでその2人なんですか。」
「そうだぞ。なんで私とひばなの間じゃないんだ!」
「いやそれも違うだろ…」
「と・に・か・く!」
漫才を始めた姉妹にツッコミを入れ始める真琴達に、(七海は除く)灯と呼ばれた、まだ自己紹介すら聞いていない担任が語気を強める。
「早く座りなさいな。
じゃないと帰りが遅くなるわよ。
さっき言ったことに変更は無いわ。
九火の横に君は座りなさい。良いわね?」
「…わかった。」
「よろしい♪」
3人には悪いが、ここは素直に言うことを聞いておく事にした真琴。
「さて!やっとみんな揃ったわね!」
そして教壇に立つ少し小柄な女性が話し始める。
「私の名前は八雲灯と言います。
気軽にあーちゃんでもあかりちゃんとでもどんな呼び方でも構わないわよ♪」
随分とフレンドリーな人柄であるようだ。
(本当に九火の姉妹なのか…?)
真琴がそう疑ってもおかしくないほどの姉妹の差である。
そんな真琴の疑問も知らぬまま、話を続ける。
「貴方達と3年間一緒に頑張っていく仲間でもありますので、よろしくお願いね♪」
これはまた随分と個性の強い担任だなぁ…と、九火以外の後ろ一列の面々は同じような苦笑いを浮かべるのであった。