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白南風玖凪の日常はかくのごとし・6
商店街にほど近い交差点。
そこに、一人の男が立っていた。
身長は高くもなく低くもないが、猫背が目立つ。服の上から見てもわかるくらい、痩せた体型をしていた。年齢は30歳前後。ただし、くぼんだ目のせいでそれよりも老けているような印象を与える。
男はただ、そこに立っていた。
歩行者用信号が赤から青に変わり、点滅を経てまた赤に変わる。――これを何回繰り返しても男は動こうとしない。
男の様子を不自然に感じた歩行者がいるにはいたが、特に注意することでもないので皆素通りしていく。
もしも、暇な人が興味をもって注意深く彼を観察していたならば、爛々とした彼の目に狂気が宿っていることに気づいたはずだった。
男は立ち続けていた。交差点のある一点を凝視しながら。
その一点とはすなわち。
昨日の夕方、とある少年と少女の間で奇跡が起きた場所だった。
男は楽しそうに、誰の耳にも入らない声で呟く。それは、呟きの内容もあいまって、かくれんぼをしている子どものようだった。
「みつけた」