進軍
お待たせして申し訳なかったですぐへへへ
「これは。
初戦から派手なところとぶつかったなぁ…。」
そうつぶやく歌代真琴。
彼らは今、校争が行われる会場となる一舎まで来ていた。
…とはいえ、彼らが滞在しているホテルからわずか五分ほど歩いただけだが。
「相手は五舎か。
桃井先生のいるところ…ってことはまさか、またユーリカ・エーデルワイスが…?」
そう真琴に聞き返しているのは黒樹七海。
「今度は負けないぞ…!!」
「…うん。そうだね。」
明るい妹とは対照的に落ち着いた姉。
妹、雪平炎華。
姉、雪平氷華の2人。
「いや、まぁ…
可能性はなくもないが、ユーリはもう時期うちに来るんだから多分違うんじゃねえかな…?」
「…五舎。真琴の元々いた所ね?」
淡々と無表情でそう聞いてくるのは八雲九火。
「おう。そうだぞ。
まえは九火居なかったけど、俺たち『イレギュラーズ』が模擬戦争したところだな。」
「…模擬戦争と言っても厳密には桃井蒼歌とユーリカ・エーデルワイスのふたりが相手だったわけだからな…」
「そゆこと。
俺たちからしても相手の実力は未知数ってところなんだなぁこれが。」
真琴達は実際には五舎の面々と戦っていない。
後輩に戦いぶりを見せただけ。の様なものだ。
「…私がいない間に…ずるい。」
プクーっと膨れてしまう九火。
ごめんごめん悪かったな…と真琴が頭を優しく撫でる。
『羨ましい…』←氷華&炎華
「全く…緊張感の欠片もない…。」←七海
ーーーージジッ。
「ん?」
『只今より、第1回戦を行います。
対戦校両校は、所定の位置にお集まり下さい。』
5人が談笑しあっているうちに時間は過ぎ、もう始まりの時間になってしまいつつある。
「…行くか。」
「ああ。」
「うん!」
「…うん。」
「…ん。」「まーだ拗ねてんのか?」「…拗ねてないわ。」
しかし、行動するとなると、やっぱり。
自然と真琴を中心とするのだった。
「…貴方達には、こちら側から競技場内に入っていただきます。
なにか質問はありますか?」
係員の言葉に従い、入場待機する『イレギュラーズ』の面々。
「…特にないようでしたら、今しばらくお待ちください。」
失礼しますと去っていく。
「…一応言っておくが、ユーリとか俺達みたいなイレギュラーがいない限りは、相手は全員上級生だ。
くれぐれも気は抜かないようにな。」
その時、放送が流れる。
『両校、入場して下さい。』
一歩、踏み出す。
ここから先は一方通行。もう後戻りはできない。
「…上等。」
歓声に包まれる。
『両校、準備はいいですか。』
頷く。
『審判は、係員による厳正なジャッジの下行います。
それでは始めてください。』
サイレンが響く。
いま、真琴達の戦いが始まった。
瞬間、真琴が後ろに飛びすさる。
同時に氷華と炎華、七海の3人が一斉に前に駆け抜ける。
「…舐めているのか!!
たかが1年のくせに、我々が強さというものを教えてやる!!」
5人で来ると思っていたのだろう。
相手のリーダーらしき人物が吠える。
「…さっき自分で『気を抜くなよ』とか言っといてなんだが…。
そっちこそ舐めてんじゃねえぞ。
たかだかテメェら程度の実力5人。
うちの誰1人にも勝てやしねえよ。」
真琴が今回考えたのは、ただのスピード戦略。
機動力の高い3人が敵陣を一網打尽にするだけ…というもの。
牡丹が1番機動力が高いのだが、牡丹は真琴から離れることを良しとしない。
その気になれば、牡丹1人であの5人程度。軽く蹴散らせるだろう。
忘れてはいけない。
相手は仮にも五舎である。
それでも寄せ付けることのない強さを、この時点で全員が持っていた。
これが、『イレギュラーズ』。
これが、『強さ』である。
「…《氷鎌》!!」
「《焔剣》!!!」
「…名前。決めないとな。」
姉妹が左右でそれぞれの武器を振りかざす。
ある程度近づいてしまえば、後は異能の斬撃を飛ばすだけで十分だろう。
「…あのふたりと違って、俺はこの形状で戦うのは初めてだ。」
そう言いながら、斬撃でほとんど壊滅した敵部隊に狙いを定める七海。
まともに立っていられたのは、リーダーらしき男のみ。
「…サイレンがならないってことは、やっぱりあいつがリーダーで間違いないんだな。
まああれだけ大口叩いてたしそらそうか。」
真琴は、九火と牡丹を横に待機させて眺めるだけ。
自らが手を下す必要など、有りもしない。
「…槍、か。
これから扱い方を覚えていくとしよう。」
唯一助かったのは近接だってことだけだな。と七海。
「…クッ…!!
