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『友達』

 次の日。またこの日も、起きたのは完全な遅刻決定コース。こういう時は、いつもならもう一眠りしてから学校に行くのだが、何故か最近目覚めがよく、眠れない。


(今日も、なんか夢を見ていた気がするんだけど……どんなのだっけ?)


 昨日にも似たことがあったな。いや、最近か。

 よく考えれば、こんな風な夢を見るようになってから、朝の目覚めがよくなったような気がする。これは、目覚めがよくなる兆候なのだろうか。まあ、根拠も何もないから実際は知らないけど。


「しかし……やることがないな」


 遅刻なのだから、どうせなら二時間目始めあたりに着くようにしたいが、このままじゃ結構な時間が余る。


「……はぁ。いくか」


 少しの間考えてみたが、本当に何もすることがなかったので、仕方なしに学校に行くことにした。




「さて、どうするか……」

 思った通り……どころか、それ以上に時間が余ってしまった。来る間にも何かないかと思案はしてみたが、相変わらず何もない。

 しかし、だからといってこのままここ(昇降口)にいるわけにも行かない。とりあえず、どこかの空き教室にでも……。


「……あ。そうだ蘭」


 と、そこまで思ったところで昨日あった、女子みたいな男のことを思い出した。


(ふむ、そういえばまた会うって約束をしていったけな)


 ちょうどいい。どうせ暇なんだ。会いに行こう。


(昨日より早いけど……まあ同じところにいるだろう)


 そう思い、この前蘭にあった空き教室へと足を進めた。




「あ、いた」

 教室の中を見るとまさに昨日と同じ風景がそこにはあった。


(寝てやがる……)


 蘭は机に突っ伏して寝ていた。


(というか、そんなに眠いなら最初から遅れて来いよ)


 そんなことを思うのもどうかと思うが、まあどうせこいつも授業をさぼっているわけだしな。

 とりあえず、教室の中に入り、蘭の近くへと歩み寄る。


「やっぱ寝てるよ」


 近くまで来ると寝顔がしっかりと確認できた。一緒に寝息も聞こえる。そうして思い出すは昨日と同じこと。

 そう……同じなんだ、何もかも。昨日の状況と今の状況。だとしたら、次にしなきゃいけないのなんだ?


「……襲うのか?」


 自分に問いかける。いや、それよりもなに考えてんだよ俺、アホか! 昨日と今で違うことがあるだろ!


 こいつは男だ。昨日は女だと思っていたはずだ。それで昨日と同じことをできるはずがないだろう。


「っていやまて。それもちょっとおかしくないか?」


 それじゃまるで、こいつが女だったら襲っていたってことになるじゃないか。そんなこと……。

 ふと蘭を見る。蘭は変わらずに、無防備に眠り続けている。その寝顔は少女ともいえるほどの童顔でまさに天使……。


「うわ――――――――!!」


 自分が変なことになっていることに気づき、叫び声をあげる。誰か教師に気づかれる恐れもあったが、どうやら大丈夫だった。それより――


(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!)


 その言葉がオレの中で繰り返される。何を考えていたんだ? いやもう思い出したくない。もう記憶から抹消したい。

 ……ふう、とりあえず落ち着け。深呼吸だ。

 すーはーすーはー……。よし。これでもう大丈夫。


「んん~なんですか~」

「ぐはぁ!」


 蘭が目をこすりながらこっちを向いてきた。俺はその寝起きの顔とそのあまりにも無防備な姿に自分の負けを認めた。


(ああもう分かったよ! お前は可愛いよ! 襲ってしまいたくなってたよ!)


 それを認めると、何か自分の心が軽くなったような気がしたが、そう思えてしまった自分がなぜか妙に悲しかった。

 それに認めたことで何かを失った気がした。


「う~~ん。ってあれ? 天皇寺さん!?」


 さっきまで寝ぼけた様子で目をこすっていた蘭だったが、俺がいたと分かると、急に目を見開く。


「うん? ああ、おはよう」


 俺はとりあえず挨拶しておいた。蘭も「ああ、はいおはようございます」と丁寧に挨拶してきた。


「って。そうじゃなくて!」


 蘭は「挨拶なんてどうでもいいよ!!」的な反応を見せた。

 ……くそ。話を逸らすことはできなかったか……。まあ仕方ないな……。本当に挨拶なんてどうでもいいし。


「どうして天皇寺さんがここにいるんですか?」


 蘭がそう尋ねてくる。その瞳はなにかもの悲しそうだった。だが、俺は思った。


「いや……また会いに来てくれって言ってただろ? 忘れたのか?」


 こいつは記憶力がないのかと……。


「!? いえ。とんでもない。覚えていますよ。もちろん。でも。本当に来てくれるなんて……」


(……まあそれはないよな。だって俺のこと覚えているわけだし)


 俺は少し俯き悲しげな表情をする蘭の頭をポンと叩く。


「なんだ? 俺のこと信用してくれてなかったのか? 少し傷つくぞ。確かに俺はそんなにできた人間じゃないが、自分から約束したことだ。それを投げ出しするような適当なやつじゃない」


