ゲートの向こうの青い空
西暦2067年、冬。日本。
『怪物が……』という無線を残して北日本東太平洋上で操業中の漁船が消息を断った。海上保安庁および海上自衛隊の調査によりその海域に、時とともに位置を変え、未知の生物が多数発生するゲートが発見された。
後に次元断層である事が確認されたそのゲートから湧き出した多数の未知の生物──その姿から魔獣と呼ばれる──は太平洋を渡り、日本へ上陸しては被害を拡大していく。
太平洋上の安全保障、日本の自衛権、外患への憂慮。様々な思惑が絡み合う中、日米合同で、ゲートへの核弾頭搭載の巡航ミサイルによる魔獣の殲滅作戦が決定される。
航空自衛隊、主力戦闘機のパイロット・小早川凛と彼女の所属する飛行隊は、刻々と位置を変えるゲートへのマーカー役を熟すため、未明の空へと今飛び立つ。
まだ明けない東の空を、私はじっと見詰めていた。未明の空気は酷く冷たく、パイロットスーツ越しに身体に食い込んでくる。その冷たさを無視するように、私は東の空を見詰め続けた。
あの空の下のどこかにあるゲートへ今日私は赴く。作戦の内容は極めて単純で、そして困難なものだ。
私達飛行隊の任務は多数の巡航ミサイルを引き連れてゲートへと案内すれば良いだけの単純なものだ。今日の私達は正しく水先案内人だ。
但し、常に移動するゲートを見失う事なく追跡し続けなければならない。それも、ゲートから溢れ出てくる魔獣を攻撃・回避しながら。
ゲートは直接視認はできないという説明を思い出す。魔獣の出現位置から割り出すか、サーモグラフで確認する必要があるようだ。ゲートの向こうは余程寒冷なのだろう、サーモグラフでみるとゲート周辺の温度は数度低くなっているという事だった。だが、巡航ミサイルに搭載されている追尾装置にそれを追えるものは無い。
そこで考え出された作戦は極めて泥臭いものだった。哨戒機がサーモグラフによって位置を割り出し、私達は哨戒機の割り出した位置へと自機を突入し、私達を攻撃目標とする巡航ミサイルをゲートの向こうへ案内する。ほぼ間違いなく私達がこちらへ戻ってくる事は無い。
私は東の空から視線を下し、滑走路の遥か先を眺める。そこには、私の家族が居た海沿いの街の成れの果てがある。ゲートから現れた魔獣の第一波によって壊滅した故郷の街の廃墟が。
家族の顔が脳裏に浮んでは消える。父の、母の、兄の、妹の顔が。思い出の中の家族の顔は、辛かった事や恨んだ事など無かったかのように、笑顔だけを見せていた。
家族を失なった悲しみはまだ癒えてはいない。ただ、悲しみが深すぎたのか、涙は流せなくなっていた。喪失の重さに私の胸は、冷たく固くなっていく。その冷たさに、感情は凍りつき、涙は凍て付き、表情は失われる。
だから、私はこの任務に志願した。
家族の仇を討つ、などという感情も無いではない。しかしそれよりも、最早失うものの無い私が何かの役に立てるとしたらこれしかないだろう、という使命感の方が強かった。私の所属する緊急編成された飛行隊、パイロットバード飛行隊のメンバーは皆、似たような経緯で志願した者ばかりだ。皆、愛する者を魔獣の第一波で失い、この世に未練の無いものばかりだった。
「凛。小早川。ここに居たのか。そろそろ出撃時間だ」
背後から掛けられた声の主に私は振り向く。そこには、浜松の教練場で共に飛行技術を切磋琢磨した古手川正がいた。彼もまた、魔獣の第一波によって家族と恋人を失なっていた。
「古手川。わかった。今行く」
彼に返事をした私は、もう一度だけ東の空を見遣った。後30分程で太陽が昇るその空は、先程より少し明るさを増していた。
◇
戦闘機の整備を終えた格納庫内は、静寂に包まれていた。それぞれの機の横にはパイロットが付き添い、外周チェックをしながら愛機に静かに声を掛けていた。
──今日は頼むな
──宜く
──綺麗にしてもらったな
彼等の声は、相棒への信頼に満ちたものだ。これで最後かもしれないというのに、悲壮さは微塵も感じられない。
私も彼等に倣い、愛機のチェックをしながら声を掛ける。
「今日も宜く頼む」
整備員達はそんな私達を黙って見ていた。これから自分の整備した機とそのパイロット達が向う任務の内容を知っている彼等は、この最後になるかもしれない儀式を神聖なものの様に見守っていた。
