家族――天皇寺祖父母の希望
野乃花は彼と一緒にどこかへと行ってしまった。特に私たちも止めはしなかった。それよりも、私たちは彼の言った言葉をかみ締めるように思い出していた。
「……全部……彼の言ったとおりだな」
「…………」
家の中に入り今は二人だけ。実に好都合な話でもある。
野乃花……。
私たちは君たち家族を憎いといいながらも、ずっと一緒に過ごしてきた。健宏が事故で死に、絶望をした。彼らと出会わなければ……と本当に思った。
でも、私たちはその息子の守った……命をかけて守るほどに大切な彼女に、息子がまだ死んでいない、と思っていたのかも知れない。
彼女を引き取り育てることで、息子が今なお生きていると思っていた。それで幸せだった。しかし、私たちは間違っていた。
「確か、十七歳だったかな。彼は」
『あんたらが俺を憎むのはいい。憎いなら仕方ない。いくらでも憎め』
そんな若い少年に、私はあんなことを言われたのか。
憎まれることを認めている……。あの子の方が、私よりずっと大人だ。
『でも野乃花は……幸せにしてやりたいんだよ』
彼にそう言われるまで、私たちは真に大切なことを見失っていた。
彼女自身……野乃花の気持ちを考えていなかった。幸せだと思っていた。
でも、野乃花は違った。学校にも行かず、家にずっと引きこもり、暗い顔をしていた。私たちは、そんな簡単なことにも気づかなかった。
自分のことしか考えていない……ただの自己満足。そんな自分勝手な人だ。
「彼に気づかされてしまったな」
それに比べ、彼は野乃花を救おうとしていた。家族だと言っていた。家族だから幸せにしてやりたいと……。
私は家族なのに、そんなことできなかった。
私は駄目な大人だ。駄目な父親だ。しかし、もう――
「家族として、野乃花の幸せを願うのは当然のことだな」
「ええ……」
私たちは二人で笑いあった。
そうだ……。私は忘れていた。
あの思い出を――。
あの日々を――。
でも、もう思い出した。
私たちは二度と忘れない。
一番大切だったもの……。
それはこの笑顔だったんだ――




