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走馬灯[プロローグ]
出会った場所は花が咲き乱れる庭。
花の香りと畳の匂いとそして、彼女の優しい薫り。
いつも眠る場所は陽の差し込む縁側。
そこは、俺にとって暖かくて、優しくて、恋しくて、愛しくて、ずっと忘れられない場所。
偶然訪れた場所は、俺にとって生涯忘れられない場所になった。
長い時間をかけて手に入れた彼女は、最期まで笑顔だった。
その先、何十年経ってもその記憶も彼女も忘れることなく、俺の中に在る。
俺の人生の中で唯一の、そして最も長い非現実。
彼女も、また、こうして気が遠くなるような時間を愛しい人の言葉だけを頼りに生きてきたのだろうか。
移ろう時間の中で出会えた奇跡はどこまでも愛しくて苦しい。
叶うのならば、もうすぐ尽きるこの命が尽きたその時は、彼女の隣にいけるといい。
これは馬鹿な人間が妖怪に恋をした世界の隅っこの小さな噺。