「パイロットバード飛行隊、出撃準備お願いします。該当海域へは既に哨戒機が向っています。また、海上自衛隊及び米海軍の艦艇、空母および潜水艦も終結しつつあります」
格納庫内に基地からの指令が流れる。私達はグランドクルーへ目をやり叫ぶ。
「「まわせー!」」
私は愛機に搭乗した。エアインテークに接続されたコンプレッサーが轟音を響かせる。ターボファンエンジンがアイドリングに逹した時、私はチェックを終えた。グランドクルーが、コンプレッサーを撤去する。最後に車輪留めを外したクルーが私に敬礼をしてから立ち去るのが見える。私は彼に敬礼を返しキャノピーを閉じた。
一番機がタキシングを開始する。私の機は二番機だ。エンジンの推力を少しだけ上げ、車輪のブレーキを外した私は一番機の後に続きタキシングを開始した。
タキシングの途中で見た滑走路の西端には、既に米軍の戦闘機が離陸を開始していた。一機一機、滑走路上を加速してゆく。ターボファンエンジンから猛烈な速度の噴射炎が大気を穿っていた。降臨が滑走路を離れて間も無く、捻りを加えながら急上昇してゆく米軍機。
彼等の任務は、私達パイロットバード飛行隊の護衛になる。残念な事に、魔獣には戦闘機搭載の対空ミサイルも機関銃も対して効かない。辛うじて、艦船搭載から超音速で飛翔する対艦ミサイルだけが有効な攻撃手段だ。では何の為に彼等は出撃するのか。私達の進路上から魔獣を退けるための囮となるために出撃するのだ。
彼等の内何人が無事帰還できるのだろう。彼等は私達のように失うものが無い人達ではないだろう。彼等が、彼等の大切な人達の許へ戻れるよう私は祈る。
タキシングは進みパイロットバード一番機が滑走路内に進入する。
『RIN。お先に』
一番機の DAG からの無線が聞こえた。DA G はタックネームだ。本名は武藤拓と言う。彼も魔獣の第一波で最愛の妻と子を失なったらしい。RIN は私のタックネーム。小早川凛だからRIN。単純だ。単純過ぎたかも知れない。
「DAG。すぐ追い付きます」
私はそっと無線機に吹き込んだ。
『RIN 機。滑走路内に進入次第、直ちに離陸せよ』
管制の指令が耳に届く。
「了解」
返信すると同時に私はブレーキを外す。ターボファンエンジンの推力を上げた私は滑走路へと機を進めた。
滑走路の向こうに太陽の端が顔を覗かせていた。薄い雲が濃いオレンジ色に染まっている。その太陽目掛けて、一時停止する事なく私はエンジンのスラストレバーを全開へともっていく。強烈なパワーで機を前へ前へと推し進めるエンジンが轟音を響かせる。
「V1!」
視界の左右が溶け流れる。
ハイパワーエンジンの生み出す強烈な加速に身体が軋む。
滑走路の先にもう少しだけ顔を覗かせた太陽は横長の楕円に歪んでいる。私は闇を払いつつある太陽に向けて機を加速させる。
「VR!」
静かに操縦桿を引く。加速によって生み出された揚力が機首を持ち上げていき、前輪が滑走路を離れていく。
「V2!」
ロードノイズが消え、機は完全に滑走路を離れた。
「Gearup!」
車輪を格納する。車輪による空気抵抗から自由になった愛機は一機に速度を上げ、その揚力を駆って私は機を急上昇させる。重力に逆らって機を上昇させるエンジンのパワーは、更に身体を軋ませる。
軋みに耐えながら機を上昇させ続けた私は巡航高度に達すると操縦桿をゆっくりと押し水平飛行に移す。私の正面には、地上より少しだけ早くその完全な姿を見せた、薄いオレンジの雲のベールを被った太陽があった。
◇
太平洋上を東へと飛行する私の右前方にはDAG の一番機が見える。私の右横には TECH の三番機l、右後方には SIN の四番機でダイヤモンドを組んでいる。DAG、TECH、SIN の技倆は確かなもので、ダイヤモンドが崩れる事はなかった。
『急造にしては悪くないな』
無線から聞こえる DAG の満足気な声が、私の考えと一致した。志願者を集めて作られ、このメンバーでは碌に訓練を行う時間的余裕が無かったにしては、この四人の相性は良い。
『操縦技術なら任せて下さい。DAG よりは上手いんでね』
