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蘭の過去

 そんなに長い話ではありません。単刀直入に言ってしまえば、僕は元々ここの土地とは、全然関係のない場所で生まれ育ったんです。だから、あまり他の人とうまく関わりあうことができないんです。

 でも、それは理由のほんの一部にすぎません。

 僕は、中学三年のとき、悲劇にあいました。それは裏切りです。


 僕は、友達だと思っていた人に裏切られました。それはもう本当にきっぱりと。

 それどころか、僕がそう理解したら、開き直ってたくらいです。

 その後は一時期、人間不信になって家に引き持っていました。それを心配に思った両親が、自分たちの仕事をやめてまで、この遠い土地まで引っ越してきたんです。


 その時、僕は自分がどれだけ迷惑をかけていたのか認識して、転校した後はまた学校に通いましたが、それでもまだ人という存在を信じることができませんでした。

 その後、ここの高校を受けました。これをきっかけに、絶対に変わろうと思ったのに、結果はこの通りです。

 高校生活が始まって二ヶ月程度だっていうのに、もう僕はこんな場所にいる。そんな自分が情けないと思ったと同時に、僕は自分という存在を諦めていました。


 この心に負った傷は直ることはないんだろう。

 もう変わることなんてできない。

 いや、そんな必要すらもない。


 そんなことを考え続けていたら、疲れ果てて眠っていました。

 そして目を覚ますと……天皇寺さん、あなたがいた。


 僕は寝ぼけていたから、わけも分からず対応していました。

 冷静になった時は、怖かった。この人は失礼な態度取った僕をどう思っているのだろう。

 僕は人を信じることはできない。

 だから、人と交わりたくはない。

 できるだけ必要最低限の付き合いだけを保っていけることが、一番都合がいい。


 僕はそれさえできていませんでしたが、他人と面倒なことを起こして平穏な時間を崩すことはありえませんでした。

 そんなふうに思っていたけど、天皇寺さんの反応は、僕の思っていたものとは違いました。

 僕という存在を受け入れ認めてくれた。

 それが、僕はとてもうれしかった。


 僕ここにいていい。

 ぼくの居場所がここにある。

 そして思ったんです。

 まだ変われるって。


 あなたと、話して本来の自分を認めてくれた。

 疑わなくてもいい。

 人間不信に陥っていた心は、この時に少しだけ光を感じたような気がしました。


 あなたとの出会いをきっかけに、僕は変わる。

 だから、僕はもう一度……いえ何度だって言います。


「ありがとうございます」




 蘭がその言葉を言い終え、辺りは沈黙に包まれた。

 俺も……思うところはたくさんある。

 こいつにここまで深い過去があったのかとか。

 俺との出会いが、そんなにまで重要なことだったのかとか……。

 でもやっぱり――


「……いいんだよ。そんなこと。どうだってさ」


 そう。どうだっていい。関係なんてない。


「お前の過去の話聞いたって、何かが変わるわけでもない。なら、そんなこと考えているより未来のことを考えていたい。違うか?」

「……ええ。そうですね」


 蘭もそう思えたようだ。いや、もしかしたら最初からそう思っていた上で、話したのかもしれない。

 俺は蘭の過去が、友達がいない原因だと思っていた。そして、それは実際にそうだったわけだが、今の蘭という人間とはなんら関係のないものだった。

 確かに、俺は蘭の過去を知りたくはあったが、話を聞いていたらどうしてもそう思わずにはいられなかった。

 きっと、それこそが蘭という人間の存在を肯定している、俺の気持ちなのだろう。


「ええ。そうよ、蘭くん。あなたがどんな過去を送ってきていようが、今のあたしとあなたが友達であることにかわりはない」


 そしてそれは悠里も同じ気持ちのようだ。

 俺はまた軽く微笑みながら言った。


「昔のお前が友に裏切られたとしても。それで人間不信に陥ったのだとしても。俺の知っている蘭っていう人間は、内気な性格だけど、突拍子もないことをしたり、暴走すると周りのことが見えなくなる。そんなわけが分からないけど、楽しい人間だ」




蘭サイド


「……はい」


 僕は昔のことを思い出していた。

 嫌な……もう、本当に思い出したくなんてない記憶を――。


『あーあ。ばれちまったか。まぁいいか』

『え? それってどういう……』

『にぶいなぁー、お前。もう友達ごっこはやめるって言ってるんだよ。結構金もくれたし、感謝しといてやるよ』

『だってそれは必要だっていうから……』

『ああ。俺が友達と遊ぶのに必要だったからな』

『え? 友達って?』

『は! 本当、鈍い……いや馬鹿だな! お前は俺にとって、ただの金づるでしかなかったんだよ! そうでもなきゃ、誰がお前のようなやつと関わりたいなんて思うか! クラスでも地味で、俺の他に友達って言えるやついなかったんだろ? でも残念だったな! その俺も、お前とは友達じゃなかったってことさ』

『…………』

『へっ。じゃあな。もう二度と話しかけてくんなよ。弱虫』

『……う……うぁ……うぁぁぁぁぁぁああああ!!!』


 僕にとって、裏切られることは最悪の行為だ。

 なら、どうすれば裏切られないか?

 それは、最初から友達なんて持っていなければいいだけ。

 そうすれば、悲しまずに済む。

 傷つかずに済む。

 だからいらない。そう思って過ごしてきた。


 けど、天皇寺さんにあってから、僕は友達がほしいと思った。

 その大切さを教えられたような気がした。

 たとえ裏切られても、それで傷ついても、僕が強く生きていたら。


 もっと自分らしさを出していけていたのなら、こんなことで悩むことなんてなかったんだ。

 だから、僕はそのことを気づかせてくれた天皇寺さんに恩を返したい。

 どれだけかかるかわからないけど、天皇寺さんとも、僕がこうやって話したことを……相談してもらえる、そんな人になりたい。そう思った。

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