イルミスレイル家
「ふふふ、さすがですわね。ナイジェル様」
ミレイダは贈られた髪飾りを見ながら微笑んだ。
見た目は綺麗な小鳥と蔦と花が組合わさった、絶妙な美しさの煌めく髪飾り。
だがしかし、ミレイダに装着されると。
「まったく似合いませんわ。わたくしの好みの色と髪の色、それに瞳の色を加味して作られていて、着けた時に微妙な野暮ったさを演出してますわ」
等身大が映る鏡の前でミレイダは髪飾りを着けたままクルリとその場で回転した。
「どう?アシュリー。似合わないでしょ?」
隅に控えていた赤い髪の侍女に声をかける。
「真の美しさはミレイダ様の黄金に輝く波うつ髪にございます。髪飾りなどその輝きの一端に過ぎませんが外すとなおよろしいかと存じます捨てましょう」
「まぁアシュリーったら過激ね」
ミレイダは笑顔で髪飾りを外した。
「これを仕舞っておいてちょうだい」
アシュリーは受け取るとジュエリーボックスの中に丁寧に入れる。
例えナイジェルからの貰い物だとしてもミレイダの持ち物には違いないので大切に保管した。
「この髪飾りを入れていた箱も面白いわよね。ナイジェル様の瞳の色よ。そしてリボンは髪の色」
薄紫色をした箱と銀茶色をしたリボン。これは特注品のようで市場には出回っていないナイジェルの色を忠実に再現したもののようだ。
「アシュリー、処分をお願い」
「はい。一片の欠片もなく」
アシュリーは恭しく受け取ると扉の外に出て行き、それと同時にお菓子とお茶を用意したワゴンを押して入ってくる侍女がいた。
「ミレイダお嬢様。お持ちいたしました」
「ありがとう。こちらへ来て用意して」
テーブルの上にクッキーと紅茶が段取りよく置かれていく。
ミレイダは自分の為に用意された紅茶のカップを持ち上げ、香りを楽しんでから口をつけた。
「とてもおいしいわ。アンナ」
「これからも精進いたします」
アンナは優雅にお辞儀をしてから側に控える。ミレイダはゆっくりとした時間を過ごす。
「クッキーも素晴らしいわね」
「料理人が申しますに、今回はクッキー生地にレモンの皮とブランデーを使っていると言っておりました」
「気に入ったと伝えてちょうだい。香りがとても良かったわ。後で料理人に言って、アンナとアシュリーも食べておいてね。わたくしが食べたものを知っていてもらいたいわ」
「かしこまりました。いつものようにそういたします」
「香りや味を共有できるってステキよね。二人が食べた後なら家の者達にも配っていいわ。他の侍女達もステキな時間を送れるといいわね」
満足そうな顔をしてミレイダはもう一つクッキーを食べた。
「ナイジェル様も楽しんでくれていたら嬉しいわ」
炭化しているクッキーを食べている姿が目に浮かぶ。
ミレイダはさらに幸福を感じた。