『TECH。俺はお前より上手いつもりだ』
TECH と SIN のお調子者めいた交信が交される。彼等の会話に不愉快になる事もない。通常任務なら不快に感じただろうが、今は通常ではない、生還の望みの薄い、いや殆どない任務だ。これ位の悪ふざけは許容範囲内だろう。
『おいおい、お前ら。幾ら何でも俺を見縊りすぎ。その点、大人しい RIN を見習え!』
どうやら私に御鉢が回ってきたようだ。なら遠慮なくいこう。
「何を言ってるんですか、TECH、SIN。この中で私が一番に決ってるじゃないですか!」
『あーはっはは!』
『言うねー RIN!』
『おーい、RIN さんや。少しは俺を立ててくれないかなー。これでも一番機なんよ』
TECH、SIN は大笑い。DAG は少し拗ねた様子を見せた。まあ、皆フリだろう。私も鹿詰めらしいフリを装う。
「まあ、事実は事実なんでっ。ははは」
『ちげぇねぇ』
『そういう事にしといてやる』
『もうそれで良いよ……』
こんな風なやり取りは、他のダイヤモンドでも行われているだろう。パイロットバード編隊 16機、4編隊のパイロット達の間に階級や技倆の上下関係を持ち込む者は居ない。規律が欠如してる訳じゃない。同じ命運を共有する仲間意識が強いから、そんな区別を乗り越えてしまってる。
だからと言って戦闘行動は別だ。当たり前だ。DAG の指示に従う事が作戦の成功率を上げる為に必要なのだから。そんな事は言われるまでもない事だ。その上でじゃれあっているだけだ。
じゃれあいながら続けた飛行は、予定海域に近づく。何隻もの空母、巡洋艦、駆逐艦の艦船をフライバイする。水面下には何隻もの潜水艦もいる筈だ。十数分後には、彼等は私達に向けてミサイルを発射する。
艦のクルーが皆私達に敬礼しているのが見える。向こうからは見えないと思いつつ、私も彼等に手で挨拶を返した。
『さあ、お遊びの時間は終りだ。こっからはマジで行くぞ!』
DAG の声が耳を打つ。気持ちを引き締める。ヘルメットの HMD に戦闘情報を呼び出し、周囲を警戒しながら飛行を続ける。
『DAG 編隊。貴編隊の西北西 20km に冷海水域あり。南へ時速5kmで移動中』
哨戒機からのレポートが上がったのはその直後の事だ。DAG は予想邂逅点に機首を向ける。私も同時に機首を変更した。私達のダイヤモンドはそれでも形を崩さなかった。
『了解。俺に続け!』
そんな DAG の指令が必要ない程、私達の編隊は足並みが揃っていた。
一分も経たず、予想邂逅点に到着した私達に哨戒機からのレポートが入る。
『海水域が増速しています。現在時速10km。方位は南。まだまだ増速すると思われます』
私は南の海面を見るが、あまり違いが分からない。
『お前ら。想定海域にデコイを発射後急上昇。上下左右に上手く散らせ』
DAG の機が機首を僅かに下げデコイを放ったのが見えた。彼の機は直ぐ様機首を上げ、急上昇していく。私もすかさず機首を左に振りデコイを発射、機首を戻し急上昇する。亜音速下とはいえ、身体にかかる G は堪えるが、パイロットスーツのおかげで血流は正常に保たれた。同様に TECH は右へ、SIN は上へとデコイを発射しする。
『四発とも該当海上で消失。デコイからの電波は、以前の観測通りドップラー・シフトおよび強度の急減衰を確認』
『思ったよりデカイな……』
デコイの発射範囲は大体、上下左右 100m以上だろう。進入が楽と見るべきか。それとも……
『魔獣の出現を確認。海龍型および翼龍型。総数 100 以上。現在もゲートから出現中』
哨戒機のレポートに戦慄した。ゲートの広さは、魔獣出現数に比例する。この規模なら最終的に 1000 のオーダーに達するかも知れない。
『デコイの電波は 30 分しか持たない! 今でてきてる奴等は、迎撃機と艦隊からの対艦ミサイルに任せろ! 俺達は予定通り巡航ミサイルを引き連れデコイの電波を追ってゲートへ乗り込む!』
DAG の号令で私達は自身を巡航ミサイルに認識させる為、専用周波数の電波を発信する。早期に電波を捕捉させるため、一旦艦隊の方へと私は引き返す。
正面遠くにある空母から発進した迎撃機が横を飛び去って行く。
