異世界食事事情と硬貨の話。
お店から戻って、アニナに連れられ僕は料理担当のマスの所へ向かった。マスは壮年の獣人族の男性で僕達家族とうちの社宅?寮?に住んでいる商会員や丁稚の食事を一手に担っている。身体が大きく、見た目はクマだが犬の獣人らしい。
「マスー!こんにちわ!」
「おう。元気がいいな坊ちゃん。ちょうど商会員のやつらとお嬢様とお嬢ちゃんと坊ちゃんのお菓子を作っているところだ。つまんでくかい?」
「うん。マス、質問ある、良い?」
「なんだい?」
「お嬢様誰?」
「あー。そうか、まだわかんないよな。俺はお嬢様、つまりは坊ちゃんの母上の家で働いていたんだ。結婚と同時にこちらに来たからお嬢様と呼んでるんだわ、わかるか?」
「んふー。なんとなく」
「そうか、偉いな」
「マス、お料理はー、どんな感じ?焼くと煮る、茹でるだけ?」
「そうだな。基本はそうだ。それ以上何かあるのか?」
「わかんないー。あるかも」
「そうか、何か思いついたら言ってくれ」
「マス、パン焼く?」
「おう。パンは毎日焼いてるぞ」
「パン硬い、全部?」
「そうだな、柔らかいパンなんてないぞ。スープやソースに浸して食べるのが普通だからな」
「柔らかいパン、食べたい」
「そうか。どこかの貴族様のところでは出るかもな。ちなみに旦那様の出入りしてる貴族様のところにはないそうだぞ」
「んふー。わかったお貴族様、聞くー」
「おう。聞いたら教えてくれよ」
「わかったー。味って塩?」
「塩と、砂糖と胡椒と香辛料だな。旦那様とお嬢様は優しいから坊ちゃん達の食事だけでなく俺たち商会員や丁稚にも少し胡椒と香辛料使う事を許してくれてる。ありゃ高いからな。庶民はほぼ塩のみの味付けなんだよ」
「使う、すごいの?」
「すごいさ。本当にありがたいことだよ」
「お坊っちゃま、胡椒は時期によって金貨で取引されるのですよ」
アニナが横から口を出す。
「すごいねー。これ無理?」
と先程もらったチップを取り出す。
「ありゃそれはどうしたんだい?」
「お店で、いらっしゃいしてた。貰ったの」
「おう。良かったなあ」
「お坊っちゃま、そこにある鉄の銅貨が銭貨で10枚で銅貨になります。お坊っちゃまの持っている茶色の方の硬貨ですね。それが10枚で大銅貨、大銅貨10枚で銀貨となります。それが10枚で金貨になります」
「んふー。わかんないー」
「また勉強致しましょう」
「これで何?」
僕は銭貨を取り出しアニナに見せる。
「一枚では何も買えませんね。銅貨1枚でりんご一つが買えますね」
「なるほどー。この茶色いの、りんご、買える」
軽く計算してみよう。りんご一個が百円として、銭貨が十円、銅貨が百円、大銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円といったところか。
「その通りです。さすがお坊っちゃま」
「偉いな、坊ちゃん」
「んふー」
「さあ、坊ちゃん、今日のおやつだ。まだあったかいから気をつけてたべろよ」
お菓子は芋を焼いたものに砂糖で味付けしたものだ。久しぶりの甘味にほっこりする。マスは料理うまいね。
「坊ちゃんはほんと美味そうに食うな」
「おいしー」
「そいつは良かった」
「ところで坊ちゃん、お店に出たって本当かい?」
「んー。挨拶?」
「マスさん、今日はお坊っちゃまはお店の方々に挨拶をして回ったんですよ。そのあと店先に立たれて」
「ほー。すごいな」
「毎日するの」
「毎日かい?」
「挨拶はすごくいいの」
「まあ。挨拶することの素晴らしさに気づくなんて。奥様に報告しなくては」
アニナはとても喜んでいる。
「そうだな、報告した方がいいだろう」
マスもニコニコしている。
「神様とお客様に、感謝。マス、ありがと」
「おう。きっちり食べたな。あとでもう一回食べるか?」
「食べるー」
「よし、わかった」
「お坊っちゃま、これから何をされます?」
「文字ー」
「わかりました。文字のお勉強してからお昼寝に致しましょう。私も仕事がありますからエスナに変わりますがよろしいですか?」
「うん」
「それではお部屋に参りましょう」
「うん。アニナ、ありがと」
「あいよ」
僕は部屋に戻って書取りをはじめた。