エメイラの相談事。
「相談?」
「ええ。相談よ。リョウの兄弟が帰ってきて私が見てからの話になるけど」
「そうか。16時には帰ってくると思う」
「そうなのね。とりあえず今すぐにはこの商会と館の方には何もないと思うからその頃また来るわね」
「わかった。店の方には周知しておく」
「うん。じゃあまた後で」
エメイラは兜を被り、マントを着けて応接室を出ていった。出ていってしばらくは応接室はしーんとなった。だがお父さんがにやりとすると笑い出した。
「あはははは。いやぁ凄い話になってきたなハノン」
「ええ。リョウ、あなたを誇りに思うわ」
「ねえねえ、リョウ。一流魔術師になれるのよ。国にだって雇われる事ができるのよ。お姉ちゃんも嬉しいわ」
僕はポカーンとしていた。急に素質があると言われても実感がない。一流魔術師ってそんな凄い存在なのかな?僕はびっくりしているよ。
「いやあ、うちの商会員達に自慢したいわ」
「そうね。ドルトとアニナなんか特に喜ぶでしょうね」
「お兄ちゃん達早く帰って来ないかしら」
三人が三様喜んでいる。
「ミシェ姉さん、魔術覚える、できるよ?」
「私は良いのよ。嫁ぐから」
「ミシェは花嫁修行の方が大事だものね」
「あー。一杯呑みたい気分だ」
「お父さん、昼間お酒、だめ」
「あははは。そうだな」
「さあさあ、ハッセル、あなたは仕事に戻って。ミシェは続きをやるの。リョウは私が教えるから文字の書取りをしましょう。魔術師になるには読み書きが必要だわ」
お父さんは急に真面目な顔をして言った。
「そうするよ。でな、さっきのエメイラヒルデ師の相談、よっぽどの事がない限り乗るつもりだからハノン、そのつもりでな」
「まあ。それはあなたの勘がそう言ってるの?」
「ああそうだ。私の勘がそう言ってる」
「わかったわ。そう言う時には絶対に外さないものね。今度も従うわ」
「ああ。頼むな」
「はい……さあさあ、解散よ。あとのお楽しみは取っておいてやる事をやりましょうね」
「はーい」
「ミシェ、はいと言いなさい」
「はい」
「よろしい」
みんな笑って解散となった。それから僕はお母さんに添削してもらいながら文字を書いた。お母さんは褒め上手で教え上手だと思う。僕はお兄さん達が帰ってくる間にだいぶ単語を覚えた。
お兄さん達は15時半くらいに帰ってきた。早速お母さんが子供達を集めて説明をする。ロイック兄さんは驚きながらも喜んでくれ、ストラ兄さんは単純に喜んだあと『俺にも素質があればいいな』とか言っていた。
16時ちょっと過ぎにエメイラが戻ってきた。兄二人はあまりの美貌に赤くなり、どもっていた。
エメイラは兄達を見てくれる。まずはロイック兄さんの番だ。
ロイック兄さんは光はほとんど見えなかったが、かすかに動きがあると言った。ストラ兄さんは光がかすかに見えたらしい。
その結果を踏まえてエメイラが話し出す。
「まずね、ハッセルエンとハノンは残念ながら魔術の素質は小さく、魔力量は一般人並みに少ないわ。そして、ロイックエンには魔力が結構あるの。だけど素質は残念ながらないわね。ストラストは魔術を二、三個覚えられるわ。魔力もそこそこあるわね。ミシェレルは先程言った通り魔術を一、二個。詰め込めば三個覚えられる。けど魔力量は一般人並みかしら。リョウは魔術師としての素質、魔法使いに必要な魔力量ともにかなりの多さね。並の魔術師では叶わなくなる」
そう言ってお茶を飲み、更に話し出す。
「まずはロイックエン、あなたは魔術はてんで無理だけど魔法を二系統使えるようになる。商人魔法使いとなれるわ」
「おお。すごい」
「ストラストは魔術師としては半人前だけども一系統、魔法が使えるわね」
「やったぜ」
「そしてミシェレル、あなた花嫁の嫁入り道具として魔術を覚えるのはどうかしら。治癒や魔術盾、避妊なんておすすめよ」
「あ、それなら良いかもです」
「それらは私が教えるわ。代わりにリョウが聖別式を終えるまで守護する事と聖別式が終わってからの先生をやらせて欲しいの」
「なんで?魔術、魔法違う?」
僕はエメイラに聞いた。
「そうか。まずはそこから説明しないとね。魔術師ギルドと魔法ギルドの共通の掟として聖別式前に魔術と魔法は教えてはいけないの。聖別式で授かるスキルが減ってしまう事がかなりの確率であるのよ」
「聖別式、魔術、魔法ダメ」
「そうよ。それでね、あなたを聖別式まで私が守護する理由はね、あなたがそれまで悪魔や邪術師の格好の獲物になってしまうの」
「そ、そんな…」
お母さんの顔色が蒼白になった。
「本当か、エメイラ?」
「ええ、残念ながら本当よ。悪魔にとってはとても美味しい贄だし、邪術師にとっては自分の術を継承できる素質を持ってる相手は喉から手が出るほど欲しいもの」