何故だ?!今、何をしたこのクソ共が…!!!」
「…名も知らぬリーダーよ。
俺の仲間をクソ呼ばわりしたんだ。
…一度、死ね。」
右手に振りかぶった槍が暗く染まっていく。
込めれば、込めるほど。
出来上がるのは龍頭。
「《葬龍槍》。」
目にも止まらぬ早さで。
放たれたそれが。
黒き龍が、敵を貫く。
『そこまで!』
こうして、新しい技、戦い方を覚えた七海と、雪平姉妹の3人だけで。
五舎は一瞬により全壊した。
この戦いは、後後まで観客の心に残り続けるものとなる。
1桁の校舎の代表チームが、最低校のたった3人。
それも1年生に負けてしまったのだ。
前代未聞。
劇的な初戦を飾った『イレギュラーズ』は、誰にも止められることなく、校争を、勝ち進む。
「……うちの子。前映像で見た時よりバカみたいに強くなってるじゃない。
限界者なんてよく呼ばれたものね。
あの子は本当に『神』に愛された子よ。」
「カッカッカッ!
ワシらでは誰も相手にならんじゃろうな!
鈴の話を聞いた時は半信半疑だったが、校争の様子を見て確信に変わった。
この小僧、『光』と『闇』だけには飽き足らず、まだ1種の異能を持っておるし…
さらに『吸血種』と来たか。
ほんに。『神』に愛されし子とはよく的を射ておるな。」
気持ちよく笑う老人。
老人の名は、八雲元帥。
八雲本家当主にして、その横で共に映像を見ていた者と共に九火と真琴の婚姻を認めた者。
「…そうね。
この校争が終わり次第。『イレギュラーズ』まるごと『ネクロ』に参加してもらいましょう。
当初よりだいぶ早くなっちゃったけどね。」
歌代涼。
消えたはずの真琴の育て親。
そして、真琴と同じく、失くした者を取り戻すために密かに活動を続けた『ネクロ』創始者。
天国が、大きく動こうとしていた。
破竹の勢いは、止まらない。
2回戦、3回戦と圧倒的な勝利を見せつける。
2回戦。相手は十二舎だった。
堅実な守りを主体としたチームで、1回戦を確実に勝ち抜いてきた。
しかし、だからといってどうすることも出来なかった。
1回戦では出番を作らなかった八雲九火と歌代真琴、そして牡丹により守りの意味なく蹂躙される。
真琴に関しては『クラウン』を使うまでもなく、式を打つまでもなく。
ただただ、光の奔流で相手を押し流した。
3回戦。
相手は七舎。バランスのとれたいいチームだったのだろう。
しかし、戦うのをめんどくさがった真琴が、暴挙に出た。
五大明王式を開始早々打つと、他の面々を後ろに下げて1人敵陣へと歩き出す。
ざわめく会場を置き去りに、五大明王で1人ずつ確実に無力化。
最後に残ったリーダーですら、他の4人と同じく明王に…
不動明王の手によって押し潰した。
結局、真琴は自分自身の身体的な攻撃をすることなく、3回戦も軽々と突破。
白髪碧眼と黒髪灼眼の二つの面を持つ二種異者として大きく取り扱われることとなった。
残るは3校。
一舎
二舎
そして、真琴達のみとなってしまっていた。
今日も空は蒼い。
私には羽がない。
でも待ち続ける。
お母さん…。
それに、まこと。
今だけは、幸せな夢を見させて…
紅く染まってしまった自分の髪を手櫛で梳く。
「……~~~♪」
歌う。願いを込めて。
歌う。身を守るために。
歌う。私はここにいるよ、と。
書いてて思ったんです。
真琴の五大。強すぎませんか?
ってか『イレギュラーズ』馬鹿なんですか?
あんたら5人+1人は強すぎる!
作者が言うことじゃないんですけどね。
ここから大きく話は動きます。
真琴の失くした者とは一体なんなのか!←白々しい
まっだまだ続きます。末永くお付き合い下さい