地響
物語が動こうとしている…!!!
そんな感じのお話です
4回戦。
相手は、2舎。
「…とはいえ、2舎は昨年も準優勝。
一応備えておくべきだろうな。」
真琴は自分の部屋で、牡丹の頭を撫でながら一人つぶやく。
圧倒的な強さを見せつけながら勝ち上がっている『イレギュラーズ』は、今や優勝候補の筆頭。
見に来る観客は、最低校の優勝という大どんでん返しを既に望んでいた。
だが、真琴は決して慢心はしない。
最後の最後になっても、気は抜けないのである。
すると、トントンと真琴の部屋がノックされる。
「…誰だ…?」
空いてるぞ〜、とおそらく『イレギュラーズ』であろう人物に向けて言う。
「お久しぶりですわ!真琴!!!
この私が足を運んであげましたわよ!」
そこには、凛として立ち、朗らかな笑を浮かべる『雷姫』…
ユーリカ・エーデルワイスが立っていた。
「それにしても驚いた。
まさかユーリだったとはな」
心の底から驚いたように言う真琴。
会いに来るとは心にも思ってなかったのだろう。
「私は真琴の未来の妻ですわ?
夫の元に馳せ参じるのは当然ですもの。」
いつものコロコロとした鈴の音のように笑うユーリカ。
聞いている真琴までもが少し笑顔になっている。
「…《プテリクス》の時は行くことが出来なくて、本当に悪かったのですわ…
あの時ほど自分の不甲斐なさを呪ったことはありませんでしたもの。」
少し驚く真琴。
あの時、被害は全くと言っていいほど出ていない。
真琴が自らの『吸血種』としての能力…
吸血行為による異能の強化。
そして《祝福》による一発必中の《インドラの矢》。
この二つによって、《プテリクス》は跡形もなく消し飛ばしたのだから。
ユーリカが気に病む必要など、万に一つもありはしない。
しかし、真琴だって馬鹿ではない。
ユーリカだって、自分が悪い訳では無いことが分かっているのだ。
しかし、感情は時に抑えることが叶わない。
ここで『お前が謝ることじゃない』等といった失礼な返答は、真琴には出来なかった。
「…ありがとうな。ユーリ。
そういう風に考えていてくれただけで、充分俺の力になる。」
申し訳なさそうに目を伏せたユーリカの綺麗な金髪を梳くように撫でる。
「お前はいい女だな。頼りにするよ。」
「…貴方って思ったよりも女性の扱いに慣れてらっしゃるのね。
目の前に牡丹ちゃんだっているというのに。」
「…?なんのことだ?」
なんでもないですわっ!
と、ユーリカが恥ずかしそうにそっぽを向く。
それからしばらく、2人と1人で話し込んでいた。
「主様。
明日のためにも、もうそろそろお休みになられた方がよろしいのでは?」
ユーリカと話し込んでいる間に、時刻は既に日を跨ごうとしている。
「…私としたことが、殿方の寝床にこんな時間まで押し掛けてしまうとは、不躾でしたわね。」
笑いながらも、そう言うユーリカ。
「ユーリはどこに泊まってるんだ?」
時間も時間。送っていかなければ行けないだろうと、そう聞き返す真琴。
「あら。今日はもうここに泊めさせていただきますわ?
よろしくて?」
まいったな、と真琴。
彼が心配する点はただ一つ。
「…身内の人間には連絡しておけよ?俺とはいえ、一応男の部屋に泊まるんだからな?」
どこまでも紳士的ですのねと笑うユーリカ。
次の日の朝、同じ部屋から出てきたユーリカを見て氷華と炎華が真琴に詰め寄ったのは、また別のお話…。
「…さて。今朝は色々あったが、とうとう今日で2校まで削れる。」
『イレギュラーズ』の面々にそう話す真琴。
今日2舎との戦争を行い、勝利すればあと残すは1舎のみ。
普段とは違い、やる時はやる。それが『イレギュラーズ』。
話をし、それを聞く5人は普段とは別人のようである。
真琴は、2舎について一通り話す。
攻守のスイッチがはっきりした、軍隊の理想形とも呼べるスタイル。
1舎はどちらかというと『イレギュラーズ』に近い。
個々の能力で仕掛けてくるタイプだからである。
まぁ、だからといって『イレギュラーズ』の面々が気にしているのは、そこでは無かった。
2舎には、悪い噂があったのだ。
『βウイルスを試合毎に服用している可能性がある』と。
低位犯罪者は低位犯罪者でも、自我が完全に残ったまま、力だけが圧倒的に膨れ上がった紛い物の異者。
何がなんでも、その真相だけは突き止めないといけない。
これにおいては、再重要事項として捉えてもあった。
「…もし、この噂が本当だとしたら、真に対峙するべきは1舎よりも2舎だ。
厄介度で言えば圧倒的だからな。」
憂鬱そうに自分のベッドに腰掛けながら、例のように語る。
「真琴。1つ聞きたいことがある。」
七海が声を上げる。
「なんだ?」
「ここ最近…
低位犯罪者絡み、いや…
《βウイルス》絡みの事件が急増している。
やはり、《解放軍》とやらと関係あると思うか?」
八雲本家を襲った事によりその姿を明るみに出した《解放軍》。
今もなお、政府が動向を探っているが尻尾をつかむことは出来ていない。
「…可能性は十二分にありえる。
神十仁の時は、《解放軍》が関与していたと見て間違いないって八千代さんが言ってたからな…
こりゃ最悪《解放軍》との戦争までありえるかもな。」
真剣な顔をしてそう言う真琴。
決して嘘を言った訳では無い。
《解放軍》との全面戦争は、確実に迫ってきていた。
「ま、俺たちがいくら考えたところで敵さんはノコノコ出てきてくれるわけでもない。
…とりあえずは2舎をぶっ飛ばして、話はそれからだ。」
すぐに笑顔になってそう言う。
本日、『イレギュラーズ』と2舎の戦争は午後の5時から。
今現在は午前の10時。
時間は十二分にある。
『イレギュラーズ』は、来るべき戦いにも備えながら、今日の戦い方についてあーでもないこーでもないと議論を続ける。
「『イレギュラーズ』、か。」
「まぁ、いくら強くてもこの薬を飲みさえすれば、俺たちは負けないだろ?」
「あぁ。その通りだよ。」
そう2舎の生徒に向けて肯定の意を返したのは、樋上禪。
「じゃあ、頑張ってね。」
件の《解放軍》の中心人物のひとり。
「さて。夕霧と合流しなきゃ。
…あんな薬ポッチで勝てるなら可愛いもんなんだけどね。『イレギュラーズ』も。」
一見して爽やかに見えるその笑顔には、感情がこもっていなかった…。
なんだろう。しゅんとしたお嬢様って、なんかすごく、こう、可愛くないですか?キュンと来ません?
ユリキュン的な?