消えない傷跡・9
明かりの消えた部屋で、青い双眸がゆっくりと開かれた。
双眸の主、白南風玖凪。
彼女はぼんやりと天井を眺めてこの場所が何処なのかを確認しようとしていた。
しっくりと馴染むベッドの硬さ、部屋全体から漂う落ち着く匂い。
暗がりの中でもここが自分の部屋だということはすぐにわかった。
それと同時に、
「い、痛……っ」
全身を経験したことのない痛みが襲う。
体の至るところがズキズキとうずいて起き上がることにすら難儀した。
一体、何があった――否、何に遭ったのだったか。
これまでの経緯を思い返そうとして、特に痛む左腕に目を向けて。
ここで。
玖凪はようやく自分が左手に見覚えのない小さな硬いものを握りしめていることに気づいた。
「これ……」
それがペンダントだと認識した瞬間、
「…………――!?」
体の芯に電流のようなものが走った。
既存の言葉で表すことのできない感覚の海に投げ出される。
何故だろう、玖凪には分かってしまった。
このペンダントは、繋がっている。ずっと身につけていた持ち主に。
そして、持ち主がこれを置いて遠くに行こうとしていることまでも。
行ってしまう。
ここではない、何処かへ。
「寒凪さん……?」
玖凪はベッド脇の窓から外を見る。
小雨と言えど、雨は降り続いていた。




