13話
突き飛ばされた先は蜘蛛の糸で閉ざされた扉であった。
その糸に貼り付けられ、また背中を打ちつけた痛みで優魔は動けない。
「赤志さん!?」
「井上はここに隠れてろ。絶対出てくるなよ!」
勇真は優魔のもとへ駆け出していく。
「あ、赤志さん…」
痛みをこらえながら、弱々しい声を出す。
「赤志さんの体、さんざん傷つけちゃって、ごめん」
「んなこと言ってる場合か!むしろ、今痛い思いをしているのはお前だろうが」
糸を引きちぎって、優魔を下ろそうとするが、糸がもともと固いことと、勇真の体と比べて優魔の体は非力なため、力が出せない。
「俺、ここから動けそうにないかも」
「ああ。早く外してやるからな」
「だから、井上さんと逃げて」
その言葉を聞き、一瞬黙り込んでしまう。
「お前、何言って…」
「井上さんを探したとき、裏口あるの見たでしょ。俺を相手にしている間、時間できるから、その間に」
「優魔を見殺しにしろって言うのかよ」
絶望に満ちた表情になり、うなだれる。
「ごめん、元に戻せなくて。俺の体で生きてもらうことになる」
「そうだ、元に戻れば」
強くすると、致命傷を与えるかもしれないと思い、痛くない程度にお互いの額を打ちつけあう。
「戻れ戻れ戻れ」
必死に、願いをこめて。
「赤志さん、あの蜘蛛来ちゃう」
「戻ってくれよ」
勇真は崩れ落ち、目から大きな涙がこぼれ落ちる。
「俺が助けに行くってい言ったから。今の俺には何もできないのに」
無力な自分に絶望するしかない。
「それでも付いていくって決めたのも俺だから」
優魔の言葉に耳を傾けるため、顔を上げる。
「助けを待つだけの自分が嫌だった。あの日助けてくれたあの魔法使いみたく、誰かを助けられる誇れる自分でありたかったんだ。例え姿が変わったとしても」
その人は魔法使いじゃないし、憧れられるような存在じゃないと、本当は言いたかった。
「ここで全滅したら、本当に後悔しちゃうからさ。早く行って」
ここで自分の身を犠牲にする生き方のために、助けた訳じゃない。
それでも、優魔の中にいるのは、自分で自分を誇ることができた最高だった自分だ。
そんな自分を召喚できれば、この場は切り抜けられるはず。
涙をぬぐい、立ち上がる。
「今は資格がうんぬん言ってる場合じゃない」
覚悟は決めた。
振り返り、巨大蜘蛛と対峙する。
そのことに、優魔も気づいた。
「俺の体で無茶…」
「エブリバディチェンジ」
そう唱える。
ここには変身道具もない。
優魔の体には、変身できるだけの魔力はない。
でも、勇真にとっては、勇気を奮い起こす言葉であった。
「エブリバディチェンジ?」
勇真がどうしてそんなことを言ったのか分からず、優魔は思わず復唱する。
そうすると、心の底に火が灯ったような感覚がする。
その火が体中に広がり、炎となり体を熱くする。
「何、この感覚…」
異様な感覚だったが、不快は感じなかった。
むしろ馴染み深く感じた。
「え?」
勇真の姿は変わらず、優魔のままである。
しかし、その周りに炎がメラメラと燃えているように見える。
それが、昔優魔を助けてくれた魔法使い、全身が赤い装束で、ヘルメットをかぶり、そのヘルメットの目の部分はシールドがあり顔は下半分しか見えない。
その人が重なった。
「燃える心臓、レッドハート!」
決めポーズを取る。
「みんなを守る、みんなで守る。我ら」
「「「エブリバディーガーディアンズ!/…」」」
ファンの井上は興奮して、優魔は昔をなぞるようにともに言う。
「あの子、再現度高いッスね!」
憧れていたヒーローを10年ぶりに再び見れたような感覚で、興奮が収まらない。
「赤志さんがあの時助けてくれた魔法使いだったの?」
そうつぶやく声は、勇真にも井上にも遠く、届かない。
「気持ち、高まってきた…」
拳を握り締める。
(あの武器、俺がどれだけ見て、使ってきたと思ってたんだ)
勇真の両手の上で風が巻き上がる。
もやがだんだんと形作っていく。
そして、ベースが白く、パーツに所々赤く塗られたライフルが現れる。
「久しぶり、相棒」
懐かしい目をして、眺めていた。
「エブリバディガンだ!」
井上は子供の頃に戻ったように、わくわくが止まらなくなっている。
優魔も目をきらめかせていた。
(すごい疲労感がする。これが魔力を使った結果なのか?)
はあはあ、息を荒くしている。
「1人しかいないけど、一撃でやられてくれよ」
エブリバディガンのトリガーに指をかけ、構える。
「ハートショット」
静かに言い放ち、弾丸が飛び出す。
撃ち出した威力に耐えられず、反動で銃口が天井に向くように、跳ね上がる。
蜘蛛に真っ直ぐ向かっていった弾丸は、弱点の心臓に打ち込まれる。
「グギャー!」
蜘蛛が悲鳴を上げると、爆発が起きる。
その威力で蜘蛛は焼け、遺体すらも残らず、灰をまき、消えた。
「やったか」
勇真は疲れでその場に座り込む。
蜘蛛が消えたことで、糸も消え、優魔も解放される。
「大丈夫、赤志さん?」
勇真のもとへと駆け寄る。
「おう!これくらい平気平気」
腕をぶんぶん振って、無事なアピールをする。
パチパチと音がする。
その音の方を見ると、蜘蛛が消えたあとも、炎が残り、屋敷に飛んでいた。
「これはやばい?」
優魔が冷や汗を流し、顔を引きつらせると、
「に、逃げろー!」
勇真が叫んだ。




