寝る前に昔話をしましょう
さぁ、お布団に転がって。
はいはい、お話しするの? いいよ。昔話ね。
んー、そうだなぁ。
昔々ちょっと昔。
え、ちょっとってどれくらいって?
いや、あんた達が生まれるずーっと前だよ。
いやいや、流石に将軍がいるほど昔じゃないから。って、よく将軍なんて知ってたね?
ああ、ひいばぁちゃんが見てたテレビね、刀持った侍がいっぱい出てくるヤツ。
まぁとにかく、ちょっと昔。
あるところにカイちゃんという女の子が、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと住んでいました。
あ、そう正解。
カイちゃんって言うのは、ママの事。
ママは小さい頃、自分の事をカイちゃんって言ってたの。
みんながそう呼んでるように聞こえたからね。
さて、カイちゃんは小学校に入学する春に、お父さんのお仕事の都合で引っ越しをしました。
カイちゃんのお家は、同じようなお家が5軒並んだ左の端でした。
その向こうは一面のレンゲ畑でした。
レンゲ畑にいたおじいちゃんが、入っていいよって言ってくれたので、カイちゃんは、お兄ちゃんとレンゲ畑で遊びました。
最初は鬼ごっこだったんだけど、お兄ちゃんには絶対に追いつかないでしょう? だからカイちゃんはすぐに嫌になってしまいました。
それでレンゲを摘んだり、てんとう虫を捕まえたりして遊びました。
うん、てんとう虫、一杯いたんだよ。ナナホシてんとうが多かったなあ。
てんとう虫って、可愛いよね。くさいけど。
さて、カイちゃんはまだ小さかったから、遊ぶときはいつもお兄ちゃんと一緒でした。
ある日、一面のレンゲ畑が掘り返されて、一面の泥んこ畑になっていました。
レンゲはね、田んぼの肥料にするために植えてあったの。見るためじゃなくてね。
だから、田んぼの用意をするために、レンゲはすっかり土と一緒に掘り返されてなくなってしまいました。
うん、そりゃあガッカリだったよ。レンゲ、きれいだったし。
でも、お兄ちゃんはその泥んこの畑を見て、いいこと考えた!って言いました。
そしてカイちゃんに、ついて来いって言いました。
お兄ちゃんの命令だから、カイちゃんはお兄ちゃんの言うとおりにしました。
そうそう、お兄ちゃんって、そうなんだよねー。
いう事きかないと怒るもんね。
あはは、あー君、くちがへの字になってるよ?
今日、かー君の事、言うこと聞かないって怒ってたよね。
うーんと、どこまで話したっけ?
ああ、それからカイちゃんのお兄ちゃんは、泥んこの畑を走って突っ切り始めました。
そして、あぜ道まで来ると、カイちゃんを呼びました。
カイちゃんも、お兄ちゃんの真似をして泥んこの中を走ろうとしたんだけど。
片足が思いっ切り泥の中に深く入っちゃって。
膝くらいまで埋まって、半分泣きながら足を抜こうとしても抜けなくて。
戻ってきたお兄ちゃんに引っ張られて、やっと抜けたんだけどね。
履いていた靴が、泥に埋まっちゃったの。
カイちゃんは大泣きして片足裸足でお家に帰って、お母さんにうんと叱られながらお風呂に入りました。
次の日、カイちゃんは靴がないのでどこにも行けず、お家の中で遊ぶしかありませんでした。
でも、引っ越してきたばかりで、まだおもちゃとかあまりなくて、カイちゃんは本当に退屈でした。
そうして何日かして、カイちゃんのお家にレンゲ畑のおじいちゃんと知らない男の子がやってきました。
手にはきれいに洗った、カイちゃんの靴を持って。
それから男の子とカイちゃんは仲良しになりました。
めでたしめでたし。
あれ、これじゃダメ?
その後のカイちゃんがどうしたかって?
うん、男の子と一緒に学校に行ったり、またお引越しをしたり。
大きくなって久しぶりに会った男の子と結婚して、3人の男の子を寝かしつけているんじゃないかなぁ?
上から順に、あー君、かー君、さー君っていうんだってさ。
はいはい、お喋りおしまい。
3兄弟のお話は、また今度ね。
冒険? するかも?
おやすみ。また明日ね。
7月末まで募集だった、童話パロ企画に。
いきなりポンと浮かんだので、書いてみました。
※翌日、童話で日間ベストに入ってました……!
び、びっくりした。
題名で惹かれた方には、申し訳ありませんが。
お読み頂きありがとうございます。