戦闘艦からは多数のミサイルが海龍型魔獣へと水飛沫を上げ海面ぎりぎりを這うように飛翔して行く。
そして……
海中からは幾柱もの噴水が沸き起こり……
戦闘艦からは幾つもの火柱が立ち……
数十ものロックオン・アラートがコックピットに鳴り響き、HMD には幾筋ものミサイルの予想軌道が描かれていた。
『さあ、Uターンするぞ!』
DAG の号令の下、編隊は綺麗なインメルマン・ターンを決め、同じ基地から出撃した米空軍の護衛機に囲まれながら、ゲートへの飛行を決行した。
◇
私達、パイロットバード飛行隊は哨戒機の支援を受け、デコイからの電波を追跡し、巡航ミサイルを引率しながらゲートへと近付いて行く。
空母から出撃した米軍の迎撃機が翼龍を攻撃しているのが見える。上空から一気に降下、翼龍型魔獣へ
HMD に映るの翼龍に機関砲の弾丸の雨が降り注ぐ。時折混ざる曳光弾の軌跡が、翼龍が確実に被弾している事を教えてくれる。
AAM による攻撃は無い。接近しないと翼龍は認識してくれないのだ。
被弾した翼龍が失速する事は無かった。ただ、己れに攻撃してきた米軍機に狙いを変えた。その進路を変え一撃離脱の米軍機を追い掛けていく。
追撃を振り切ろうとする米軍機。翼龍の口から吹き出される青白いブレスが彼等を追う。ある機はロール、別の機はヨーヨーで避けようとしていた。急降下やアフターバーナーで逃れる機もあった。
逃げる米軍機を追う翼龍に、高速戦闘艦から発射された対艦ミサイルが襲いかかる。本来なら対艦用途のそれは、圧倒的な運動エネルギーに耐え切れず撃墜されていう翼龍達が海上へと落下していく。追撃を逃がれた米軍機は上昇反転し再び一撃離脱を敢行していた。
だが、援護が間に合わずブレス攻撃を避けきれなかった機からは、パイロットがベイルアウトしていく。ぎりぎりの高度で開くパラシュート。そのパイロットに襲いかかる飛龍が見える。彼は助からないだろう。クリスチャンかどうか知らないが、心の中で十字を切った。
無事着水しても安全とは言えない。海龍に襲われる危険性があるから。無事救出されれば良いが……
海面すれすれを飛行していた対艦ミサイルが標的を目前に超音速まで加速され、命中した海龍が沈んでいく。あの付近に着水したパイロットは今暫くは生き長らえるだろう。
Uターンしてから僅か数分。
激烈な戦闘の末、目の前の翼龍の群は、少しづつ、少しづつ数を減らしていった。だがそれは、味方機が減っていってる事でもあった。HMD に映る米空軍の護衛機も、海軍の迎撃機も半分以下に減っていた。パイロットバード編隊も同様、半分の 8機、2編隊になってしまった。
そこへ更に追い討ちを掛けるようなレポートが哨戒機から齎された。
『ゲート、方向転換および増速。東へ毎時 100km。更に新たな魔獣の出現を確認』
ごくり、と唾を飲み込む震動が内耳を揺がす。このままでは作戦が失敗に終ってしまう。
「DAG」
呼び掛ける私の声に、彼からの返事は無い。
突入か、撤退か。
撤退はしたくない。
今、この時、私が。
私の手で終らせたい。
HMD に映る戦闘情報を読み解く。
戦闘艦の位置。
迎撃機、護衛機の機数。
翼龍の位置。
3D で表示させたそれらの統合情報を必死で読み解く。その間数秒。
「DAG! 上から突入できませんか!」
僅かな可能性を見出した私は提案した。
『……あの数の翼龍をどうする』
DAG の疑念も何も篭らない、単なる質問。だが、期待が込められている訳でもない。単に障害をどう排除するのか、それを質してきた。
「戦闘艦から我々の進路上一帯に対艦ミサイ
ルを」
『残敵は?』
「上空へ抜けるのに邪魔な翼龍を、打ち落さなくても構わないので AAM でどいてもらいます」
『……随分な賭だな。だがそれでいこう!』
私の提案は通った。
◇
デコイを打ち込んでから 20分。私の目で前に対艦ミサイルが上から次々と降り注いでいる。目的は進路上空の翼龍を打ち落す事。
狙い通り、あるいは運良く進路上空の翼龍の数がどんどんと減っていく。
『アフターバーナー・オン。障害物を蹴散らせ』
DAG の号令が響く。急上昇に移った私は、進路上の今にもブレスを吹きそうな翼龍に、碌にロックオンもせずAAM を発射する。脅してどかすだけだ。
