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刻まれるは生きた証 ⑧足掻いた末

 ムオンは傷だらけの体で逃避行を続けていた。


 城内の魔物達との連戦で激しい運動を繰り返すため、傷へ施した応急処置はほとんど意味を成していない。血を流し続け、いつ倒れこんでもおかしくない状況だった。


「その怪我では得意の隠行も満足にいかないか」


 襲い来る魔物達はそのどれもが手強い。ならばムオンの本領、即ち隠密行動を軸として撤退すべきだが、それも書の漏らした言葉通りかなわない。穏身術かくれみのじゅつを使おうにも疲弊した影響でどうしても制御しきれず、意味を成さないのだ。


 魔物とかち合い、戦闘に入った場合が一番思うようにいかなかった。片腕は魔術書が以前の如く補っているものの、もう片方の腕を失ったがためにバランス感覚は最悪で、常態ならば一瞬でケリがつくであろう相手でも対応が長引く。逃げるにしても数が多すぎて全ては捌ききれない。加えて、休む暇もないために体力も失われる一方だった。


 しかし、それでも。

 それであってもムオンは爛々と輝く意思の強さを持って城内を突き進む。ぼろぼろになりながらも突き進む。血を流し、吹き飛ばされ、それでもひるむことなく前へと進んでいく。


 その身を突き動かすのは執念に他ならなかった。

 ただ、己が望みを叶えるために。


 その妄執は確かな原動力となって、ムオンを望む場所へと導いていく。魔王をもって不可能と言わしめた逃走達成を現実のものへと変えていく。


 既に目前には城外へと続く正門がある。立ちはだかった最後の魔物も蹴り殺し、重厚な扉を押し開くと、ようやくムオンは外の光を浴びることができた。


「外は変わらず静寂を保つ、か。これならば再起を図ることも───?」


 書の漏らした安堵の声は唐突に打ち切られた。

 意外なものを目にしたためだった。木々の隙間からよたよたと近づいてくるそれは、喉を鳴らし、怒り心頭と言った様子で、喚き散らしている。


「畜生ッ!あのガキ、マジでとんでもねえ……ッ!傷が自動回復しやがらねえ!一体どういうカラクリだッ!!下手すりゃルヴォルク様でも……!!」


 それは魔物達の将が一人、青き魔、ストウナだった。青い鱗肌は傷と血にまみれ、背中にあったはずの左翼は左腕と一緒に消し飛んでしまっている。毒づいている内容からして、英雄たちに叩きのめされ、ほうほうの体で逃げ帰ってきたのだろう。


 そして、根城に着くなり偶然にもムオンとかち合ってしまった。疲弊した状態で敵と相見えるとは双方共に運が無かったと言える。


 が、青き魔は理性的な判断などもはや必要としていなかった。

 ギラギラと怒りに燃える爬虫類じみた瞳孔がムオンを捉えると、敵意が激情となって迸る。


「てめえ、ここにいやがったのか……ッ!」


「……満身創痍のようだな。今なら見逃してやっても良い」


「ほざけッ!てめえもそうだろうがッ!ジュエのかたきだ、もっと苦しめて殺してやる……ッ!!」


 一対一。双方手負い。ならば必然的に身体能力に勝る魔物が優位に立つのは明らかだ。そう判断すると、勢いのままに青き魔は乱雑な術式を構築する。


「風は踊り手、大気は舞台、優雅な華は無骨なまろうど降して咲き誇る。刻め、踊れ、地に伏せよ───ズタボロになりやがれェ!!風の烈閃ッ!《風斬刃イグシェスア》ッッ!!」


 断裂する空気が見えない刃となって荒れ狂った。本来ならば目標のみを切り刻む魔術であったが、乱雑な術式のせいか、ムオンの周囲も含めてバラバラと無軌道に引き裂いていく。


