表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

卵を、孵す

 お父様にもらった、少しだけ赤みがかった卵を、わたしは、朝からずっと、温めていた。

 今日は、することもなかったし、外は、雨がざあざあ降っていたから、一日中、わたしは卵を胸の谷間に埋めるようにして、温めていたのだ。

 卵の大きさは、鶏卵をひとまわり、大きくしたほどの手ごろな大きさだった。

 ベッドの上で、ゴロゴロしながら、わたしは卵を抱きながら、歌を口ずさんでいた。いい気分だった。

 愛を籠めて、卵を抱いてやるのが、重要だから。

 そうすれば、きっと、健やかで、いい子が生まれてくるはずだ。


 これは、チャトランの卵。


 新しい学校のことを思うと、わたしは、少しだけ憂鬱になる。来週から、わたしは、学校へ行かなければならない。

 また、悪夢を見てしまうのだろうか?

 そんなことに、ならなければいいけど。けれど、そうなったら、そうなったで仕方がない。お父様のために、仕事をするだけだ。

 お父様は、人間のことを、邪悪の種子って呼んでるけど、わたしは、そんなことはないと思っている。前の学校でも、一人だけだったけれど、友達ができたのだ。その子は、とても心の優しい子で、繊細に描かれた森の絵のような女の子だった。

 でも、残念なことに、その子は自殺してしまった。

 あの学校の名前は、何と言ったかしら?

 彼女が死んでしまってから、ほどなくしてその中学校は、廃校になってしまい、世間から忘れられた存在となった。ただし、都市伝説として、残ることになったのだけれど。

 黒い翼を生やした、魔物がやってくる――黒い黒い、まあんまるい、おっきな黒い魔物が。ぶくぶくぶくと、肥え太って、魂をむしゃむしゃ。

むしゃむしゃ、むしゃむ――

 はっとして、わたしは、胸に埋めた卵に視線を向けた。メリッと、微かに、小さな音がしたのだ。

 そろそろ、孵化するころだと、思っていたけれど。

 卵の赤味は、すこしだけ紫色に変わり始め、ペルシャ絨毯のような斑点が、殻の表面に浮いてきていた。お父様は、斑点の模様が美しいほど、立派なチャトランが生まれてくるのだと、常々言っている。斑点は、まだ薄ぼんやりとしていたけれど、きっと、いまに素晴らしい模様を描くに違いない。

 今度のチャトランとは、仲良くなれるかしら。個体によっては、とても敏感で、なかなか慣れない子もいるのだ。

 よい子が、生まれますように。

 チャトランと一緒なら、わたしには、なにも怖いものなんてないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