日常2
「いらっしゃいませ」
翡翠がテーブルを拭きながら店に入ってきた客に一番に声をかける。そのあとバラバラと他の少年らも口々に客へと挨拶をした。一番接客業がうまいのは翡翠だ。愛想よく客を向かい入れている。涼介と和の二人は明日の仕事の計画を立てていて今は店の奥にいて夏日は先ほど特別なスパイという仕事へと向かった。帰って来るのは明日の昼ごろだろう。だから客の相手をするのは翡翠と真王と柊。それから竜と翔希だ。
「翡翠ちゃんは今日も元気だなー可愛いぞ」
「まーね、元気元気ー!ありがと」
常連客の冗談にもさらりと受け答える翡翠は手慣れたものだ。真王と柊もなかなか上手に客の接客ができるのだか竜と翔希は比べものにならない。
「竜ちゃん一緒に飲むかー!おいでおいで」
「うっせーおっさん!まだ飲んでないくせに酔っ払ってんのかよ!ほら!もっと高い酒飲め!」
との切り返し。相手を客としてみていないような暴言だがそれもある意味で客を喜ばせているのでマスターは黙認していた。
「竜をからかわないでよ、おっさん撃つよ?」
翔希がいうと冗談に聞こえない…いや冗談ではないのか恐ろしいことを笑顔で言い放つ。だが客はまた豪快に笑う。子供の言うことだとおもっているのかそれとも元気な自殺志願者なのか。前者だろう客にマスターはちらりと哀れみの目を向けた。
「マスターおすすめの酒を」
カウンターに座っていた一人の客がマスターに声をかけてきた。黒いコートに身を包んだ男は髪が長く頬はこけていて目は力なくやや不気味だ。
「どうぞ」
マスターが酒をグラスに注ぎ男の前に音も立てずに差し出した。
「あぁ、マスター。ちょっといいかい?」
「なんでしょう」
酒に口をつけた男はマスターに再び声をかける。それに対しマスターは冷静に答え次の言葉が帰ってくるのを待つ。
「あの子を紹介してくれ」
「あの子とは?」
「あそこで客と話している子だ」
男は竜の方を顎で示した。
「竜を?なぜですか?」
「ビデオに出したいんだ。あの子を出したら大金が手に入ること間違いなしだからな。それがダメならあの子でもいい」
男の絡みつくような視線が竜から今度は翡翠の方へとうつる。
「申し訳ありませんが、彼らは大事な私の子供たちなのでお客様にお渡しすることはできません」
マスターは困ったように笑いながら言う。
「そして、ここでそのような発言は控えたほうがよろしいかと…獣に噛まれてしまいますよ」
確かに竜は見目だけは驚くほどよくこの手の話は今までにたくさんあった。だが必ずこのような話を持ち込む連中はなぜか変死をとげるのだ。ゾッとるすような視線を感じ男は振り返る。そこには他の客と対話をする翔希の姿があった。