出会い
目が覚める。頭が重い。まだ覚醒しきってないその頭で周りを見渡す。
何も変わらない、普段どおりの景色がそこにはあった。
さっきまで何かの夢を見ていたような気がする。どんな夢だっただろうか?
しかし、それはとてもおぼろげで、何も思い出すことはできない。
しばらくすると、その夢の内容は完全に頭から消え去った。まあ、きっとそんなに大切なことではないのだろう。夢なんて元々そんなものだし。
そんなことよりも、今は何時だろうか?
ベットから起き上がり、机の上に乱雑に置かれた荷物の山の下から、ケータイを取り出す。
「げっ……これは……」
完全なる遅刻コースだった。
だが、そうと決まれば後は楽だ。急げばギリギリ間に合うような時間に起きるよりは、るかにマシ。それで遅刻してたら、ただの疲れ損だ。
ああ、そう考えてくると学校に行くのも面倒くさい。どうせ遅刻なんだ。もう少し寝てから行こう。
…………一向に睡魔がやってこない。未だに、こんなにも頭が重いというのに。
「……はぁー……」
仕方ない。準備していくか。
俺は気怠そうにしながらも、素早く着替えを済ませ、ベットの横に置かれていた鞄を取り家を出た。
朝食は通学中に、コンビニでサンドイッチを買って食べた。
キーンコーンカーンコーン
1時間目終わりのチャイムが、学校の敷地内にちょうど入ったところで鳴り響いた。これなら、2時間目からは出られそうだ。
といっても、別に勉強なんて実際はどうでもいい。
できることなら高校にだって来たくはなかった。けど、親や中学のときの担任にいろいろと言われ、しぶしぶ自分の家から一番近いところ(徒歩三十分)に入学した。
行きたくはないが……親とも別に仲が悪いわけでもない。高校中退なんてことをして親に迷惑をかけるつもりもない。
今、家には両親共にいないが(父は俺が七歳のときに死去。母は今、実家で不自由になった自分の母親を看病しながら、家業を継いでいる)だからといって、俺がそんなことをしていいわけでもない。
来たからには少なくとも、卒業はしなければならないだろう。
そんなことを考えているとまたチャイムが鳴った。2時間目が始まるようだ。どうする?
(どうせ、今行ったって授業は欠席扱いになるしな。それだったら、どっかで暇でもつぶすか)
俺は教室に向かっていた足を止め、踵を返す。そしてあまり人気のないほうへと歩を進めた。
(ここでいいか……)
そこは特別教室。しかしそれは名だけで、今は特に何にも使われていない空き教室だ。
(昔は何かの授業で使われていたんだろうけどな)
まあ、今そんなことを思ったところでどうにもならないか。
俺はドアを開き中に入ると、適当な席に着いて、一息ついた。
「ふう……って誰かいる……」
教室の入り口からは死角になっていて、気づかなかったが、この教室内には机に突っ伏している人がいた。
「……寝てるのか?」
というか、俺が入ってきたのに何の反応もないんだから、寝てんだろうな……。
近くに寄って、誰なのか確かめてみる。
「……なんか俺、不審者みたいだな……」
じゃあ俺が不審者だとしたら、寝てるやつに近づいて一体何をするんだ?……考えないでおこう。
とりあえず、顔を覗き込んでみる。……うん、完全に寝てるなこの顔は。すうすうと寝息が聞こえてくる。
……本当にこれなら襲えそうだな。というか、こいつ結構可愛い寝顔をしている。逆に襲いたい? ……何故に疑問系……って!!
「俺はなにを考えてるんだ――――!?」
「う~ん。なに~?」
「うおっ! 起きた!?」
思わず大きな声で叫んでしまい、どうやらこいつを起こしてしまったようだ。
「…………君誰?」
相手は顔を俺に向け、まだ寝ぼけた目で質問をしてきた。
「ああ。実は俺もお前のことを知らない」
「……なんだ。じゃあいいや」
そうしてまた眠りについた……。
「っておい、まて。寝るな」
あわてて寝ようとしていたこいつを起こす。
「う~ん。なに~?」
「最初に起きたときと同じリアクションすんのなお前……。ってそんなことはどうでもいい」
「僕に何か用なの?。えっと……」
「咲夜。天皇寺咲夜だ。俺の名前だ」
「あ……これはご丁寧に。僕は一年三組、十二番、倉敷蘭っていいます」
そこまでは聞いてない。
「ああそうか、蘭っていうのか。まぁ、なんだ。とにかく蘭! お前はなんなんだ!」
「ふぇ?」
「何故寝ようとする? 何故それだけでさっきは会話が終わった? おかしいだろ!」
「うーん。何言ってるか分からないです~」
「分からないって……さっき俺と話しただろ。覚えてないのか?」
「はい、覚えてません。クラムチャウダーさん」
「違うよ!? 俺そんなんじゃないよ? そんなおいしそうな名前してないから!?」
やばい、なんだか疲れてきた。突っ込みってこんなにも体力使うものなんだな……。
「はぁ……。もういいやなんでも……」
マジで疲れきってしまった俺は、そう投げやりに言った。蘭のほうは「???」って顔に出してたけど……。
でも、なんで俺はこいつにこんなにも必死になってしまったんだろう? 理由は分からなかった。




