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Song For You

作者: あめり
掲載日:2013/09/23

こころはズタズタだった。自分は人づきあいが上手くないし、口下手で楽しい人間とはなかなか思われない。原因はわかっている。顔もそんなに可愛くないし、周りと比べるとどうしても自分自身何かとコンプレックスを感じてしまう。そのため、全く自信が持てなかったのだ。いつも、人の顔色を窺っては、嫌われないように生きてきた。自分を偽ることで自分を必死に守っていた。これ以上嫌われないように。


 誰もわたしに関心を抱いてくれないし、それこそ自分の存在価値が見出せない。仲間外れにされてそれを痛感する。本当に自分が存在する意味があるのかと考えてしまう。人は言う。人間誰しも、生まれてきた以上、そこに意味があるって。決して無駄な人間はいないと言う。でも・・・・・・、それは綺麗事じゃない? だって、私がここにいてもいなくても、そんなに変わらないじゃないか。考えれば、考えるほど、途方に暮れた。今日も学校の帰り道。一人とぼとぼと歩いた。


 電車の中で、友達同士が仲良く喋る会話がとても胸に刺さる。私もこんな風に楽しくなりたいと思っても、それは儚い願いに過ぎなくて・・・・・・。


 駅を出ると、人がたくさん行きかう広場に出た。空は私の心のようにどんよりと曇っていて、光は射さない。決して晴れることのないような空だった。そんな空も、夕暮れのオレンジ色が混ざり、ほのかに赤く染まる部分も見せた。そんな空の真下を、俯きながら歩いていると、ギターの音色が聞こえた。


 私は音色の方に耳を傾け、どこから発信されているか探った。すると、その発信源は広場の片隅にあり、一人静かにギターを奏でていた。私は遠目にそのギターの演奏を聴いていたのだが、不思議と引き寄せられるように、彼のもとに近づいて行った。


 数メートルの距離にまでなり、眼前でギターの音色を感じる。とても静かな音色でいつ消えてもおかしくないものだった。そんな彼の周りに人だかりはなく、人は無情にも彼の元を去っていく。しかし、私は気になって、ずっとその音色に耳を傾けていた。目を閉じて、聞いていたのだが、その音色はふと途切れた。


 目を開けと、彼は私の方を見てニカッと白い歯を見せた。私は人が苦手で、逃げようとしたのだが彼は私を止めた。何と発したのかわからないのだけど、 待ってに近いものであった。


 「演奏どうだった?」


 彼は感想を聞きたいのだろうか? 私は話しかけられても、それでも黙って俯いたままだった。


 「人見知り? まぁ、いいや。良かったらこれ来てみてよ」


 彼は特に気にするそぶりも見せずに、ジーパンのポケットから何かを取りだして、私に手渡した。咄嗟に身構えてしまう自分が情けない。包み込むように渡されたものは、どうやらライブのチケットのようだった。それをじっと見ていると、彼は口を開いた。


 「ここでオレの演奏聴いてくれたのも何かの縁。そして、こうやって話せているのも縁。君がこれに来なかったら、オレは今日限りで君に会えないかもしれない。でも、君はこれに来ればまた会えるね。少し勇気出してみたら?」


 そうにこやかに言うと、彼は荷物を持って行ってしまった。そんな彼の後ろ姿を見つめながら、自分に腹が立っていた。何も話せなかった・・・・・・。わかっているのに出来ないのは勇気がないだけじゃないか。自分に少しの勇気があれば、感想も言えたのではないか。そう思うと、悔やむ。しかし、私にはまだチャンスがある。彼に貰ったチケットを見ながら、私は行くか行かまいか悩んで、その場にずっと佇んでいた。


 当日、私は悩んだ挙句、彼のライブ会場に足を運んでいた。それはとても小さなホールで彼の知名度の低さがホールを見てわかってしまうほどであった。しかし、それでも、私の他に人はいた。チケットを渡して、席に付くと予想以上に多くの人がいて、少し動揺した。彼のためにこんなに人がくるなんて。


 私もその一人だった。ここにいるのも彼の曲を聴きに来た一人のファンに過ぎない。だから、気軽に来ることができた。どうせ、私のことなど覚えているはずもない。演奏が終わればすぐに帰ろう。こんなに人気なのだから、それこそ私に話しかけれるのも迷惑に違いないのだから。


 会場が暗くなったかと思うと、ホールの中に歓声がこだます。どうやら、彼が舞台に登場したみたいだった。すると、歓声に後押しされるように一曲目を堂々と歌い始めた。その声と演奏を聴いていると。あの日を思い出す。話せなかった自分。少しの勇気を出してここにいる自分・・・・・・。彼なら何か変えてくれるかもしれない。