 そのような魔術でムオンが倒れるはずなど無い。一つ、二つ、三つ、と真空の斬撃を最小限の動きで難なくかわすたび、背後の城門に大きな斬撃の痕が刻まれていく。いくら傷つき、疲れ果てているとはいえ、神速を身上とする彼の前ではやり方が余りに粗すぎた。


「いけるか?」


 書の問いかけに、ムオンは行動を起こして応える。地を蹴って飛び跳ねると、血の飛沫を散らしながらストウナへ接近し、体を捻らせ、回転をまじえつつ頭上から振り下ろすような蹴りを放った。


 しかし、その一撃は青き魔が後退すると簡単に空を切ってしまった。ムオンの速度が低下しているということもあるが、青き魔自身の身のこなしもかなりのものだった。深手を負いつつも赤き魔より速度は上である。


「ハッ、どこ狙ってやが───ッ!?」


 鼻で笑った青き魔の声は飛び散る青い血液で唐突に遮断された。

 青き魔の体躯が肩口から袈裟に大きく裂かれたのだ。胸の半ばまで切り込まれたため、胴と下半身はほとんど千切れかけている。


 ───風刃ふうじん鎌鼬かまいたち


 ムオンが放ったそれは、先程青き魔が放った魔術に酷似した、鋼鉄すらも寸断する風圧。蹴撃が当たらずともその先の物体を容赦なく切り裂く。


 痛みに呻いた青き魔が膝を折ると、その機に乗じて追撃の一蹴を放つ。狙いは首。風の刃で切り落とし、止めを刺す腹積もりだった。


 が、その一撃は後方に大きく飛びのいた青き魔には当たらなかった。致命傷を負ったとは思えないほどの俊敏な動きだった。


 見れば、青い鱗肌はじゅうじゅうと緑がかった煙を上げ、千切れかかっていた切断面が瞬く間に接合されていく。


「へへ、そうさ、そうじゃなけりゃなァ!おかしいのはアイツだ、アイツだけがおかしいんだよッ!俺への攻撃なんざ意味がねェんだッッ!!」


 自動回復オートリカバリ。青き魔はどれだけ深い傷を負おうともその命ある限り、瞬時回復を繰り返す異形であった。


「けどなァ、いてぇのに変わりはねェんだ……この礼は高くつくぜェーッ!《石弾ダグド》ォォオオオッッ!!」


 息つく間もなく、詠唱破棄で繰り出された石弾の魔術が雨のように降り注ぐ。青き魔も既にムオンの神速は理解している。それがために、回避しづらい高速で飛来する弾丸を空間に敷き詰めたのだ。


「テメェが穴だらけになって死ぬまで撃ち続けてやらァーーーッ!」


 ムオンの命が削れていく。回避は続けているものの、青き魔のとった戦術はムオンの特性を完全に殺していた。こめかみを掠り、頬を削り、体を突きぬけ、足を抉り、それでも決して魔導書たる己の右腕には当たらぬよう、動き続ける。


「下がれ!城内に入って一旦体勢を……!」


 それは下策だ。城内は敵地。一度は切り抜けたものの、入れば再び魔物の群れが襲いかかってくるだろう。行き着く先は袋小路だ。


 ゆえに、ムオンは前を突き破ることを選択した。


 ───写身術うつしみのじゅつ


 活力を失いつつある根源を奮い立たせ、ムオンは青き魔へ向かって走り出した。その姿がぶれ、二重に見えたかと思うと、やがて霞んだ残像はもう一人のムオンとなり、併走を始める。


「幻影かッ!意味はねェ、意味がねェ!本物だろうが偽者だろうが全部、全部ッ!何もかもぶっ殺してやるッッ!!」


 青き魔の咆哮に耳を貸すつもりはない。術を止めるつもりもない。そも、これは幻影ではない。


 分かたれた偽者に過ぎない写身うつしみが鋭い蹴りを放つと、本体の額目掛けて飛来していた石弾を砕いた。しかし、その写身もまた別の石弾の直撃を何発も喰らい、霞となって消えてしまう。