その翼龍はブレスを吹く寸前の頭部に AAM を見舞われ、ふらふらと落下してゆく。その横を通過する私の視界に、翼龍の姿は一瞬しか移らなかた。
搭載した AAM を使い切る前に上空に抜けた私は、ゲートへの翼龍のいない花道が通っている事、引率してきた巡航ミサイルが大人しく後方 100m をついてきている事を確認し、内心で拳を振り上げた。
『翼龍の邪魔が入る前に、急降下でゲートへ進入する。進入後直に急な引き起しがあると思え。失神した奴は厳罰だ!』
再び DAG の号令が耳を打つ。
「へへへっ、望むところ」
厳罰どころでは無い、死に直結だ。でもそんなものは笑い飛ばしてやる。操縦桿を前に押し遣りながら、哨戒機からの支援データにお示すゲートへと突っ込む。
一番機の DAG が海面上 100m でふぅっと消え失せた。
「good luck。DAG。直ぐ追い付く」
言い終わる前にゲートを潜った、と思う。多分。正直、操縦桿の引き、機を引き起しながら後方の巡航ミサイルを監視している最中、そんな感慨を抱く余裕は無い。引き起したからといって機が直ぐに上昇する訳じゃない。海面がぐんぐん近付いてくるのに気付く。駄目か! 激突を覚悟した瞬間、奇跡的に機は水平になり、徐々に機首が上向き始めた。左右には盛大な水飛沫のカーテンが立ち上った。
「よっしゃー!」
後方を確認すると TECH も SIN も無事潜り抜けたようだ。第二編隊の連中も確認できた。ただ巡航ミサイルは、全てが全て引き起しに成功した訳では無いようだ。何発かのロストが確認できた。まあ良しとしよう。それより今は、目の前に群がる魔獣の相手だ。巣を発見できれば尚良いが、それは出来過ぎだろう。
『RIN。俺と組め。TECH は SINとだ。魔獣の横を擦り抜ける。俺は翼龍、TECH は海龍を狙え。いいか、行け!』
「『read it!』」
DAG の後に続き、機関砲や残る AAM で翼龍の動きを抑えていく。できるだけ纏めるように、でもそんなに密集させなくてもいい。半径 100m 以内が理想。
『RIN。横に来い! あの中に突っ込むぞ!』
「read it!」
いよいよラストミッション。DAG の左、やや離れて併走する。巡行ミサイルは? HMDの後方映像で確認すれば数十基、皆良い子にしてついてきていた。DAG の後ろも完璧だ。よし、行くぞ。あの翼龍の群れの中へ!
一匹の翼龍に近付いてはロールで遣り過し、別の一匹に近付いては機を上げ下げして遣り過し。翼龍の群の中を、糸を通すように機を自由自在に操る。そして群を抜け出ようとした時、最初の衝撃波が追い付いてきた。
後をついてきたミサイルが翼龍に命中した証拠だ。爆発点を回避したミサイルが別の翼龍に命中したのだろう、衝撃波が次々と機を襲ってきた。
あー、これ迄だな。機のコントロールが難しくなってきた。電し回ろの調子もおかしくなってきたのだろう、反応が妖しくなってきた。今はだせいで空中にいられるが、その時間もあとわずかか。いま、大りょうの、中性子せんが、このからだを通りぬけて行ってるはずだ。
「DAG?」
彼のきを探すが、HMD はしんでるし、もく視も、むづかしい。
「しょうがない。さい後は、じまえのめで、たしかめたい」
ああ、あごが、のどがおかしい。うでも、おもうように、うごかない。
あと、すこし。もう、ちょっと、うえ。 つかんだ。あとは、これを、ひくだけ、だ。
きゃのぴー、がふきとび、ざせきごと、そらに、なげだされる。
ぱらしゅーと、ひらく。
からだ、ひね……た。
翼りゅうのむれ、たくさん、みさいる、おそう。
はなび……いぱい。
りゅう……おちてく。
みっしょん……こんぷりーと?
おと……さん
あか……さん
に……さん
いも……と
みんな……わら……てる
わたし……や……たよ
げーと……とお……い
とても……と……い
ここ……はい……いろ
げと、の……むこう……そら……あお……きれ……
終
最後までお読み下さった皆様、ありがとうございます
作中のあらゆる事物は作者の妄想であり現実的なものではない事を付け加えておきます。




