愛崎悠里
キーンコーンカーンコーン
そう、無機質なチャイムの音が、教室の中で鳴り響き授業の終わりを知らせた。
「……では、今日はここまで」
数学の教師がそう言うと、日直が号令をかけて、そのまま放課後となった。
今日は先生たちが会議あるとかなんとかで、帰りのHRがカットになったからだ。
教室ではクラスメイトたちのうるさい話し声が聞こえてくる。よく言えば、それと同時にクラスではうるさいくらいに活気が出始めた。
(って、結局どっちもうるさいのな)
そんな自分の思考に自分で突っ込み、鞄をもって2-3と書かれた教室を出た。
「あ、咲夜~! 一緒にかえろ~!」
……まではよかったのになー……。
「……何でお前がここにいんだよ」
「うっわ! すんごい嫌そうな顔してるね、あんた……」
当たり前だ。実際に嫌なんだから。
「ていうより、いたっていいでしょ? 別に」
「お前は5組だろ? ここは3組の教室だ」
「いや、今は放課後ですから。あたしがどう行動しようと何ら問題はない時間ですから」
(お前に自由な時間なんてないだろ)
そう言いたいのを俺はこらえる。たぶん、思ったことをただ口に出していくと、どんどん面倒くさいことになる。
「わかった。じゃあ、お前……部活はどうした。部活は。こんなところで油売ってないでいって来い」
「帰宅部! 一年間一緒にいる仲でしょ? 何で今頃、それ聞くの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
となんかうるさかったので、その間に俺は廊下を歩き始めていた。
「ってちょ――――っと待った!!」
「なんだよ。うるさいな」
「いや、ていうか、何で人が話してる最中に、勝手にどっかに行こうとしてるのよ!」
「だって……帰りてーし……」
「いや、だから一緒に帰ろうって話だったんでしょ!」
「え……あー……うん、そうだったね。うん。じゃ、無理。そいじゃ」
「って、あ――もう! 待ってよ――!!」
そうして勝手についてくるこいつは無視し、そのまま帰宅することにした。
さて、こいつ……つまり愛崎悠里だが、こいつは高校に来てからの友達……いや違うな。俺こいつのこと、そんな風に思ったことないし。基本、ウザいだけだし。じゃ、なんだ?
確かあいつは遠いところからこっちのほうに引っ越したとかで、中学の時の友達がいなかったとか聞いたな。……ああ、そういうことか。
あいつ、入学当初近くの席にいた俺に親しそうに話してきては、それからもまとわりついてきて、友達だよねアピールしてくる、とてもかわいそうなやつだったのか!
なるほど。うん。とってもウザい! その言葉に尽きるな。
まったく、だったら俺のような男子じゃなくて、普通に女子に行ってほしかったぜ。
「……ねぇ、今ものすごーく失礼なこと考えなかった? あんた」
「何のことだ?」
しれっとそう返す。こいつ……まさか人の心を読めるのか! という想像をしたが、よく考えたらどうでもいいことなのでスルーしよう。
こんな『とってもウザい、一人ぼっちのかわいそうなやつ』のことを考えていたくないし。それだけ覚えてくれたらいいと思う。
「……まあいいや。ねぇねぇ! 咲夜」
少し不満そうにしながらも、話しかけてきた……。ウザいから無視したいんだが、そうするとずっと俺の名前呼んできてそっちのほうがウザい。
それを知っていた俺は(というか、去年無視したらそうなった)仕方なしに話を聞くことにした。
「……なんだよ」
「いや、そんなに嫌そうにしなくても……」
と言われてもな……。
「実際嫌なんだから仕方ない」
「そういうこと、本人の目の前で正直に言うな!!」
「え? なに。あ! まさか声に出ちゃってたか? すまんすまん。つい本音を言っちまった」
「それはそれですごく腹立たしいんだけど……」
「早く本題言えよ」
「あんたが邪魔するからでしょ! まったく……」
やれやれといった感じでため息をつく悠里。やっぱりウザい。
「えっと、それであたしが言いたかったのは、ちょっとこれから暇?」
「暇じゃない」
嘘だけど。
「嘘でしょ?」
「ああ」
「じゃあいいわね?」
「いやだ」
不毛なやり取りだな。それに対して悠里は別段気にした様子もなく、俺の言葉を無視して話を進めていく。
「私に付き合ってくれない?」
「どこに?」
これ以上否定しても無駄だと判断して、俺も受けること前提で話を進めていく。
「んー……とりあえず、ゲーセン」
うわ、今考えたよこいつ。せめてどこに行くのか決めてから言えよな、そういうことは。しかもゲーセンって……絶対俺の金目当てだな。行きたくねー……。
「パス」
「あ、ちょっと!」
否定は無駄だったので、今度は強引に無視して帰ることにした。
「どうせ暇なんでしょ? だったらいいじゃない、別に。大体、放課後デートよ! デート! しかも、あたしみたいな美少女と!」
自分で美少女なんて相当だな。それに俺にはただのうるさい奴にしか思えないし。
「つーか、それ俺にゲーセンの金持たせようとしてんだろ? 嫌だぜ、俺」
「うわー……あんたそんなんだから、もてないのよ。もっと、男の甲斐性ってもの見せてみなさいよ」
別にもてなくていいし、それ以前にこんな変な奴にはなぜかモテてしまっているわけで。
「とにかく、俺は帰る」
そう言って悠里に背を向けて歩き出す。
「あ、ちょっと待ってってば~!」
そうして悠里はまた俺を追ってついてきた。