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登校中

 朝、俺は通学路を歩いていた。え? なんでそんな描写をしているのかって? 簡単なことさ。この時計を見てみろ!

 ……まぁ見えないだろうけど。


 今は七時三十五分。

 そう! 今日はなんと普通に、遅刻せずに学校に向かっているのだ!

 これは、ここ最近では珍しいことだ。でも、だからだろうか。


「めっちゃ寝みー……」


 ふざけているな。何だ、この眠さは!? 今までならすぐ二度寝をする俺が、なぜこんな時間に学校なぞにいかなければならんのだ!


 というように、完全に目的を忘れてしまうほどの眠気が俺に襲ってきていた。吹き飛ばすために誰かに話しかけているみたいな体をしてみたりと、変なテンションになったが、全く効果がない。

 ああ……やばい。このまま歩きながら寝るかも……。だって今までこんな経験なかったし、仕方ないよね。

 そのとき、俺の目の前にオアシスが見えた。


「あれは……ベンチ……!!」


 なんという甘美な響き!

 ……もう俺には無理だ。

 睡魔という悪魔に取り付かれてしまっている自分は、身も心もすべて支配されてしまった。

 少しずつ、ベンチへと向かっていく俺の体。それはすでに、自分自身の意思とは関係なく動かされる。

 そして、そのまま倒れるようにベンチに……寝た。




「……ーい。咲夜? ……ろ」

 なんだ? なんか声が聞こえるぞ。この声……。聞き覚えがあるが、誰だっけ? そんな疑問を感じつつも、俺は起きようとはしない。いや、できないといったほうが正しいかも知れない。

 声を聞けるほどに意識はあるが、俺の体はまだだるい。目を開けることもできない。だから俺は、この状態でこいつが誰であるか予想しないといけない。

 ……いや待て。する意味もなくね?

 そうだそうだ。別に関係ねーわ。そんなこと。

 ふぅ。まったく意味のない時間(五秒)を過ごしたぜ。寝よ寝よ。


「……てぃ!」

「いで!!」


 そう思って意識をまた閉ざそうとした瞬間に、急に体に衝撃がきた。


「なんだ!? なにが起きたんだ!」


 少しパニック状態になってしまう俺。


「やっと起きたのね」


「! 誰だ!」


 衝撃はベンチから落とされたときのものらしく、おかげで目が開けられるようになった。

 もちろん褒め言葉ではない。俺の睡眠の邪魔をしたことに対する皮肉だ。

 こんなことをしたやつはいったい誰か。さっきまではどうでもよかったが、今はもう違う。文句を言ってやらないと気がすまん。俺は声のした方を向いた。そこには――


「悠里! お前か!」

 ……悠里がいた。誰もが知ってのとおりの痛い子である。

 ……こいつが俺の睡眠のジャマを……。俺は一昨日のことも忘れ、悠里に怒りをぶつけた。


「まったく。あんたはこんなところでなにをやって……」

「お前なんか、地獄に落ちて閻魔様に下を抜かれちまえ、この屑が!」

「はぁ!? 咲夜、いきなりなに言ってんの!?」

「うるさい! 俺がいい気分で寝てる時に余計なことしやがって! 大体、ありえないだろ! 寝てるやつをベンチから突き落とすとか。もっと常識をわきまえろ!」

「うっわ。すっごい言われよう……。でも、あんたには絶対言われたくないわね。咲夜」


 悠里がそんな戯言を言ってくる。ふん。責任転嫁とは……器の大きさがしれるな。


「まず、常識からベンチで人は寝ない。それに、ここはどこ?」

「どこ? どこってここは……」


 悠里にそう言われて、初めて回りを見渡す。俺は余りの眠気にここにベンチがあったこと意外はなにも知らなかった。えっと……ここは、


「駅前だな」

「そっ。こんな人通りの多い場所のベンチで、堂々としかも制服でこんな時間に寝てるやつに、常識がどうこう言われたくありませ~ん」


 ……さすがにこれはまったくその通りだ。反応はウザいけど。


「……悠里のくせに」

「なんか言った?」

「別に」

「あ、っそう……」


 まぁ、こいつのことは今はもうどうでもいい。よくよく考えたら、俺は登校中だった。完全に頭の中から飛んでいたけど。

 だとしたら、俺はどのくらい眠ってたんだ? 再び周りを見渡し時計を探す。そして目に入った驚愕の時間……。


「九時十分!!」


 遅刻じゃん! 今日は遅刻しないように出たはずなのに遅刻じゃん! 

 ……って待てよ。


「おい、お前も遅刻じゃねーか。なにやってんだんだよ! もっと早く起こせよ、アホ!」

「いや、知らないわよ。あたしは用事があって、ついさっきここについて、咲夜を見つけたから、起こしてやっただけで」


 くそ! 役にたたんやつだ。こんなやつが……俺の唯一の友達だと! 笑わせるぜ。

 今になって、一昨日のことを思い出したがとても最悪の状況だった。これだと結局前と同じように、ウザいやつになってしまう。

「っち。これじゃ遅刻じゃねーかよ」


 なんとなく声に漏れれたその言葉を聞くと、悠里は俺に突っかかってきた。

「え? どうしたの、咲夜。あんたが遅刻を気にするとか。まぁあたしは普通に、学校に来てほしいと思ってたけど。先週だって次の日、学校来なかったくらいなのに」


 ……あんまりこういうのは嫌なんだがな。まぁそうだな。こいつはなんだかんだで、俺のことを心配してくれてんだよな。今までずっと。

 なら、言っとくべきなんだろうな。


 このとき俺は理解した。やっぱり悠里は俺の大切な友達だと。


(ここから学校までなら、十分もあれば着くか……。なら少しは時間もあるな)


「なあ。とりあえず、学校へ向かおうぜ。話はその後だ」

「? ええ」


 俺たちはそうして学校へと向かった。

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