表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/48

家族――天皇寺祖父母の希望

 野乃花は彼と一緒にどこかへと行ってしまった。特に私たちも止めはしなかった。それよりも、私たちは彼の言った言葉をかみ締めるように思い出していた。


「……全部……彼の言ったとおりだな」

「…………」


 家の中に入り今は二人だけ。実に好都合な話でもある。


 野乃花……。


 私たちは君たち家族を憎いといいながらも、ずっと一緒に過ごしてきた。健宏が事故で死に、絶望をした。彼らと出会わなければ……と本当に思った。

 でも、私たちはその息子の守った……命をかけて守るほどに大切な彼女に、息子がまだ死んでいない、と思っていたのかも知れない。

 彼女を引き取り育てることで、息子が今なお生きていると思っていた。それで幸せだった。しかし、私たちは間違っていた。


「確か、十七歳だったかな。彼は」


『あんたらが俺を憎むのはいい。憎いなら仕方ない。いくらでも憎め』


 そんな若い少年に、私はあんなことを言われたのか。

 憎まれることを認めている……。あの子の方が、私よりずっと大人だ。


『でも野乃花は……幸せにしてやりたいんだよ』


 彼にそう言われるまで、私たちは真に大切なことを見失っていた。

 彼女自身……野乃花の気持ちを考えていなかった。幸せだと思っていた。

 でも、野乃花は違った。学校にも行かず、家にずっと引きこもり、暗い顔をしていた。私たちは、そんな簡単なことにも気づかなかった。

 自分のことしか考えていない……ただの自己満足。そんな自分勝手な人だ。


「彼に気づかされてしまったな」


 それに比べ、彼は野乃花を救おうとしていた。家族だと言っていた。家族だから幸せにしてやりたいと……。

 私は家族なのに、そんなことできなかった。

 私は駄目な大人だ。駄目な父親だ。しかし、もう――


「家族として、野乃花の幸せを願うのは当然のことだな」

「ええ……」


 私たちは二人で笑いあった。

 そうだ……。私は忘れていた。

 あの思い出を――。

 あの日々を――。

 でも、もう思い出した。

 私たちは二度と忘れない。

 一番大切だったもの……。


 それはこの笑顔だったんだ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