メッセージ。
朝の書取りをしているとお店が始まったので、俺は玄関から出ていつものように商会員さんと挨拶を交わし店先に出た。
いらっしゃいませーと声を上げながら客寄せをしてると色々な人が俺に寄ってきて頭を撫でながらチップをくれる。丁稚さんが驚きながら僕に言う。
「なんか新規のお客様増えましたねー。お坊っちゃま目当てのお客さんもいるみたいですね」
「そうなの?」
「ええ。お店の前で待っていてお坊っちゃまが来てからお店に入る人も結構いますから」
「そうなんだー」
学生さんぽい女の子たちが寄ってきた。
「「かわいいーー」」
「は?」
「ねえねえ僕、もう働いているの?」
「うん。いらっしゃいませしてるの」
僕は若干引きながら答えた。
「偉いねえ。ねえねえ、飴食べる?」
「かわいいわー。持って帰りたいー」
「だめよ。それ犯罪だから」
「うふふふ。ボクはいくつ?」
「三歳だよ」
「三歳!すごいわー」
「あーん。かわいいーー」
と一人のお姉さんはさっきから僕をなでなでしている。
「ねえねえ、この後暇?」
「何ナンパしてるのよ。ダメに決まってるじゃない」
「んー。忙しいの。いらっしゃいませのあと勉強しゅるの(あ、噛んだ)」
「あーん。えらいーー」
僕は抱きしめられる。
「あなた、坊やの邪魔をしちゃいけませんよ」
後ろから声がかかる。仕立ての良い服を着た老婦人がいた。そして気づくと僕を中心に人の輪ができている。
(完全に見せ物になっているなぁ)
お姉さんは「はーい」と引き下がった。
「あなた、最近がんばってるわね。応援しているわ」
と老婦人は頭を撫でてチップをくれお店に入った。それを皮切りに握手会ならぬ、頭撫で会が始まる。
「かわいいねえ」
「がんばれよー」
「良い商人になってね」
「あなたならできるよ」
「あなたらしくね」
「また来るね」
「大丈夫大丈夫。いつか努力は報われるよ」
「神様が見てるからちゃんとがんばるんだよ」
などと次々に声がかかる。
横にいたカダスさんの悪ノリで交通整理をされ、列ができてしまった。列が出来ると何故か並ぶ人がいる。僕は揉みくちゃにされ、両手やポケットにはチップや飴、お菓子がいっぱいになった。
流石のカダスさんも慌ててお店に知らせに行き、お父さんがやってきて事態を見て収拾に入る。
「商会長のスサンです。本日は息子の為に皆様色々ありがとうございます。ご覧の通り息子は三歳の歳で商人として頑張っております。今後ともひとつご贔屓に。さ、リョウ行くぞ」
「うん。ありがとうございました」
と僕がペコリとお辞儀すると
「がんばってねー」
「応援しているぞー」
と言いながら皆んな拍手をしてくれる。なんか僕はアイドルになったかのような気分で家に戻った。
引越しや掃除してる音が隣から聞こえるが文字の書取りをする。アニナもエスナも部屋の片付けや掃除に回っている。久しぶりの一人の時間で嬉しいような寂しいような気分だ。
文字を書いている手が勝手に動いた。僕は驚きながら手の動きに注目する。
『あ・な・た・の・こ・と・み・て・い・ま・す・あ・ん・し・ん・し・て』
おおぅ。これはリーリシアさんかメイド服のお姉さんのメッセージかな?ありがたい。もしかしてエメイラさんがいなくてもなんとかなるのかな?
『そ・れ・は・だ・め』
うん。ちゃんとエメイラさんの言う事を聞くよ。
『ほ・か・の・ひ・と・の・は・な・
し・も・き・く』
わかったよ。ちゃんと聞くね。
『よ・ろ・し・い』
ありがとう。
『じ・ゃ・あ・ま・た』
はーい。
僕は安心して書取りに戻る。しばらくするとドルトがノックをして入ってきた。
「坊っちゃま。旦那様の言いつけにより午後から格闘訓練をはじめるよう仰せつかっております。坊っちゃま、体調の方はいかがですか?」
「げんきー。ドルト教える?」
「いえ、私は格闘には縁遠く、教える事ができません。ペランスはわかりますか?」
「んふー。ペランス。お耳がもふもふ」
「左様です。彼は格闘技に秀でています。彼が教えます」
「ペランス、傭兵、ちがう?」
「ええ。昨日までそうだったんですがこの度我が商会と契約して商会の所属となりました」
「ん?」
「つまりスサン商会の戦士という事です」
「かっこいいねー」
「左様です。ですから坊っちゃまは安心して格闘訓練に取り組んで下さい」
「わかったー」