プロローグ
どこからか声が聞こえる……。これは何だろう? 何を言ってるのだろう?
……分からない。でもそれは何か大切なことを言ってるような気がした。
少しでも聞き取ろうと頑張って耳を澄ます。
しかしそれは意味を成さない。声が聞こえきても、それを理解しようとする前に、すぐになんだったのか分からなくなる。
つまり、聞こえても無駄なのだ。その先、脳が言葉を理解してくれない。
何故なのか? 疑問にも思うが結局はそれだけで、それ以上はなんともならない。
ならばと、ここがどこなのかが気になり始めた。
そう思っていると、ずっと光のように白かった目の前の視界は、少しずつ晴れっていった。
何かが見えた。
なんだろう?
さらに目を凝らす。
もしかしたらこれも声と同じように見えても頭が理解しないのかもしれないと思った。それでも目を凝らした。
どこにそんなことをする意味、理由があったのだろうか? しかし、それも同じだった。何か大切なもの。その予感。それだけだ。
意識がどんどん鮮明になっていく。ここは……花畑だろうか? 何故、こんな景色が広がっているのだろう。目の前にはただただ、それがどこまでも続いていた。
視界を動かすことができた。他の場所に目を向けて見る。
そうすると、そこには一人の女の子がいた。彼女の手がぼくのほうに向いている。その手を視線で辿ると、ぼくの手を握っていた。
けれど、ぼくは分からなかった。
その手の温かみが……。握られているという感触が……。
彼女は何か喋っているようだった。
さっきまでの声の主はこの子だろうか? とても楽しそうにしている。しかし、ぼくにその声は届かない。
でもその彼女の顔が微笑んでいる姿が、ぼくには幸せに思えた。ぼくまで楽しくなってくる。
彼女はぼくの手を引いて歩いていく。どこに向かうのか分からない。
もしかしたら、別にどこかに向かっているわけじゃないのかもしれない。
けど別になんでもよかった。彼女とならどこへでも。彼女の行くところならどこまでも行こう。そう思えた。
――ここから始まっていくのだろうか。ぼくの楽しい日々は。彼女と過ごすかけがえのない日々が――
……そこからは何も見えなくなった。突然に視界が悪くなった。いや、ぼく自身が拒絶したのかもしれない。その先の未来を。ずっと今のままでいいと。
何故かは分からない。それも同じ予感。
ああ、それにしてもどんどん意識が遠ざかっていく。この先になにがあるのか。目覚めたとき何があるのか。ぼくはこのことを忘れているのだろうか。
……忘れたくない。
……でもやっぱり忘れたほうがいいのかもしれない。
一体どっちなのだろう。
結局、その自らの問いには答えは出せず、放棄することにした。そして先の未来を見据え、ぼくは……少しずつ世界から消えていった。
そしてまた、どこか違う世界に意識は繋がった。