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ドライブレコーダー


 20年来乗ってきた車を買い替えることになった。さすがにあちこちガタが来て修理して乗り続けるのも限界となった。


 普段は電車通勤のため妻の方がおれより多くこの車に乗っていただろう。だがそれでもやはりおれにとっては長年乗り続けた大切な愛車だ。


 妻にプロポーズをした翌日に二人でこの車を買いに行った。マイホームか車かで迷ったが、やはりまずは車が必要だと二人の意見は一致した。子供が出来るまではそれまで同棲していたアパートで十分だったし、なにより新婚の間くらいは二人の時間を満喫したかった。


 この車でいろんな場所へ出かけた。一晩中ドライブをして遠くの海まで朝陽を見に行った。慣れない雪道を走りスキーにも行ったし、紅葉を見に行って危うく山道から落ちそうになったり。そして新婚旅行はこの愛車と一緒にフェリーに乗って沖縄まで旅した。


 子供が生まれてからは山へキャンプにも行ったし、渋滞に巻き込まれながらお互いの実家へも帰った。高速でエンストしたりしたこともあったっけ。思い返せば家族の、そしておれ達夫婦の近くには愛車こいつがいつもいた。


 本当に色々な思い出がこの車には詰まっている。



 いよいよこの相棒とも明日でお別れ。残念ながら廃車となってしまうが、おれは別れを惜しむように、そして労をねぎらうように愛車を丁寧に磨きあげた。


「20年間本当にありがとう。おまえはおれ達にとって家族も同然だったよ」


 車に心なんてないことは分かってる。けれどこいつもおれ達との別れを悲しんでいるように見えた。



 その夜おれは夢を見た。おれの愛車が現れ、おれに向かって語りかけてきた。

物を大切にすると魂が宿るなどと言うが、あれは本当だったんだ。愛車の声はとても優しい女性の声だった。なんとなく男じゃなくてホッとした。


 彼女はいろんな思い出を語り始めた。初めて行ったデートで見た夜景が綺麗だったとか、年に一度行っていた山奥の温泉は景色が良かったなど。どれも相当いい思い出だったようで、彼女の声も弾んでいた。まさにドライブレコーダーのように、その時の様子を事細かに語ってくれた。


 そして愛車は最後におれに泣きながらお礼を言った。


「ありがとうシュウイチさん。あなたに大切に乗ってもらって私は幸せでした」


 そして彼女は霧のように消えていった。



 翌日、目が覚めると妻が朝食の準備をしていた。今日は二人で愛車と最後のドライブをする予定だ。外の天気は快晴。絶好のドライブ日和だ。おれはキッチンに立つ妻にこう言った。


「おはよう。今日は最後のドライブだな。ところでシュウイチって誰だ?」







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