「ああッ!?幻じゃねェのかよッ!?」


 青き魔の驚きを置き去りにして、ムオンは再び写身を構築する。一体で留まらず、二体、三体、四体────次々と生まれるそれは本体へと飛来する弾丸を砕きながらも消えていき、道を開いていく。


 無謀にも近いやり方だった。量に対して量で対抗する。それ自体は間違いではないが、消耗しきった今の状態で行うことは自暴自棄に近い。


 それでも。


 それでもムオンはそれを決行した。理由は一つだ。

 速さ。ひたすらに速さを追い求めた。


 流れ出ていく命は止められない。ならば一刻も早くこの場を去る。そのためには手負いの獣を一撃で仕留める必要がある。そしてその一撃は塵も残さず消滅させるような、必殺のものでなくてはならない。


 ───壊刃かいじん神威炎かむいのほのお


 駆ける足が灼熱の白炎に包まれる。それは骨の髄どころか魂の深奥まで焼き尽くす魂絶の炎。火の粉が舞い散り、急激に上がった温度が周囲に陽炎を立ち昇らせる。


「くっそがァアアアッ!死ねッ!死ねぇぇぇえええええーーーッ!!」


 青き魔はその炎が危険なものだと直感し、石弾の魔術をさらに高速で編み上げ放ち続けた。だがムオンは止まらない。写身で破砕できなかった弾丸をいくつも体に埋め込まれたが、それすらも意に介さず、止まろうとしない。


 鬼気迫る勢いで青き魔に肉薄したとき、残る写身うつしみは二体となっていた。そのどれもが白色の炎を灯らせ、青き魔へと蹴りを放つ。一つは頭へ、一つは腹へ。白い軌跡が青を塗りつぶそうと迫った。


 しかし届かない。青き魔の高速魔術が唸る風を起こし、写身うつしみをいとも簡単に切り裂いたのだ。それを待っていたかのように、消えゆく写身の背後で凄まじい気勢が立ち昇る。白炎が燃え盛る。同じ致死性の一撃を二発囮とし、満を持して放たれた最後の一撃。決死の一撃。


 ───灰燼と化せ。


 白い蹴撃はもはや極限まで研ぎ澄まされた剣閃のようであった。見事フェイクに踊らされた青き魔はこれ以上の回避も防御不可能で、耐える他に取りうる術はない。

 青い鱗に守られた胸へ、深々と白炎が突き刺さった。

 同時、純白の炎が激しく猛る。既に修復を始めている青き魔の胸を、治癒されるそばから強引に焼き尽くし、瞬く間に全身へ、白々と燃え広がった。


「まだ、だァ……ッッ!!」


 体中を白炎に包まれながら、青き魔もまた諦めない。うなだれていた右腕を振り上げ鋭い爪で切り刻みにかかった。胸に埋め込まれた足を筋肉で締め付け、逃がすものかと力を込めて。


 果たして、ムオンにそれを避けることはできなかった。足が抜けないために回避動作は取れない。ゆえに、自由に動くもう一本の足で蹴り上げる。


 風を切る音が鳴り、青き魔の腕が肩口から切り飛ばされた。空中に吹き飛んだ腕は、白い炎で消し炭へと変わっていく。


 その結果を生んだのは速度の差ではなく、修練の差であった。大振りの青き魔に対し、必要最低限、最速の軌道で振り切ったムオンが一瞬を制するのも当然の事である。


「がァ……ッッ!」


 両腕を無くし、胸を突き破られ、燃え尽きようとしている青き魔だったが、それでも殺意は尽きず、燃え盛る。意思は力となって焼けた体を駆け巡る。


 その力の名は───魔力。

 そもそも、腕を振るったのはその集中のための時間稼ぎでしかなかったのだ。本命は口元に集まっている赤き閃光。それは、かつて赤き魔が放とうとしてムオンに阻止された大魔術だった。


