死者の声
なんとなく思いついて書いただけのものですので、軽い気持ちで読んでください。
最近、親友の難波渡が学校に来なくなった。
一度家へ様子を見に行ってみたが、部屋にこもったきりらしく、小母さんも会えていない状況だという。
小母さん曰く、「死者の声が聞こえるようになった」とのこと。
しかもそれは現実で死んだ者の声ではなく、彼が物語の中で殺してきた空想の人物たちの声なのだ。
難波渡は明るい性格で人を笑わせるのが得意な奴だった。クラスでも中心的な存在で、誰かが教室で笑っている時は、大抵は渡が輪の中に居る。そんな感じだ。いわばうちのクラスのムードメーカーである。勉強の方は少しばかしサボりがちで、あまり得意な様子はなかった。
そんな彼だが、意外な事にも読書がとても好きらしく、読むだけにとどまらず自分でも話を書いているのだ。自分で文章を好きなように書くことに関しては優れていた。
僕も何度か彼の作品を読ませてもらったことがある。色々なジャンルのものに挑戦していたようだが、その中にはホラー系や戦闘物もあった。そういった話には人の死がつきものだ。彼の描写はとても細かく、その手のものが苦手な僕は、人が死ぬシーンが描写されているところは飛ばし飛ばしで読んだものだ。
さて、なんとなく察しがついてきただろうか。
死者の声が聞こえる。彼が物語の中で殺してきた空想の人物たちの声が。
そんなものは勿論幻聴であろう。しかし、渡がその幻聴に悩まされているのは事実だ。心の病ではないだろうかと僕は思う。一度カウンセラーか何かに行けばいいのにと思わなくもないが、渡が部屋から出てこないことには何も始まらない。
渡が学校へ来なくなってから早一か月。
僕はもう一度渡の家へ行ってみた。渡には会えなかった。
◇
――痛イ、痛イ。
まただ。俺は枕を頭から被る。
――私ハ何デ殺サレタ? 何モシテイナイノニ。
声が変わった。ああ、彼女はあの時の……。
――苦シイ、苦シイ苦シイ。
――オ前ハ何デ生キテイル?
――僕タチヲ殺シタアンタガ、如何シテ。
如何シテ。
死者たちの声が俺の部屋に鳴り響く。止めてくれ。しかし声は止まない。
知らなかった。知らなかったんだ。彼らに意思があったなんて。彼女らに痛みがあったなんて。全ては俺の空想に過ぎないと思っていた。
「御免なさい御免なさい」
俺は何度も繰り返し唱える。死者たちの声を自分の声で打ち消すために、延々と呟き続ける。
御免なさい御免なさい。
お願いだから、どうか許して。
◆
渡が学校に来なくなってから一か月経ったその日、渡には会えなかった。そうなることはわかっていたから、僕は特に気を落すわけでもなく、あっさりと家に帰った。
次の日。朝学活で連絡があった。
「難波のことなんだが――」
死んだらしい。
死亡したのは昨日の夜から今朝の間だそうだ。つまり、僕が家に行った時にはまだ生きていたのだろう。今朝、渡の部屋のドアが開いていて、小母さんが様子を見に部屋に入った時には既に死んでいたそうだ。自分の部屋で布団を頭から被り、目を固く瞑った状態で発見された。死因はわからないらしい。学校ではそこまで詳しい話は聞けなかったが、小母さんがあとで教えてくれた。
難波渡の最期としてはあまりふさわしくないものだ。何と言うか、らしくない。信じられなかった。最後に見た渡はいたって普通だったのに。
ともかく。
自分が殺した架空の人物たちのせいで、渡はおかしくなってしまった。
僕はそれ以来、小説を読まなくなった。
ちょっとした文章でした。読んで下さった方、ありがとうございます。
一冊の本に出合って、その人の人生が変わったみたいな話って結構有り得ることですよね。いい影響を受ける場合もあれば、悪い影響を受ける場合もあります。是非いい本と出合いたいものです。