Dream Memories1 家
――子供サイド――
あれ? 何なんだろう。最近、何かを失った気がする。でも、なんだったかな? ……思い出せない。
たいしたものじゃなかったのかな? だから思い出せないんだ。そう思うことにした。
ぼくは今日、いつものように一人で庭で遊んでいた。花壇に植えられた花を見て、そこにやってくる虫たちを観察したり。ボールを使って遊んだりしていた。
庭はぼくにとってとても広い空間だ。それこそ、ぼくの知る世界とでも言えるほどに。
そして、世界があるならそれよりも大きい宇宙がある。それが庭の外。
このあとぼくは、その広大なる宇宙へと出かけるのだ。
今は庭で遊んでいるが、あと少しでおかあさんがやってくる。そうすれば、ぼくの知らない景色をたくさん見ることができる。ぼくほそのことに興奮していた。
しばらくすると、おかあさんが帰ってきた。少し調子が悪そうにしていた気もするけど、すぐにおかあさんは笑った。だからぼくも笑い返した。
――主人公サイド――
「ねぇ! おかあさん! 今日はどこに連れて行ってくれるの!」
……無邪気な声が響く。
ああ、なんて残酷なんだろう。
この子の母親……見た目からだと、ずいぶんと若く見えるこの女性は、とても悲痛そうにしながらも、笑みを絶やさずにいる。
でも、今のこの子にとっては、関係ないことなのだろう。これからの楽しいことに胸を踊らせているのだ。そっちに頭が行って、心配するという感情はどこにもでてこない。だからこそ、それが残酷感じた。
何故かは分からない。ただ、気づいたときには、誰の家かわからない玄関の前にいた。そして、この親子の会話を聞いていた。
どうやら、俺の存在には気づいてないようだ。そこから察するに、これは夢だろう。明晰夢ってやつだ。
だが、そうだとすると、何故こんな夢を見ているのか、それが疑問に思ってしまう。
(いや、夢なんだ。夢なんて、脈絡のないものでしかない。深く考えないてもいいな)
「ええそうね。それじゃあ、私のお気に入りの場所に連れていこうかしらね」
母親のほうは笑顔でそう返した。子供のほうも「やった」と喜びを全身で表現する。
「ふふ。それじゃ。準備しましょうか?」
子供は「うん!」と元気よく返事をした。……この子は本当に、どこまでも無邪気で純粋なんだな。
そしてこの子の母親は、こんなに辛そうにしながらも笑みを絶やさずにいる。
何故だ? 何故、そんなふうに強がっているんだ?
この人は自分の子の母親としての義務を果たそうとしている。それが俺には、逆に痛々しく見える。
「そうね……まずは――」
母親は子供に指示を出す。それを聞いた子供は「分かった!」といい、家の奥のほうにと行ってしまった。そしてこの場にはこの人、一人だけが残された。
「……うぅぅ……」
母親は泣いた。さっきまでとは違う。
意地を張るなんてことはない。気丈に振舞っていた、その人の姿。
けど、分かっていた。それでも、やはり人でしかない。強がっていても、いつかは壊れ、さらけ出してしまう。今のこの人のように……。
「やっぱり……耐えることなんて……できません。こんな……の無理です」
呟く。それが何を指しているのかは分からない。でも言えることは、今、目の前にいるのは、あの子供の前にいたときとは違う。ただの、一人のか弱い女性と同じだということだ。
女性はその場に泣き崩れた。数分はそうしていただろう。しかし、子供が戻って来る頃、その頃にはすっかり目の前の女性は、一人の母親へと戻っていた。