逃げるココロ
これでよかったのか?
ふと、そんなことを思ってしまった。
俺は蘭に手を貸さなくて、良かったのだろうか?
あの後どうしても授業を受ける気にはなれず、俺は家に帰った。
そしてその後は、特に何をするでもなくベッドの上で仰向けになり、天井をずっと眺めていた。
そしてやることがないとなると、俺は単純でついさっきあった出来事を思い出してしまう。
(いや、これでよかったんだ)
そう心の中で呟く。実際、オレには「友達」などと呼べるやつは悠里くらいしかいないし、いたって何もしてやれなかっただろう。
「いや、それこそ逃げの考えか……」
逃げ。そう、逃げだ。俺は目の前から目を逸らしたんだ。
分かっている……どころかずっと理解していながら――認めていながら、生活をしてきたはずだった。
『友達』
それが俺にとっての逃げ――。
俺は別にそれを作りたくないんじゃない。
友達を失ってしまうのが怖いからとか、別れるのが辛くなるからそんなんでもない。
俺は、それが……『友達』というのが……いることで、他の自分の大切な何かが消えてしまうことが怖いんだ。
……きっと、こんなの他に人には分からないだろう。それどころか、友達を失ってしまうことと大差ないと思われるかもしれない。
でも、違うんだ。そんなものとは違う。言葉では言えない。
本当は、俺もそんなによくは分かっていない。なんとなくなんだ。なんとなく消えてしまいそうだと思ってしまうんだ。
心の奥の閉ざされている記憶のように――。
「逃げって言えば……俺。蘭のところからここに逃げてきたんだよな」
俺はそんな自分を嘲笑する。あいつの真剣な思いを俺は踏みにじったのだ。
協力してやると言った。手を貸してやると。
それなのに、友達を作ろうとする蘭に、俺は怖ささえ感じた。ぞくりと背中に悪寒が走った。自らの本能が怯え、心拍数もまるで思いっきり走った後のように上がっていた。
それほどなのだ。俺にとっての『友達』とは。
本当は、怖いなんて言葉じゃ伝えられないほどなんだ。
ただ、所詮は一般の学生。語彙が少ない俺が言える最高の表現が「怖い」なのだ。
「でも、こんな言い訳も空しいだけだよな」
だが、そんな今の俺にでも言えることが一つあった。それは――
『友達なんて俺には必要にないものだ』
俺は蘭を否定することにした。
まず俺が蘭に会ったのは偶然だ。その後あいつと話すことになったのも、所詮は俺の気まぐれ。あいつに手助けしてやるというのも、俺の気まぐれの返答だった。
だから今、やっぱりやめたと言ったところで、自分にとっては関係ないのだ。蘭自体が俺にとってそういう存在でしかなかったのだ。
暇つぶし……そう、暇つぶしをしたかっただけなんだ。手助けもその一部。そして内容がつまらないから去った。それだけのことなんだ。
それはとても誰かを説得できるものじゃない。聞いていても、何度も何度も同じ様なことを言っているだけだろう。それでも、俺は呪文のように何度も唱え続けた。
これは自分を納得させるため。誰かを諭すんじゃない。自分さえよければそれでいい。それだけのために。
俺はいつの間にか眠りに落ちていた。