Dream Memories9 混乱――俺のこと
……ああ、なんでだろう。俺はなんで、こんな記憶を思い出そうとしていたんだ。絶望なんて乗り越えられるって高を括っていた自分がアホらしい。
俺には絶対、今の記憶を乗り越えるなんて不可能だろう。だってそうだ。今の俺には『あのときの記憶のすべて』が思い出されているんだから。
何を思い何を感じたのか……それがすべて。
……これは思い出してはいけなかった。
俺には、人の死を乗り越えられるだけの強さが無かった。いや、あるわけが無いんだ。俺は弱かったから閉ざしたんだ。
俺は何も変わっていない。……弱い。弱いままの自分だ。成長なんてこれっぽっちもしていない。
俺には重すぎた。
絶望なんて、見る必要は無かった。
俺は希望だけを見ていれば良かった。
暗闇じゃなく光だけを見ていれば、それで良かった。
(絶望がある……)
何である?
何が絶望だった?
それは……全部だ。全部か絶望だ。
でも、どこかに分岐はあった。
俺がしっかりとしていれば、こんなことにならなかったのに……。
だから、なんだ。だから、俺はずっと『友達』が怖かったんだ。
それさえ忘れて、今まで生きてきて……馬鹿だ。
もう二度と繰り返さないためには『友達』などいてはいけなかったんだ。
それなのにオレは絶望を生んだ『友達』に希望を見ていたというのか?
なんて……なんて馬鹿げているんだ。
あいつらがいたから俺の大切なものは奪われたんじゃないか!!
俺は自分のことが憎い。
何もできない……
できなかった……
できていない自分。
それらすべての自分が憎い……。
(いや……待てよ)
憎いのは本当に俺だけか? いや、違うだろう。
友達だって憎い。
あいつらが俺を強引に連れて行かなければ、事故が起こることは無かった。
それに……野乃花だ。
アイツが事故を起こしそうになったから。
だから父さんは助けるために飛び出し、そして野乃花をかばって死んだ。
そのショックでかあさんも死んだ。
かあさんを殺したのは野乃花だ。
野乃花がいたから……
野乃花が事故を起こしたから……。
憎い。
憎い!
憎い!!
野乃花が……野乃花が……。
『……決して誰も恨むな』
ちょうど、俺の脳裏に番人の言っていた言葉を思い出した。
誰も憎むな……?
俺は憎んじゃいけない?
何故だ……。
何故、俺はそうしてはいけない!!
『真実とはあくまで記憶だ。過ぎ去ったこと。書き換えることはできない。たとえ自分の中から消し去ろうとしても事実として残っている。だからそこで何があろうと……残酷な現実があったとしても恨んじゃいけない。もちろんお前自身も……』
過ぎ去ったこと……確かにそうだ。
もう、今となっては関係ないのかもしれない。
だとしたら、俺のこの胸に渦巻く感情はどうしたらいい!!
『……恨むなら俺を恨め。お前を止めなかった俺をな』
そうか。
お前は恨んでもいいのか。
止めなかったお前を、俺は恨んでいいのか。
もう俺は壊れていた。すでに支離滅裂であることは自分でも分かっていた。
それでも、俺は怒りのぶつけどころを探した。
必死だった。
俺は……最低だった。




