修行。
「そろそろ俺の番だな。リョウ、準備しろ」
「はい。今日は槍でしたっけ?」
「そうだナーディル流の槍術を今日は教えてやろう」
「はい。ありがとうございます」
黄金の鎧を着た壮年の男の前に正対して、少年は虚空から槍を取り出し、構える。
「リョウ、基本動作からだ。覚えているな?」
「はい。大丈夫だと思います」
「では、構えろ。もう少し腰を落とせ。よし。いくぞ!突き!…そうだ。前言った通り身体の中心を意識しろ。次は…払い!いいぞ…振り上げ!…振り上げのあとは隙が出来やすいから気を抜くなよ。よし、打ちおろし!最後ブレてるな…気をつけろ。薙ぎ払え!よし。いいぞ!武器絡めからの、突き!敵のイメージをしっかり持ってな。もう一回!…今のはだいぶ意識できてたな」
「ナーディルさんの教え方が良いからですよ」
「そうか。ふふ。では今の基本動作を反復しろ」
「はい!」
少年は言われた通り槍技の基本動作の反復を始め、ナーディルと呼ばれた男が悪いところの修正をしている。少年は反復に集中しはじめ、やがて周囲の事も気にならなくなったようだ。
ナーディルのうしろには五人の男女がそれぞれ椅子に座ったり、地べたに腰を下ろしたり立ったり浮かんだりしながらその様子を眺めていた。
「リョウ頑張ってー!」
「相変わらず素晴らしい集中力ですわね」
「なかなか様になってきてますなー」
「ナーディル、次私だから早く終わってよね」
「ああ、この後稽古して模擬戦を五十回してから代わるぞ」
「五十回!相変わらず鬼だな」
「でもあの子の為ですわよ。時間も少ない事ですし」
「ナーディル様、今日はどこまでやる予定でしょうか?」
「オークウォリアーからゴブリンジェネラルあたりまでかな。イサリナ、頼めるか?」
「かしこまりました」
「ねえねえ。私も頼んで良いかな?」
「構いません。アネーシャ様、的は小さくて素早いものがよろしいでしょうか?」
「さすがイサリナ、それでお願い!」
「まあまあ、すっかり仲良しさんね。」
六人の後ろに一人の女性が現れる。
「あ、お母様。」
「お母さん」
「母上、今日もお元気そうで」
「これはこれは…お仕事は大丈夫でいらっしゃいますか?」
「ええ。ひと段落ついたわ。あの子がちゃんとやれてるか見に来たのよ」
「おふくろは相変わらず心配性だなあ」
「心配というか、お母上様にとって可愛いもう一人の息子ができたような気分ではないのでしょうか?」
「ふふっ。そうね。話を受けて良かったわと思うの。あなた達もあの子に夢中でしょ?」
「違いねえ」
「そうですわね」
「ふふっ。そうだな」
「教える事がこんなに楽しいとはおもいませんでしたなー」
「私男の子って苦手だったけどリョウなら大丈夫ー」
「私の事を聞いて忌避されると思いましたが、リョウ様は偏見なく私の話を聞いてくださります。それがとても嬉しいです」
「そうね、あなたにはいつも損ばかりさせるわね」
「そう言って頂けるだけありがたいと思っております」
「あらあら」
母と呼ばれた女性が目の前を向くと少年の型が大分崩れているのがわかる。疲れによって集中力が切れてきたのだろう。
ナーディルは少年の練習を止め、一旦息を整えさせる。それを皆はニコニコと見守る。息が整った少年は槍を構え直す。
「大丈夫か?」
「はい。よろしくお願いします」
「よし、掛かり稽古だ。どっからでも掛かってこい」
「はい!」
少年はナーディルに向かい駆け出した。