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Dream Memories6 最後の旅の始まり

 ……ん……? なんだ? この感じ……。久しぶりに体験する。なんだか自分の体があるようでない。意思だけがここにあるような。

 少しふわふわとしているこの感じ。これは……。


「夢?」


 そうだ。確かにこれは夢。俺の見ていた記憶の世界。これを見るのは約半年振りになる。

 だが、なぜこのタイミングで? ……なんとなく想像はついた。


「野乃花か……」


 野乃花と接触したこと。

 これが一番可能性が高い。

 それに野乃花は全部知っている。つまり、この記憶は野乃花にも深く関わりのあることだということだ。

 そこまで考えた後、俺はあることに気づいた。


「ここはどこなんだ?」


 今までなら昔の俺とかあさんが近くにいて、そこから夢は始まっていた。

 だが今俺がいる場所は、これまでとはまるで違う。


 普通じゃない場所。

 それは現実には絶対にないような……形容のしがたい所だ。俺は今浮いているのか? 足元を見ても地面なんてものはない。

 あったのは果てしなく続く何もない何か。それは言うなれば、黒か白。いや青とも言えた。

 この場所に対し不信感を感じていると、どこからとも無く声が聞こえてきた。


『ついにこの時が来たか……』


「!? 誰だ」


 いきなりの声に思わず声を荒げる。そんな俺とは裏腹に、その声の主はいたって冷静に言ってくる。


『そう身構えるな。俺は別に怪しいやつなんかではない。言うなればそう……記憶の番人だ』


「記憶の番人だと?」


『ああそうだ。俺はお前の封印された記憶。そのすべてを守るものだ』


「な……ということは」


 コイツは俺が記憶を思い出さないようにしていた、その意思からできたやつなのか。

 しかし、だとすると……。


「なぜ……お前は俺に閉ざしたはずの記憶を見せたんだ」


 もしもこいつが番人などという存在だとすれば、俺は一生思い出すことはなかったはずだ。

 でも、俺は思い出した。それはつまり、閉ざした扉を開けたということになる。

 やつは答える。


『俺の支配する領域だけではすでにすべてをおさめることは不可能だったのだ。お前にも分かっているはずだ。考えてみろ。どうしてこうなったのかを』


 どうしてこうなったのか。それはつまり、俺が記憶を見たこと……。何故見たのか?

 コイツの言ったとおりなら、すべてをおさめられなくなった。容量オーバー。

 なら、何故そうなった? それは……。


「一年のころにあったあれか……」


 俺が忘れたい記憶を増やしたから。


『そうだ……俺はあの時の分の記憶を忘れさせようとした。だが、完全には無理だった。そのため、お前自身にも少しばかり負担をかけさせてしまったな』


 それは、睡眠時間が増えていたことだろう。やつは続けた。


『最初は頑張って毎日記憶を忘れさせる作業をしていたが、このままではいけないと自分なりに思ってな。そこで試しに、お前に記憶の一部を夢という形で見せてみた。

 一回目は目を覚ますと何も覚えていなかったようで、変わりがなかったよ。どうするか考えていたが、その後悠里との一件があって、早急にことを進めていかなければいけなくなった』


 確かに悠里とのことは、あのままではいけないと思うだろう。自分で最悪だな、とも思ったし。


『二回目も特に効果は無かった。だが三回目では』


 それは俺がはっきりと覚えている夢だ。これをきっかけに俺は変わった。

 それは結果的に良かったことだ。ずっと忘れているなんて嫌だと思った。

 そして今、真実を知れば全部思い出せる。


 けど、一つ疑問に思うことがあった。こいつはまだ話していないことがある。


「どうしてお前は俺の思いとは逆の記憶を消したんだ」


 俺の仮定が正しければ、俺の意思であるコイツは俺の考えに従うはずだ。なのに、こいつは俺にとって忘れたい記憶を封印しなかった。

 分からない。俺には分からない。

 なんでだ。コイツは一体なんだ?


『…………』


 やつからは何の返事も無かった。声が聞こえなければ、形のないやつといても、俺はこのだだっ広い空間に、一人でいることと何もかわりはしない。

 ここは自分が今何をしているのかさえ、分からなくなるような場所だ。言ってしまえば上も下も分からない。目を開けているのか、閉じているのかさえ分からない。ここはそんな所だ。


 ここは一体なにを表しているのだろうか。それを考え始めるよりも前に、やつは俺の出した問いに答え始めた。


『お前には絶望していてほしくなかったんだ。希望を持っていてほしかった。だから俺はお前の記憶の真実……お前が一番知りたがっていることは隠しておきたかった。お前が幸せではいけないという記憶。あれはもうお前には超えられる記憶だと判断したから思い出してもらったが……真実は残酷でしかないのだ』


 そこまで言うと、何もなかった空間に一つの道ができた。いやそれは一つの指標。どこに向かえばいいのか、その方向を教えてくれている。


『この先に真実がある。お前はこれを知りたいと願うか』


 真実……それを知りたいと思って、半年ほど過ぎた。

 それまでは希望を持っていることを決めていけど、もしかしたら待っているのは絶望かもしれない。

 それでも――


「ああ、知りたい」


『わかった。なら止めはしない。だが一つだけ言っておく』


「なんだ?」


『……決して誰も恨むな』


「? どういうことだ」


 いきなりわけの分からないことを言う。恨むとは一体誰のことだ?


『真実とはあくまで記憶だ。過ぎ去ったこと。書き換えることはできない。たとえ、自分の中から消し去ろうとしても、事実として残っている。だからそこで何があろうと……残酷な現実があったとしても恨んじゃいけない。もちろん、おまえ自身も……。

 知りたいと願ったのはお前だ。だが、真に責任を持たなければいけないのは俺自身なのかもしれないな。……恨むなら俺を恨め。お前を止めなかった俺をな』


 何がなんだか分からない。ただ一つ言えることは。


「……そこまで言うってことは、この先にはあるのは絶望だった……ってことなんだな」


『……ああ。その通りだ』


 やっぱりそうなのか。それでも……。


『それでもなお、知りたいと願うか? 今ならまだ引き返すことはできるんだぞ』


「いや、引き返しはしないさ。俺はもう逃げないって決めたから。真正面から向き合って受け止めてみせる」


『……なら行くがいい。この先の扉の向こうへ』


 歩を進め、俺はその道へと歩き出していった。




――番人サイド――


『やはり、止めるべきだったかもしれないな』


 耐えられなかったから封印した。

 なら、耐えることなんてできるのだろうか?

 俺の意思で起こしたことだったが、いまさらながらに後悔をする。


 もう一度苦しみを与えてどうなる? わざわざ苦しむ必要はあるのか?

 今のままでもいいはずだ。

 お前には友達ができて。

 母とも、前以上に分かり合えたのだろう? それ以上に何を望む?


 友をいらないと言った意味。それさえ、知る必要はもう無いだろう。

 今のお前には希望の存在なのだから。

 きっとお前は耐えられない。

 やはり、すべては俺の責任。


 だが、心配はするな。そのときはもう一度封印してやる。今度はもう二度と思い出さないように。


『俺はお前を守るためのお前なのだから』

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