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Dream Memories10 混乱――自分のこと

 ……もう、なんでもいい。

 どうでもいい。

 俺は持っていない。

 希望なんて無い。

 俺は……俺は……。


『私も大好きだから』


 え……? なんだ、今の? 何の声だ?

 俺はもっとよく聞き取ろうと耳を澄ました。


『私も大好きだから。咲夜のことが……野乃花のことが。健宏さんのことが。私は本当にこの家族というのものが大好きだから。みんなで一緒にいたい』


 その声は、かあさんのものだった。死ぬ間際、そのときの残された言葉。

 ……その声は悲痛だっただろうか?

 いや、違う。それは暖かなものだ。

 暖かで……そして希望があった。


 どうして?

 どうしてだ?

 かあさんは絶望したから死んだんじゃないのか?

 それなのに、どうして優しい声でそんなこと言うんだよ……。


 みんなで一緒にいるために、俺と一緒に死のうとしたんじゃないのか?

 俺は……一人になったんだよ?

 俺はおかあさんと一緒にはいけなかったんだよ?

 ……ぼくはなんで生きていたの?


『あなたは生きて。私は死んでしまうけど……絶対に生きて。幸せになって。私は……一緒にいたいけどいることができないから』


 どうして!?

 そんなの勝手だよ!!

 ぼくは一緒にいたいのに!!

 ずっと一緒にいたいのに!!


『私は絶望だったから。でもあなたには希望でいてほしいから』


 分からないよ……。そんな言葉。

 難しすぎて意味が分からない……。


『これがあなたの絶望になるかもしれない。でもあなたは救わなきゃいけない。この世界のしがらみから』


 しがらみってなに?

 ぼくはなにを救わないといけないの?

 それにぼくには……救う力なんて無いよ……。

 だから、みんないなくなっちゃったんだ……。


『私はあなたに救われたの。あなたが私を救ってくれたの。だからお母さんは全然悲しくなんて無いの……。もう悲しくなんて無い』


 なら、どうして……死んだの……。

 それじゃ……ぼくは救えてないじゃないか……。


『私は死んだら、もう会えないって言ったことがあるよね? でもあれは嘘。本当は会えるの。人は死んだら、大切な人の心の中でずっとずっと生きていく。その中でずっとずっと一緒にいる。だから悲しまないで?』


 そんなの奇麗事だよ……。

 もう会えないんだよ……。

 嘘なんかなわけないよ……。

 悲しくて当然なんだ。


『最後にもう一度……』


 さい……ご?

 最後ってなに!?

 嫌だ!

 ぼくは……!


『大好きだから』


 いなくなっちゃ……嫌だよ。


 ぼくはおかあさんの胸に抱かれていた。

 胸にはナイフが突き刺さっている。血がドパドパと出てきていた。


 でも――おかあさんは笑顔だった。




 …………分かってる。

 本当は、最初から分かってる。

 ぼくは、前を向いて生きていかなきゃいけないことは。

 でも、それができなかった。

 おかあさんの言葉を聞いて……ぼくが生きていっていいのか? って疑問に感じていたから。


 けど、そうだったんだね……。

 おかあさんはずっと願っていたんだね。ぼくの幸せを。


 ぼくはついさっきまで本当に忘れていたんだ。ううん。当時でさえぼくは聞いてなかったのかな……。

 でも、決心できたよ。ぼくはもう――。


「何も怖くないから」


 だから恨まない。

 もうぼくは……俺は強くなりたいから。

 乗り越えられるだけの強さは、持っているはずだから。

 人を許せるだけの強さを、持っているはずだから。


 俺の周りに光が集まってきた。

 記憶を取り戻す際に扉に吸い込まれたときと同じように、光は俺を取り囲んでいく。

 これで俺の記憶の旅は終わりだということだ。そう思うとやっぱり


(少しだけ寂しく感じるよ)

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