 次々と演奏をこなしていき、途中でMCなども入る。会場は熱気と歓声に包まれていた。私はその雰囲気に圧倒されながら、演奏を一人楽しんでいた。MCでは本当にたわいのないことを話していた。それは心境報告であったり、つまらない話だったり。でも、そのような話にみんな目を輝かせて、彼の話に夢中であった。たわいのない話なのにみんな笑顔だった。それがとてもとても、不思議だった。


 そして、演奏も終盤に差し掛かり、静かになったところでまた彼が語りだした。


 「人間好かれようなんて思って生きていたらいけないんだよな。オレもここに来るまでにたくさんの人に会った。それこそ、何かの縁だったと思う。でも。オレを受け入れない人ももちろんいた。それは仕方ないことなんだな。その時、その時で自分をその人に合わせていると、きっと自分を見失う。それではいけないんだよ」


 そこで一度言葉を切ってまた話し始めた。


 「何があっても、変わらない自分。これが一番大事だと思う。それを常に感じておくこと。オレはそうやって生きて来たら、ここにいる人達に巡り合ったんだよな。それは紛れもない事実で、ここにいることが何かの縁だと思いたい。そして、少しでもオレに興味を持ってくれる、それがとても嬉しいんだ。人間好きな人物の前では、笑顔になるもんだよ。それには、まずは自分を好きになろう。そして、素直に生きること。何があっても悪いのは自分だけじゃないことを覚えておくことだよ」


 その後、最後の曲を歌ってライブは終了した。演奏が終わっても、動けずにただ考えていた。自分を好きにならなきゃ、相手も心の底から、好きにはなってくれないし、私も好きになれない。私は何かと理由を付けて逃げてきただけなんだな。そう思うと、わけもわからず涙が頬を伝った。なんでだろう。もっと、自分が自分に興味を持たなきゃ、何も始まらないのに・・・・・・・。


 ライブの後、サイン会が開催された。私は勇気を出して、列に並んでいた。覚えているはずもない。その時は、その時で、ただのファンであると開き直ろう。でも、どうしても感想を告げずにここを去ることはできなかった。


 彼が徐々に近づいてくる。鼓動は大きく脈打っていた。息が上がり、緊張で胸が締め付けられる。でも、ここで逃せば私は一生変われない気がした。彼なら私を変えてくれると思ったから、来たんだから逃げるわけにはいかない。


 私の前の人がサインを受け取り、私の番になった。彼は椅子に座っているのだが、ふと顔を上げて私の顔を確認する。そして、目が大きく見開いたのを私は見た。覚えてくれていたんだ! 


 「本当に来たんだね。ありがとう」


 言葉少なめにそう言うと、彼はサッサとサインを書き始めた。私は緊張のあまり倒れそうだった。どうしても、伝えなきゃ! でも言葉が上手く出てこない。口からその言葉を出すだけなのに、とても苦労した。彼はもうサインを書き終わり、ふと顔を上げてこちらを見てニコリと微笑んだ。


 「はい、完成。また、来てくださいね」


 彼の言葉が独り言のように宙を彷徨う。何も話さないのにその場で動かない私に周りがそわそわし始めた。しかし、彼は何も言わずに、私の顔を見つめていた。待っているのだろう、彼は待っているのだ。こんな時にまで、私という一人の存在に時間をかけてくれている。それが嬉しくて、また涙がこぼれた。そして、十分と時間が経ち、落ち着いたところで勇気を振り絞った。


 「と・・・・・・とても良かったです。ありがとうございました・・・・・・・」


 口下手な自分に腹が立つ。感想でさえも上手く伝えられずに、嫌気がさした。私は彼の言葉を待たずして帰ろうとしたときに、彼は話し始めた。


 「ストレートな言葉が一番胸に届くよ。それが良かったでも、すごいでも何でも嬉しいよ。飾られた言葉よりも、とても綺麗で胸にしみる。君の感想に偽りなんてみじんも感じないんだよね。そして、オレのために勇気を出してくれたこと、それで君は十分成長したよ。人のために君がこの言葉を伝えてくれたこと、それが後に必ず活きてくる。だから、君にもっともっと勇気を与えられるようなものを届けたい。今日はありがとう。また会おう」


 そう言うと、彼は私に握手を求めた。その手を恐る恐る握りしめる。涙はとめどなく流れていて、彼の顔を見ることができなかった。でも、一気に成長する必要はないんだ。次はちゃんと顔を見て、感想を伝えれるようになろう。そうやって、段階を踏んで行こう。まだまだ、私のために時間を割いてくれる人がいる、それだけで捨てた世の中じゃない。


 帰る途中、手がひりひり痛いと感じて右手を見ると、とても赤くなっていた。彼の力が込めれたこの右手を見ると、また涙が出てしまった。

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