 ───炎の大魔術、《命絶光炎ファグリュブラーガ》。


 それはもはや炎と呼ぶべきではない、閃光だった。極大の炎熱が凝縮され、細まって、矢のように放たれた。


 しかし、それも一瞬の事。閃光がムオンの背後の城門を貫いて焼き尽くし、内部で爆音を伴って炸裂する頃にはその根元───青い鱗は全て黒ずんだ炭となっていた。


 本来ならば、さらに炎が踊り狂い、あたり一面を焼き尽くすはずの一撃は、大魔術としての本領を発揮することなく消え去った。


 白炎の残り火が消え行くのを見て、一人残った男は大きく息をついた。それに合わせる様に黒ずんだ物体が崩れて倒れると、炭化した鱗が風に吹かれてざらざらと流されていく。


「どうにか殺せたが……ムオン?」


 立ち尽くす男の腹には丸太で穿たれたような大穴が開いていた。






 ◆






 ヴァルシュナ戦役終結───


 勝利を収めたミッドガーズ軍は意気揚々と自国に凱旋していたが、その中に肝心の英雄達の姿は無い。


 彼らは仕留め切れなかった青き魔、ストウナに計り知れない危険を感じ、軍を離れて追撃をかけていたのだ。魔王と結託されて挑まれれば、さすがの英雄達も危うい。


 だが、ストウナの逃走速度は思いの外速く、配下の魔物達による遅滞戦も相まって、追いかけるうちに魔王の居城近くにまでたどり着いてしまっていた。


「あそこに魔王が……」


「逸るなよレクス。今の私達の目的はストウナだ」


「分かっています。たった四人で挑むことが無謀だと言うことは、十分に……」


「そうだ。気持ちは分からんでもないが冷静になれ。現状でも近づきすぎているくらいなんだ」


 とんがり帽子を被った青年、グランスに窘められてしまったが、少年とて理性的な部分では理解している。ただ、それ以上に感情の波が揺れ動いてしまう。


「もう少し、近づいてみましょう」


「レクス」


 グランスの厳しい視線に射抜かれたが、レクスは物怖じすることなく、淡々と、勤めて冷静な自分を保ったまま魔王城を見やっていた。


「違いますよ。城の……たぶん、入り口辺りだと思うんですけど、何か様子がおかしい……アイヴェ、何か感じないか?」


「んー?確かになんか妙だねえ?魔力がざわついているってゆーか……ね、ミーティはどう?」


「私は……いえ、何かざわつく感覚はしていますけれど……」


 四人の中で最も魔術を得意とする桃色髪の少女、アイヴェが異変の走りを認めると、金髪の少女ミーティが自信なさげにもやはり肯定する。


 グランスはとんがり帽子に手を当てて、やれやれと頭を振った。


「それは私も感じているがな、あそこは魔王城だぞ?いくらでも理由は───」


 その言葉は、突如として巻き起こった莫大な魔力の迸りに遮られた。離れた位置ですら感じ取れる程に強大な魔力高まり。四人は示し合わせることもなく、一斉に魔王城へと顔を向ける。


