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夫婦の日常

夫婦の日常 #9 〜 ナナフシ 〜

作者: 葵
掲載日:2026/08/17

「ねぇ、陽ちゃん。

あれ……何?」


自宅の機械駐車場から車を出した夫に、急いで声をかけた。


「え、何が?」


「それ、木の枝がコンクリートの壁に引っかかってる?」


「えぇ?木の枝引っかかるタイプの壁じゃないよ。」


夫が近づいて行こうと、少し歩き出した時、


「おぉっ、びっくりしたぁ。」

「わぁーっ。」


枝の先が、動いた!


「これ、虫なんだ。」

「何虫?」


——その日、自宅に帰った後、やっぱり気になって調べてみた。


” 木の枝 虫 ”と、検索してみたら……出てきた。


『 ナナフシ 』という名前の虫だったらしい。


昼間は、木の枝に擬態して隠れるんだ。


なかなか見つからない……。


” 幸運の象徴 ”


すごい!

やったぁ〜!


「陽介、私たち幸運かもしれない。」


「何が?」


「今日見つけた虫ね、幸運の象徴だったんだって。

なんかもう……幸運じゃない?」


「それ、急すぎない?

幸運の象徴を見た段階だよね。


じゃあ、恵の幸運て何?」


「んん……陽介は今週、美容室予約してたよね?」


「してるね。」


「その帰りに、私に秘密でこっそりケーキ買ってきてくれるとか?」


「……あとは?」


「例えばさぁ、よくこの辺てウグイスの声が聞こえるけど、見たことないよね。


土曜日の朝に、ウグイスの声がやけに近いなぁって、カーテン開けて外を見たら、

実はベランダの手すりにウグイスがとまってた。


とか、もう……幸運の前触れみたいじゃない?」


「……いや、まぁケーキが食べたいのはわかった。


2つ目は、また前触れね。」


そんな会話をした1ヶ月後のこと。


——


「陽介、今日ちょっと買い物行ってくる。」


「今日は、午前中少し仕事するから待ってるよ。」


「わかった。じゃあ行ってくるね。」


「はいよ。」


私は、一人で買い物を満喫しようと自宅を出た。


機械駐車場から車を出して、駐車場の装置を戻したあと、

運転席に向かおうと体の向きを変えた時だった。


ああーっ!!


そこには、ナナフシがいる!


えっ?

擬態できてないし。


だって……うちの車白いじゃん。


驚いたので、夫に電話してみたけれど……出ない。


少しの間見つめてみたけれど、動く気配は……ない。


んん……仕方ない。


一緒に行きますか。


私は運転席に乗り込んで、公園の横の道をゆっくり通って、

買い物に向かった。


そして、自宅に戻ったあと、さっそく夫に報告した。


「ねぇ、聞いて。

私ね、また見たよ。」


「何を?」


「ナナフシ。」


「へぇ。結構いるんだね。」


「違うよ。

もうこれはさ、1回見たことで幸運になって、もう一回来ちゃったんだよ。」


「……最初見た時と変わってないなぁ。

幸運の気配しか漂ってない。」


「だからぁ、もう幸運の象徴を見るのが幸運で……」


「待った。

恵幸福論に入る前に、どこで見たの?」


「それがね、今日車出した後に、運転席に行こうとしたら、

助手席のドアに張り付いてた。


ホントにドアノブのすぐ上の辺り。

なんかぁ、乗り込もうとしてるみたいに。」


「……ちょっとそれ、コワくない?」


「え?なんかさ、


” 僕も一緒に行くよ ”


って言ってるみたいで、ロマンチックじゃない?


幸運の象徴がついて行こうとしてるんだよ?」


「それで、恵はどうしたの?」


「どうって……どうもしないよ。

車に乗って、出発したよ。」


「え?

それは、ナナフシ貼り付けたまま?」


「うん。

だって、どうしようもないよ。


陽介は電話に出なかったし、

虫だから触れないし。」


「……それナナフシ振り落とされてるよね。

ナナフシから見たら、恵コワいよ。」


「それはないと思う……。

振り落とされてはないよ。


羽もないから飛ばされそうな要素ないんだよ。

信号待ちで降りてった感じ。


そもそも、幸運の象徴なんだし。」


「幸運の象徴、万能だな。

そんなタクシー代わりみたいな使い方しないでしょ。」


「そっか、タクシー代わりね。」


そういうことだったんだ。


「あ……高速は使った?」


「うん。」


「……。」


私が返事をすると、夫が黙ってパソコンに向かった。


「ナナフシ調べてるの?」


「……。

ナナフシは羽があるのもいるみたいだよ。

種類も結構いる。


見つかるのはほとんどメスみたいだから、

” 僕も一緒に行くよ ”とは言わないかもね。」


「……種類がいるのは、私も見たけど。

木の枝にしか見えないナナフシだったよ。


なんか、結構長い木の枝だったけど。」


「触覚はどうだった?」


「触覚……。」


「そうだ、写真は?撮らなかったの?」


「んん……陽介が電話に出なかった時、ちょっとは考えたけど、


びっくりさせちゃうかと思って。」


「……びっくりはしたと思うよ。」


そんな会話が深夜まで続いた。


これも、ナナフシが運んできてくれた……時間?


次に運んできてくれる幸運は、どんな幸運だろう。


——


「陽介、もう眠いよ。」


「恵、おいで。

今から、駐車場に行こう。」


「え……。

もう夜中だよ。」


「大丈夫だよ。

ナナフシは夜行性みたいだから。」


「……。」





最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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