6話
そのとき、勇真の電話が鳴った。
「何だ、こんな時間に。仕事の斡旋か?」
まだ日付は越えてはいないが、時間帯は深夜になっていた。
画面を見てみると、上田という名前があった。
「上田…。誰だっけ?」
「赤志さんが知らないなら、俺も知らないけど!?」
二人でスマホを眺めている。
「えっと、俺が出た方がいい?」
「何で?」
「今、赤志さんの体なの俺だから」
「ああ」
入れ替わりという超常現象に、対応まで頭が回っていない。
「じゃあ、俺にも聞こえるようにして。全く心当たりなかったら、切ればいいし」
優魔はうなずいて、画面をタップした。
「すいません、赤志さん。今、大丈夫ですか!?」
切羽詰まったような青年の声が聞こえた。
「えっと、誰?」
声を聞いても、勇真は誰か分からない表情をしていたので、そのまま優魔が尋ねた。
「今日、一緒に仕事したじゃないですか!」
ああ、と今日のことを思い返してうなずいた。
三人のうちの誰かはまだ区別できていないが。
「それで、井上からは連絡きてないですか?」
「井上?」
勇真の顔をちらっと見ても、やはり分からないようだった。
「井上も今日働いていた奴ですよ。俺たちに興味ないんですね」
「わ、悪い…」
優魔には全く関係ないのだが、気まずさから謝るしかなかった。
「その様子だと、何も知らないみたいですね」
「何かあったのか?」
比較的勇真の口調を真似て、問いただす。
「井上の奴、食事中今日の現場にスマホ忘れたから、取りに戻ったみたいで。俺たちも着いていくって言ったら、すぐに戻るって。でも、もう終電前なのに戻らないから。電話に出ないから、まだ取りに行けてないのか。取りに行った後に何かあったのか」
心配している様子が口ぶりからうかがえる。
言われた通り、井上からは連絡きてはいない。
今日行った現場、黒い噂のあった曰く付きの幽霊屋敷を思い出す。
怪奇現象が起こり、異様な寒気を感じていた。
あんな場所に深夜に行ったら、何か恐ろしいことが起きているのではないか、そんな予感がした。
「分かった。すぐに向かう」
「待って、誰…」
今の声が優魔だということを忘れ、電話に出て、すぐに切った。
「そんな切羽詰まったような声で。その場所に何かあんの?」
「ああ。気のせいだといいんだが」
勇真は家を出ようとするが、扉の前で立ち止まる。
「優魔の姿だと、補導されるかもしれないよな」
「それなら」
とんがり帽子を投げ渡す。
「それ、魔法道具で魔法を知らない一般人に対して、不可視の効果あるから」
「ありがとう」
いつものスニーカーを履こうとするが、緩いことに気づいた。
「だから、赤志さんが履かないといけないのは、こっちのブーツだって。かなり動揺してる?」
「悪い…」
「俺も着いていくよ。魔法使いの卵の子供の体だってこと、赤志さんはまだ慣れていないみたいだし」
「助かるよ」
二人で家を飛び出して行った。