「アイヴェ!これはストウナだよな!?」


「うん、間違いないよ!でもあいつがこれだけの魔力を放出してるって事は───」


「誰かと交戦しているのかもしれません」


「魔王城でか?バカな、一体誰が……」


「グランスさん、確認に行きましょう!もし人間だったら助けないと!」


「仕方ないか。ただし、場合によっては逃げるぞ、いいな!」


「はい!」


 議論もそこそこに、四人は魔王の居城へと向かって走り出す。特にレクスの勢いは凄まじい。まるで何かにとり憑かれたかのような必死の表情で突き進んでいく。


 がさがさと草の根を掻き分ける音のみが嫌に響く。

 周囲は余りにも静か過ぎた。虫ですら何かに怯えて声を潜めているようだった。


 違和感が付きまとう中、木々の隙間を走りぬけ、辿りついた先で英雄達を待っていた光景は───


「あれは……ムオンさん!?」


 血まみれで立ち往生している一人の男だった。その足元には焼け焦げた塊が乾燥した泥のように固まっている。


「ミーティ、回復をッ!」


「いや、無駄だろう。あの傷ではもう……」


 やや遅れて到着したグランスは息を整えながらムオンへと近づいていき、その首筋に手を当てた。やはり脈はない。目を閉じたまま首を横に振る。


「そんな……どうして、こんな……」


「なんとなく、この人はそーなる気はしてたけどね……」


 口元に手を当て、ミーティはわなわなと震えているが、アイヴェは一つ溜息をついて瞑目するだけだった。


「頼みがある」


 沈黙が支配する中で響いたそれは、確かに英雄達がかつて聞いたムオンの声だった。予想外の声に固まる英雄たちだったが、声はその様子に気を払うこともなく続ける。


「……聞いてくれるか?」


「ムオンさん、生きて……!」


「そうではない」


 突如、凄まじい魔力奔流が吹き荒れ、男の体で唯一無傷だった右腕が光を放って浮かび上がった。


「とっ、とんでもない魔力だよ!皆気をつけて!!」


 アイヴェの警鐘に即座に反応した四人がそれぞれ剣を構え、術式を構築する中、光はゆっくりと本へと形を変えていく。


 それは、究極の───願いを叶える術式を宿した魔導書。

 ムオンと共に歩み、魔王へと嘆願し、それでも願い叶わなかった生き様全てを見届けた人でなしの相棒。男が諦めなかったがゆえに、その存在を守り通された、それ単体では何の力も持たぬ、唯の書物。


「もともとこの男は声を持っていなかったのだ。今まで彼奴きゃつの声だと思っていただろうが、すべて我が代弁していたに過ぎぬ」


「それじゃあムオンさんは……!」


「死んだ」


 有無を言わさぬ断言に、英雄達は絶句する。その中で唯一平静を保ち続けていたのは、人外の精霊を相手取り、あまつさえ使役する術師、グランス・F・マイスターのみであった。


「……彼の遺体は丁重に葬る。それ以外に何か頼みがあるのか、得体の知れない魔導書よ。私には貴様が唆した結果にも思えるのだがな」


「グランス・F・マイスターよ、それは事実と異なる。汝らが信じるかは分からぬが、我の───ムオンという男の願いはそれを証明するだろう」


「ムオン君の願い?」


「そうだ。頼みというのはそれだ。ムオンの、彼奴の願いを叶えて欲しい。魔王と交渉が決裂した今、汝等をおいて他に頼れる者はいないだろう」


 願いを叶えたい。自身が成せぬのならば、誰かに託したい。それが、命が燃え尽きる時まで足掻き続けた男の最後の想い。


 意思は消えても遺志は残る。

 人ならざる魔導書もまた、それを自らの願いとしていた。






 ◆






 ひとつの墓の前で女性がたたずむ。


「なあ、無音ムオン


 女性はその美しい風貌に似合わない言葉遣いで語りかける。

 瞳は悲しげな光をたたえていた。


「我は汝の本当の名すら知らぬ。無論、汝が求めていた人間の姿もだ。だというのに、見よ」


 女性は両手を広げ、天を仰ぐ。今の自分を空に誇示する様に。


「この姿は汝が望んだその人か?我には確認するすべもない」


 問いに対する答えは無い。墓前で何を語ろうと、返事をするものはない。

 ただ、無機質な墓石がそこにあるだけだ。

 それでも、それは証なのだろう。

 誰かが死に物狂いで生き続けた証。

 それはこうして形となった。


「せめてもの手向けだ。我はこの姿で生きていこう」


 それは彼の願いゆえ。

 それは彼女の想いゆえ。


「さらばだ。我が主よ」


 墓前を立ち去るその姿は、確かに生きた証だった。





 ── 了 ──

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