11話
「こ、これッス!俺が怪我したのは」
どこから飛んできたのか、周りを見渡す。
「いた」
勇真がにらみつける。
人の背丈ほどの蜘蛛がいた。
「そこにいるの?やっぱり、俺には見えなくて」
勇真と同じ方向に視線を向ける。
「いるぜ。バカでかい蜘蛛がな」
「でかいって。こんな街中でそんな魔物が出てくることなんてないのに」
「でも、見上げるくらいの大きさなんだよ。かろうじて今のお前くらいじゃねえの」
「そんなのますます今の俺には太刀打ちできない。早く外に出よう。扉さえ閉めれば、開ける器用さなんてないだろうから」
そう言うと同時に蜘蛛の足の攻撃を避けたときのしゃがんだ態勢から立て直し、玄関の扉に向けて駆け出していく。
しかし、蜘蛛も獲物を逃がしてたまるかと、糸をしゅるしゅる吐き出す。
それは、扉全体を覆うものだった。
「は?何でいきなり蜘蛛の糸が」
話を聞いておらず、魔物が見えない井上はいきなり出口が閉ざされたことに、驚きと恐怖をあらわにする。
「この糸は見えているのか?」
「うん。魔物が放つ炎や水の攻撃とかは一般人でも見れるみたい。この糸粘り強いし、簡単に扉は開かなそうだ」
糸にペタペタ触り、強度を確認する。
「じゃあ、俺たちで何とかするしかないのか?」
後ろを振り返り、魔物の蜘蛛を見つめる。
物陰に隠れて、どうするかの作戦会議のために、井上を下ろす。
「俺があいつに攻撃して、ひとまず時間稼ぎを」
勇真が立ち上がる。
「待って。自分で言うのもなんだけど、その貧弱な体で適うわけないでしょ。戦闘経験なんてほぼないんだから」
「そっちの体だとしても、魔物見えないんだから無理だろ」
「そうなんだよなあ」
困って、頭をがしがしかく。
「元の状態なら、俺がそのまま魔法使えたのに」
「今の俺には無理なのか?」
「その体には魔力はあるからできないことはない。でも、想像力が必須だから、初めて魔法を使おうとしても、コントロールが難しくて、最悪暴走して、俺たち共倒れ」
はあ、とため息つく。
「俺が魔法使えるなら、一発逆転可能か?」
「そうかもね。とりあえず、武器召喚してみて。それなら、まだ可能性あるかも」
「武器って。お前が家で使っていた?」
勇真は捕らえられたことを思い出している。
「そんな一度しか見てないものを再現するなんて、無理でしょ。日本って、アニメやゲームの国なんだから、そこに出てくる剣とか銃とか思いつかない?」
「別に俺はそんなに見てきてないから」
蜘蛛がカサカサ探して、動き回る音がしてくる。
「このままじゃ、いつか見つかるだけか。俺、出てくる」
「いや、見えないんだろ!」
「今は音が聞こえるし、気配も少しはつかめてきた。本当に必要なときは、勇真さんが教えて。この頑丈な体なら、少しは何とかできそうな気がする」
そう言って、物陰から出ていく。
「見えないのに、無茶だろ」
巨大蜘蛛の前に、優魔が対峙している。
「このパワー借りるよ、赤志さん」
真っ直ぐパンチを向けていく。
「よし、手応えはあり。でも、悲鳴が聞こえないから、弱っているかは分からないな」
今度は巨大蜘蛛が鋭い脚を向けてくる。
「よし」
頬をかすったものの、避けることができた。
「今のギリギリだったろ!」
「感覚は掴めてきたから、赤志さんは何か召喚することに集中して!」
「でも、武器なんて…」
ファンタジーに出てくる剣、刑事ドラマに出てくる銃を頭に思い浮かべる。
両手の中に、白いもやが浮かんでくるが、それはまだ形を作らない。
「っくそ。何を出せばいいんだ」
「あのー」
申し訳なさげに、手を挙げて主張する井上。
「断片的にしか聞こえなかったんだけど、何かイメージしたいなら、俺がスマホで探しておくッスけど。見た方がイメージしやすいだろうし」
「それは助かる!」
鮮明に頭の中の画像は見えてると思うが、やはり実物を見る方が勝る。
「俺が最強の武器探すからねー」
怪我した手は動かせないので、片手で調べていく。
井上が探している間は、今頭に浮かんでいるものでやっていく。
最初は楽観的だった井上の顔が、だんだんとしかめっ面になっていく。
ふと視線を優魔にずらすと、巨大蜘蛛が優魔に向かって、糸を吐き出していた。
「優魔、避けろ!」
集中力が弱り、もやが薄くなる。
しかし、その言葉は間に合わず、糸で巻かれてしまう。
「っう…」
苦しそうな声が漏れる。
「今、助けに…」
「いいから!」
優魔が叫ぶ。
「自分の体の異常な頑丈さ、信じなよ」
拳を握り締め、糸を引き剥がす。
「まあ、ちょっと引くけど」
優魔が逃れられたことに、ほっと一息つく。
「うわー、もう見つからない!」
井上が大声を上げたので、振り返る。
「こっち見つかるかもしれないから、静かにしろ」
「やっぱり、10年前だからかな」
「お気に入りのアニメかなんかか。悪いが、こだわってられないから、別のにしてくれ」
「まとめサイト残ってないな。まあ、上がっていた動画だいたい盗撮だからな。動画サイトでドキュメンタリーやっていたときの残ってないかな」
「お前、話聞いてないな」
命の危機が迫っているので、のんきに見えるその態度に、怒りで少しこめかみがピクピク動く。
「あのさ、優魔くん」
「何?」
井上は真剣な表情をしていた。
この場では、正しいはずなのに、この次に続く言葉に何か嫌な予感を感じている。
「エブリバディーガーディアンズって知ってる?」