 実際は学校に来るまで忘れていたけどな。こういうのは言ったもん勝ちだ。


「でも……昨日あったばかりだから。まさか、今日来るなんて思ってなくて」

「あーまあ確かにな」


 本当は来る気はなかったわけだし。暇だから来ただけで。


「でも、いつ来るかなんてその人の気分次第だろ? 今日来ないって決まっているわけじゃない」

「……はい……そうですね」


 少し考え深げに頷いた。そして軽く微笑み、お互い向かい合って話し出す。


「ありがとうございます。天皇寺さん」

「よせよ。こんなことで。別にたいしたことでもないだろ」

「いえ、そんなことありませんよ。天皇寺さんは僕にとって大事な人です。だから、その人には僕の気持ちを知ってほしいんです」

「……うっ!」


 くそ! 何だこの照れくささみたいなのは! すげー恥ずかしい!

 特に、こいつみたいな純真無垢なやつから、こういうこと言われんのは駄目だ。その気持ちが直球すぎて、照れ隠しもできない。


「まあいいや。それで! また会いに来たんだが、俺は何をすればいいんだ?」


 少し強引に話を本題に戻す。……実際そうしないとこいつに褒め倒されそうだしな。

 俺がそういうと蘭は「ああそうでした! すみません」と頭を下げた。律儀なやつ。


「えっとですね……とりあえず今何時でしょうか?」


 この教室には時計はない。チャイムの音は聞こえるが、そのためか、さぼるにはそこまで適するような場所ではないだろう。

 ……いやというか時計くらい持っとけ。


「今は……九時二十四分……だな」

「う~ん。そうですか。だと、休み時間まで時間がありますね。どうしましょうか?」


 と頭を捻っている蘭。……いやちょっと待て。


「……なあ。お前が今やろうとしていることってのは、今することはできないことなのか?」

「え? そんなの当然じゃないですか! 今の時間はみんな授業を受けていて、誰にも会うことできませんよ。まあ、僕や天皇寺さんみたいな不良学生さんもいないわけじゃないですが……。そんな人は大抵は学校にもきたりなんてしないと思いますし。それにそんな人と会うとなると僕は怖いです」


 ……ああ。やばい。なに言ってるんだろう、こいつ。早くどうにかしないと。


「な……なあ蘭? 何をそんなに熱くなっているんだ? というか、俺はお前に何をするのか聞いているわけで、そんな説明じゃ何にも分からんぞ」


 とりあえず、俺は思ったままに言ってみた。

 実際問題こいつなにがしたいのか分からん。いきなりこんな熱く語りだしたりして、俺の中でのキャラ崩壊がやばいぞ。

 そんなことを考えた後、一息ため息をついて、未だに興奮しきった状態の蘭に「で?」と問いかける。


「結局なにをするつもりなんだよ」

「それにだいだい最近の学生は……ってはい? なんですか?」


 おい。聞いてなかったのかよ。てか、何の話だ。絶対脱線していただろ。

 そこでもう一度俺はため息をつき、質問を繰り返した。


「休み時間にお前は何をしようとしているんだ? さっきから俺にはさっぱり分からん」

「ああ……えっと……そのですね……なんていったらいいか……うーん」

「なんだ? 言葉じゃ言いにくいことなのか? それともまさか本当は何もやることなんてなかったんじゃないだろうな?」


 ここまできてそんなオチじゃ、俺はとしてはめっちゃ報われないがな。悲しい……いやそれ以上に腹立たしいか。狂って叫ぶんじゃね? そんなことあったら。


「いえ! ちゃんとありますよ! ただ天皇寺さんが言ってくれたように、ただ言葉でいいににくいだけです……。でも強いて言うなら……」

「言うなら?」


 そこでいったん区切るものだから、俺もそんな風に返していた。


「お友達作り大作戦!! 見たいな感じですね!」

「……………………」


 俺はその言葉を聞いて黙ってしまった。

 それは、こいつの言った答えが高校生にしてはアホくさいようなネーミングセンスのものだったからとかそんなことではなく――


 その安直だからこそ伝わる、直球なこいつの気持ちの部分で――。


 正直に「友達」がほしいと思っている、蘭の真剣な思いで――。


「……………………」


 だからこそ俺は、何も話せなかった。


「あの天皇寺さん? どうかしたんですか? 急に黙り込んだりなんかしちゃって?」


 蘭が心配そうに話しかけてくる。

 ……やめてくれ。そんな何も……穢れも知らない純真な目で見ないでくれ。

 俺には……耐えられない。


「あれ天皇寺さん? どうしたんですか? どこに行くんですか」


 俺は急に立ち上がり、教室を出ようとしていた。案の定、蘭は俺を止める。


「一体どうしたんですか? えっと具合でも悪いんですか?」

「いや、そういうのじゃないさ。でもさっき言ったことには俺は協力しないよ」

「え? 何でですか」

「そんなの気まぐれだ。お前のことに気を持ったくらいのな。じゃあな」

「え? 天皇寺さん!」


 そうして後ろで何かを言っていた蘭を無視し、俺は廊下を歩いていった。

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