3話
普段見慣れない言葉を、じっくりと見る。
「んなまじまじと見るほどでもないだろ。一般人でもあるまいし」
そのことを言った途端、少年はじっと勇真をにらみだす。
「おっさんも出してよ、免許証」
「え…」
この場における免許証というのは、自動車の免許証ではないということは分かっていた。
「おっさんの年齢くらいなら、箒免許持ってんだろ。俺達にとっての箒って、一般人の自転車レベルだけど、事故も多発しているから、俺が生まれた頃くらいに免許制になったから」
「へ、へえ…」
魔法使いというファンタジーの存在の割には、安全性が高い。
「ふーん。そのことに納得するんだ」
「やべっ」
口を滑らせたことに気づいた勇真は駆け出そうとする。
「逃がすかよ!」
少年からどこからか黒いロープが飛び出てきて、勇真を捉える。
「んぐっ」
そのことでとっさに身動きが取れず、転がっていく。
「大人しくしてくれない?」
「そいつはお断りだな」
勇真はロープを引き裂く。
「は!?」
少年は驚きで大声を上げる。
「あいつ、何て馬鹿力だよ」
そう言っている間に勇真は逃げていく。
「これ使うと、魔力消費するからあまりやりたくなかったのに」
少年は黒い煙とともに、真っ黒な弓矢を出す。
「何てもの向けてきてるんだ、あのガキ!」
「これ、魔力の塊だから、目的のもの以外は傷つかないよ」
びゅんびゅんと矢が飛んでくるが、勇真の際際をすれ違ったり、避けたりして当たらない。
そして、壁をすり抜けていく。
「下手くそ!」
これなら逃げられそうだと安心した途端、足が進まなくなった。
それより、体全体が動かなくなった。
「ぐっ。何だよ、これ」
見えざる力によって、体が硬直させられてしまった。
「はあはあ」
息切れしながら、歩いて少年はやってくる。
「お前何でそんな疲れてんだよ」
「この弓矢使うと、魔力やら体力やらいろいろ消費するの」
「それで何をやったんだ?」
少年は勇真の影を足でたんたん踏みつける。
「あんたの影を固定したんだよ」
勇真の影に矢が一つ刺さっている。
「この弓矢は刺さったものにまつわる全てを動かなくさせる。あんた本人に刺されば楽だったけど、影に刺しても有効なんだよ」
「命を狙う気はなかったんだな」
そのことにホッと一息つく。
「当たり前じゃん。一般人を殺したりなんかしたら、箒免許証剥奪されるし、魔法使いじゃいられなくなる」
話を聞いてから、矢を抜こうとするが、全く動こうとしない。
「無駄だって。おっさん、すげえ馬鹿力だから物理だと捕まえるの難しいかもしれないけど、一般人なら魔法よく分からないから、解く方法なんて分からないだろ」
「さっきから言ってる一般人って、何だよ」
「俺達魔法使い以外の魔法を使えない知らない普通の人たちのこと。さて、詳しい話を聞かせてもらおうか」
少年は窓際に座り込む。
「ふー、疲れた」
「え、俺このまま放置?」
勇真は床に寝転んだままである。
「ちょっとでも、矢を外したらどうなるか分からねえからな」
足を組み、サッシに視線をずらす。
「え、何で魔法石がこんなところに?」
サッシの上にあった透明な石を取り上げる。
「それ知っているのか?」
「一般人なら知らなくても無理ないか。これは魔力がこめられている魔法石。魔力が少ない人とかが日常生活で使ったり、危険なところで魔力切れを防ぐときに使ったりする」
アニメやゲームでよく聞くような魔法石と同じかと勇真は納得する。
「だから、お前の姿が見えたのか」
「あー、なるほど。このケープとか帽子は一般人に見られない効果があるから、気にせず飛んでいたのに、おっさんに見られたからあせったんだよ。この魔法石に魔法効果をはじく機能があるんだな」
魔法使いだとバレちゃいけないなら、空飛ぶなと反論しようとしたが、本来なら見えないはずだったと言われてしまった。
「一般人と一緒に通っていた学校に落ちていたりもしたからな。上の人にはちゃんと調査をしてもらいたいものだ」
「だったら、俺は悪くないだろ。お前のこと言い触らしたりなんて、絶対しないから。解放してくれ!」
勇真は必死に叫ぶ。
まず、周りに魔法使いを見たとか言ったとしても、勇真が頭がおかしくなったと思われるだけだ。
それに、秘密を守ることの大切さは、勇真は身を持って知っていた。
「さんざん逃げようとした奴を信じられるかっての。あんたには、魔法使いに関する今夜のこと全部忘れてもらうから」
「それだけ、か?」
「何?命でも取られるかと思った?基本魔法使いと一般人は共存しているんだから、むやみやたらに殺したりしねえよ」
「お前が安心できるなら、それでいい」
冷静に言い繕っているが、内心安堵していた。
殺されるとなったら、抵抗するつもりではあったが、そのときにこの少年の安心を保障できるか分からなかったからだ。
この少年はやらないといけないことをやろうとしただけで、悪ではないのだから。
「記憶操作の魔法かあ。魔法辞典は重いから、新しいのこっちで買おうと思って、前のは父さんに預けちゃったんだよな」
少し雲行きが怪しくなってきた。
「スマホで調べよ」
「出てくるものなのか?」
「魔法使い用のスマホだから」
ポチポチ打ちこむ。
「こういうのって、上の人たちが対応するものじゃないのか?」
「そんなことしたら、俺もバレるじゃん。監視程度ならまだいいけど、魔法学校に入れなくなったら困る」
これかな、と探していたものが見つかったようだ。
「えーと、失敗したら廃人になる可能性が。まあ、俺なら大丈夫か」
「いや、物騒なこと言ってるよな!俺が大丈夫じゃない!」
「まあ、記憶全部なくなったら、俺が仕事紹介してやるよ」
「失敗する前提じゃねえか!」
叫んでこの後起きる展開を避けようとするが、スマホに載っている呪文を唱えていく。
(くっ、ここまでか!)
目をぎゅっと閉じ、覚悟を決める。
そのとき、二つの魔法石が白く光り、辺りが真っ白で何も見えなくなった。




