魔術と魔法の違い。
「「うーん」」
お父さんとお母さんは考え込んでいる。お兄さんとお姉さん達も心配そうな顔で僕の顔を見ている。
「大丈夫?僕」
「ええ。大丈夫よ。私はその相談に来たの」
「それでエメイラ、聖別式までどうやって守るんだい?」
お父さんが立ち直ったようだ。
「まずはね、私をリョウが成人までここにいさせてくれる?聖別式から成人まで魔術と魔法をきっちり教えたいし。いる間にずっと守護の結界を張るわね。」
「それはかまわない。そのついでにロイックやストラ、ミシェに魔法や魔術を教えるって事ならこちらから給料を出そう。相場より高めにしたいが相場通りになったらすまん」
「いいわ。これは魔術師として見過ごせない案件だもの。あとは物理的にこちらに危害をかける事もあるから質の良い傭兵や兵士を雇ってね」
「それなら当てがある。ちょうどそのような話をされたところだ」
「あとはリョウ本人や兄弟達に護身術を教えたらなお完璧だわ」
「ごしんじゅつ?」
「リョウ、護身術というのは身体を守るための格闘や剣術の事だ」
「んふー。剣、習う」
「男の子らしいわね。ハッセルエンも剣術を復習してね」
「もちろんそのつもりだ」
「それから私を兄弟全ての先生だと対外的に示すこと。リョウ一人に注目は与えたくないの」
「それはこちらに利があるな。ロイックにもストラにもミシェにも箔がつく」
「これが守るプランだけどどうかな?」
「ああ。こちらはエメイラの言う事を全部受け入れよう。あとで契約をしよう」
「わかったわ」
「こんとらくと?」
「約束する、と言う事だよ、リョウ」
ロイック兄さんが補足してくれる。
「さて、リョウ。それからあなた達も聞いてね。よく同一視されるけど魔術と魔法は違うわ」
「授業で習ったよ」
ストラ兄さんが言う。
「じゃあ復習のつもりで聞いてね。魔術は術式呪文という命令語を唱えながら、イメージして事象を起こす体系なの。必要なのは魔力を見る目である魔力視覚と魔術の完成系のイメージを想像できる魔術の素質とそれを信じる信念と少しの魔力よ。簡単にいえば何かのスイッチが入れたら動くよ、という物があったとして、一般人はそのスイッチが見えないの。見える人はスイッチを見つける事ができるけど、ただ見えるだけじゃスイッチは動かない。スイッチを押すにはそのスイッチを押す力がないと押せないわ。どちらもあって運良くスイッチが押せても信じてなきゃその物はちゃんと言う通り動かないの。視覚と力である素質、物を自在に動かす信念が備わらなければいけないってことなのね。
魔術はその制限がある代わりにすごく汎用性が高いの。《移動》《幻覚》《精神》《情報伝達》《植物操作》《動物操作》《火・水・風・土・光・闇操作》《知識》《治癒》《防御》などの体系に別れた術式呪文は百近くもの種類があるのよ。残念ながら魔法の素質と精神力でその場で覚えられる数が決まってくるから全ての呪文を使える事はかなり厳しいわ。だから多くの魔術師は覚えるだけの魔術を覚えて、毎日のように今日使おうとする魔術を瞑想でイメージして交換するの。毎日、初級魔術師や半人前魔術師は二、三個使えるのが関の山だけど、中級魔術師は七から九個、上級魔術師は十五個ぐらい使えるかしら。一流魔術師は二十五個は余裕だわね。以上が魔術の事だけど詳しくはまた教えるわね」
エメイラはお茶を飲んで一息ついた。
「魔法は四種類に分かれてるの。まずは便利魔法。スキル書か教会への献金で誰でも覚えられるわ。生活に必要な物を神が編纂したと言われているわね。
光、吹風、点火、水、清浄のうちの二種類まで使う事ができるのはもはや常識なのよね」
うん。その常識がなかったから教えてもらえてラッキーだ。
「二つ目は属性魔法ね。これがロイックエンとストラストとリョウが使える魔法。属性魔法っていうのは火・水・風・土・光・闇の属性エネルギーを魔力を糧にして生み出して、それを同じく魔力で方向性を決めて発射するというものね。方向性というのは『弾』、『刃』、『槍』、『嵐』、『盾』、『鎧』、『壁』に変えられると言う事。『弾』は魔力が少なくても出るけど『盾』『鎧』『壁』は相当魔力を使うわ。属性にはそれぞれ一長一短あってね、どれが強いかと言われると…うーん」
「どれが強いかわからないの?」
ストラ兄さんは聞く。
「ええ、わからないわね。で三つ目が身体操作魔法。文字通り身体を操作する魔法で力や器用さをアップしたり、ダッシュ力を上げたり出来るの。肉体を鍛えている人は覚えやすいわね。私にも出来るのだけど…これはハッセルエンに任すわ」
「え?お父さん使えるの?」
「お父さんすごいー」
「ふふっ。昔剣術を勉強してた時に覚えたんだ。昔エメイラに教えてもらった事があるんだよ」
お父さんはどこか誇らしげに答えた。
「最後が回復魔法ね。これは空気中にあるエルテルというエネルギーを変換して使うの。魔力と神聖力というものが必要らしいけど、私にはよくわからないわね。素質があれば使えるらしいけど、あんまり外で大っぴらに言う事は勧めないわ。もれなく教会行きの運命だわよ」
エメイラは笑いながら言う。俺は文武両道なんでも出来る事を願っているのでもしかしたら覚えるかもしれない。そうなったら本当に黙っとこう。
「以上でおわりね。お腹が空いたわ」
「俺も空いた」
「私も」
「僕も、空いた」
ストラ兄さん、ミシェ姉さん、僕の順にエメイラに同調した。
「さあさあ、ご飯にしましょう。エメイラもご一緒に」